土屋肇(つちやはじめ)
「彼女にするなら絶対少女だろ!」
昼食の時間、前でパンを頬張っていた島崎勇樹が俺に叫ぶ。少女への拘りがある男は少なくない。恐らくほとんどの少年たちは少女たちとの交際を望む。事実、俺も先日まで少女と付き合っていた。
「どうでもいいよ。」
投げ捨てた台詞への返答を待たず、俺は唐揚げを摘む。文句ありげな島崎が説得を諦め周りに賛同を求めて同じ台詞を投げかける。帰ってくるのは賛否両論ではなく参単論。教室の端で盛り上がる島崎達を聴覚から断ち切り、携帯を見つめる。送ったメッセージに返事が無いことを確認するだけのこの作業を、ここ5時間ほど繰り返している。
「肇の元カノだって少女だろ」
ゲスな顔をこちらに向ける島崎を無視し、携帯の画面をロックする。ため息を堪え、握っていたペットボトルのお茶を一気に飲み干した。
先日、元カノに振られてから、未練が残っている俺は何度か振られた彼女に連絡するも、10:1の比率でしか返事がない。
『あなたはもう穢れてしまった』
少女の彼女は俺にそう告げ、別れた。
成人になったと喜んで彼女に報告したのがこのザマである。黙っていればよかったのか。自分は穢れなき存在だと言いたいのか。愚かだと思った。彼女も、自分も。
窓から見える彼女の居る学院を見ながら抑えきれないため息が溢れる。ここの大学から学院への抜け道、彼女と帰った道、彼女の顔、彼女の口から発した言葉、全て覚えてしまっている。実に愚かであった。
『少女よ、永遠に少女たれ』の言葉とは違い、少年の成人化は特に意味はなく本人達も何も気にしていない。寧ろ喜ばしいと思う者が多かった。男女の想いの差は広がっていく。これが彼女と別れた原因にしたいところである。今は自分を肯定してみよう。
少年でない俺に彼女は興味が無い。少女である彼女の世界は穢れの一つも許されないのだろう。そういうことだ。
「穢れ、ね…」
「どうした?大丈夫か、肇。」
「大丈夫、大丈夫。綺麗好きだから、俺。」
「は?」
おそらく、俺が彼女に会うことは二度とないのだろう。