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少女よ、永遠に少女たれ。  作者: 有間千
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藤林幸千代(ふじばやしさちよ)

彼女は完璧な少女であった。

学院の中庭に一人佇むのは、『麗しの少女』と言えば学院生徒の周知である存在、東條詩織。陶器の様でありながら透き通った白い肌に、艶やかさと気品という相反するものを何故か共に想像させるを紅い唇。赤子の髪の毛のように細く絡みの無い黒色の真っ直ぐと伸びた長い髪。老婆に騙され毒の果実を口にしてしまった愚かな姫そのものである。彼女の愚かさはまだ誰も知らない。もちろん、私も。


私はこの私立の中高一貫校に通う、佐藤幸千代。幸福が千代に八千代に続くようにと、祖父母が名付けたこの名は年頃の私には不服であった。4年生である私が、6年生の東條を見かけることは学校生活でほとんどない。クラスメイトたちも、学年一噂になっている麗しの少女を見て小さく黄色い声を上げていた。唯一、興味無く凛と前を向き私の隣を歩いくのは、友人の森絢香だ。絢香は平凡な私からすれば美人で頭も良く、私に対しては性格の悪い態度を取らない。


「たかが少女ひとりになにを騒いでいるの?」


クラスメイトに一喝する絢香。廊下を歩いていたクラスメイトたちの間の空気が一瞬凍りつくのを感じたが、絢香のハッキリとものを言う性格は今更なので慣れている。注意された浮き足立つクラスメイトのうちの誰かが、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言い返す。


「先日成人された森さんには分からないのよ、かの少女の麗しさは。」


絢香は私達クラスの中で唯一の成人である。愛する我が国の成人の制度は初潮もしくは精通が来た者とされた。原因不明の成長期の遅延化によって、成人の平均年齢は15-17歳。先日絢香は初潮を迎え成人となった。嫌味を言うクラスメイトを無視し絢香は私の手を取り移動教室へと向かう。彼女達は知らないのだ。成人を迎えた時、絢香が私に恐怖と寂しさを訴えながら涙したことを。恐らく来月の新学期には絢香は成人クラスへ移動となる。私も寂しさで胸がいっぱいになり、涙する絢香を抱き締め一緒に泣いた。


移動教室で授業を聞きながら、東條の姿を思い出す。人形のような顔立ち。彼女は6年生唯一の少女であった。もはやその初潮の遅れこそが彼女の魅力そのものであり、崇拝される理由であった。


誰かが囁く。穢れなき少女。

誰かが妬む。実は成人ではないか。

誰かが呟く。少女よ、永遠に少女たれ。


祝成人。大人達は声を揃えて嬉しく叫ぶが少女たちにとっては、少女であることが特別であり、妖精の如き存在意義であるという考えが広まっていた。美しく、清らかで、麗しいと。角の生えた馬たちが是非とも跨って欲しいと頭を垂れるだろうと。愚かな考えだと私は思うと絢香に言ったが、成人を迎えた彼女を羨ましいとは全く思わず、私にはまだ来ませんようにと何度も信じぬ神に祈り、何度も心の中で彼女に謝った。


そんな考えが集まる学院は女子校であるからか、東條への尊敬と崇拝の眼差しは高まるばかりであった。


中庭で佇む東條はまさしく妖精であり、特別の存在。誰もその世界に踏み入れることが出来ない遠い人。彼女に触れるなんて恐れ多いが誰もが望むことだった。しかし、それも少女であるからであり、彼女が成人になってしまえば他者からの想いも、存在意義も、その麗しさもすべて消え失せるだろう。


ふと、思い出す。あの時、彼女と目が合ったような気がした。

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