26 ガリギュアと魔物
魔物の力は強く、性質は凶暴極まりない。原則として人間には手を上げないが、敵と認識した場合は別である。禁忌を犯した対象には、人間であろうとも容赦はしない。
しかし、訓練された兵士ではない。
ガリギュアは囲まれてはいても、絶望はしていなかった。
隙を突けば、逃げられる。
モーデルを置いて行くのは忍びなかったが、モーデルは魔物に狙われていはいない。回復しさえすれば、自分の身ぐらいは守れる女だ。
樵が使う斧を振り回した魔物の一撃を避け、脇腹を薙ぐ。
革の鎧を着込み、皮膚も厚いので、致命傷を与えるには突いたほうが確実だが、剣が抜けなくなるのを恐れた。
魔物は傷ついても怯まない。それをわかっていれば、対処は難しくない。
唯一の問題は、一撃をもらったら身動きできなくなるほどの力の強さだ。
攻撃をかいくぐりながら、剣を振り回さなければならない。魔物に疲労があるとしても、ガリギュアより先に疲れることはあり得ない。
逃れる隙を探し、剣を振る手も、次第に重くなってきた。
ガリギュアの真横に、破壊された窓の木枠と周辺のガレキが落下した。
ガリギュアに向かって棍棒を振り下ろそうとしていた魔物が絶命したが、礼を言う気にはなれなかった。
「気をつけろ! この間抜け!」
「あっ、悪い」
上から降ってきたシリウスは、珍しく詫びた。
ガリギュアはシリウスの詫びなど欲しくなかったが、すぐに気づいた。
シリウスはガリギュアの怒声に詫びたのではなく、予定外に殺してしまった魔物に対して詫びたのだ。




