10 騎士たち
夜が明けた。
騎馬の一団と共に、金の術者ガリギュアが要塞の正面に立った。少数の騎馬隊で、中央の身分の高い男を守るように、円を描いていた。ガリギュアは徒歩で従い、陣形からやや離れていた。
「静かだな。要塞に被害はなかったように見られるが」
中央の男が言った。装甲、飾りからして、かなりの身分だと思われる。ガリギュアは男の身分を知らず、推測するような知識もなかった。
「要塞はほとんど岩でできています。岩は焼いても姿を変えません。ですが、中の生物はひとたまりもないはずです」
ガリギュアは、精一杯に丁寧な言葉を使おうと試みた。上手くいっていないことは解っていた。恭しくしようという態度だけでも、伝わればいいのだ。
「見て参れ」
「では」
真っ先に動こうとしたガリギュアを、中央の男が制した。先頭の騎士二人が馬から降りた。
「ガリギュアも行きなよ」
耳元でささやかれ、金の術者は慌てて見回した。誰もいない。声の正体に、すぐ気がついた。
「ティエラ、どこだ?」
「ここ」
耳元に、息が吐きかけられた。光の術者ティエラだ。一族の問題児と見なされ、疎まれている。なにより、奔放な性格と通常の社会で盗賊として生業を立てている事実による。しかし、その分実戦にすぐれ、術の応用力と現場での判断力は誰も及ばない。光の屈折を利用して、容易に姿を消せるのはティエラぐらいのものだ。
「止めろ」
性格が奔放なのはあらゆる面に及ぶ。緊張感のない性格だとも言える。ガリギュアが慌てて耳をかいたのは、実際に気持ちよかったからである。
「冗談だよ。光を操っているから私は他の人間には見えない。それより、騎士さん達と一緒に行かないと。可愛いモーデルちゃんが心配だろ?」
「そんなこと……だが……勝手な行動はできない」
「これならいいだろ? 誰もガリギュアのことなんか気にしていないからさ」
視界が歪んだ。おそらく、光の術者ティエラが光の屈折を調整し、ガリギュアの姿を隠したのだ。ガリギュアが姿を消したことに気付いたのは、一団の中では隣に立つ軍馬だけだった。悔しいが、ティエラの言うとおりだ。
「ティエラから離れても、効果が続くのか?」
「それほど器用じゃないよ。私も一緒に行く。それならいいだろ?」
女の柔らかい手が、ガリギュアの尻を撫でた。ティエラの位置がわからず、やり返すことができなかった。ガリギュアは足音に気をつけることも無く、騎士たちを追いかけた。誰にも気づかれないというさびしい状況は、現在のガリギュアと精霊使いの立場を象徴していた。




