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補足

 「あれ? お客さんかい?」


 カエルにサタが一通り話していると、そこに人間というには少々背が低くて、それでいて小人というには大きい中くらいの男が歩いてきました。


 「マンさん、ですよね? はじめまして」

 「ああ、そうだよ、カエルくん。オイラは二番目のマン。サタに聞いたかもしれないが、サンほどカッコよくなれなかったから、こうやって裏方をやってる」

 「? よく意味が分からないんですが」

 「人間ってヤツには背丈がいささか足りなくてね。俺よりサンが売った方が売れ行きがいいのさ」


 云いながら、マンは慣れた様子で木を登り、背中に結えたカゴに実を入れて帰っていきました。

 サンよりカッコつかないのさと話しつつ、気持ちよさそうに額に汗して働くマンに掛けられる言葉を、カエルくんは知りませんでした。


 「ええっと、どこまで話しましたっけ?」

 「フライさんが悩んでて、ウェンズさんとサタさんが木の実を植えた所までです」

 「なら、ほとんど終わりだね。そのあとは十年間、ずっとマンが実を取りに来て、チューズがたまに手入れして、サンは魔法使いが住んでいた家を販売をしている。仲良くやってるみたいだ」


 なるほど、とカエルはキノコをもう一口食べて、気付きました。


 「? 十年間?」

 「ああ。十年前の話だから。十回春が来たけど、まだ出ないんだ」

 「それはまた……ところでフライさんは? 食べたんですか? それとも植えたんですか?」

 「フライはまだ食べてないよ。サンやマンと一緒に経理をやってる。小さいままでソロバンを頑張ってるみたい」


 フライが十年間悩んでいても実は傷まないし、腐りもしないんだってとサタは付け加えた。

 もしも傷んだり腐ってくれるなら、それを機に食べるなり埋めるなり選べるんだろうか、そうカエルは思った。

 何かを待っているのだろうか、フライという人は、自分の可能性を自分で試そうとはしないのだろうか。


 「それなら、ウェンズさんは? 近くに木はチューズさんのしかないみたいですけど」

 「……死んじゃった。去年、冬を越せなかったんだ。死ぬ寸前まで……地面に肥料を巻いたり、水をあげたりしてたよ」


 よく見れば、墓が有った。

 大きなチューズの木とサタの種を植えた場所のちょうど間。

 ひっそりと今にも芽が出るかと覗き込むように少し曲がった墓標が立っていた。


 「じゃあ……それから、ずっとひとりで、ここに?」

 「うん。ちゃんと水をあげたいし、居ない間に動物に掘り起こされたら大変でしょ?」


 カエルの大きな眼は、ボロボロの衣服の下、チラチラと傷が映っていた。

 サタの小さい身体には不釣り合いなほどに大きな傷が残っている。

 たまにチューズやマンが来る以外は、サタは孤独に動物や天気と戦いながら生きていたのだ。


 「お疲れ様です。それでは……何かお手伝いできることはありますか? 素敵なお話を聞かせて貰ったお礼がしたいのですが」

 「ありがとう、カエルくん。でも、大丈夫だよ。僕の実は明日にでも芽を出すからね」

 「? そうなんですか?」

 「うん。なにせ十年待ったからね。きっとそろそろなんだよ」


 くたびれながらも、サタは輝くような笑顔でそう云った。

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