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 あるところに魔術師が居ました。

 その魔術師はとても強い力を持っていましたが、とても面倒くさがりでした。

 手紙を書くのが面倒だからと友達をほとんど作らず、歯磨きが面倒だと云って魔法で自分の歯を全て入れ歯にしてしまったり、

 眠るのが面倒だと云っては眠らずに済む方法はないかと考えながら眠ってしまうような男でした。



 魔法使いは日曜日に糸と麻を買ってこないといけないと気付くと、魔法を使って小人を生み出しました。

 「サンデーに生まれたから、お前はサン」

 サンと名付けられた小人は糸と麻を買いに行きました。

 翌日、魔法使いはお風呂を入れないといけないと別の小人を生み出したりし、一週間の間に合わせて七人の小人を生み出し、それぞれに仕事を与えました。

 しかし、八日目に思いました。


 「生きているのも面倒だし、生きているのをやめよう」


 そうは思ってはみても、死ぬのは少しばかり不安でしたので、魔法使いは先週生み出した小人たち七人を呼びました。


 「小人たち、俺は死ぬのが面倒だから、七つの木の実に姿を変える。俺をどうするかはお前たちに任せる」


 魔法使いは小人が何かを言うのを待たずに自分に魔法を掛けて、その姿を変えてしまいました。

 後に残ったのは、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つの実だけでした。


 「なんだいなんだい、こいつは一体どうしたことだ?」

 「そっだらごと、わがんね」

 「どちらにせよ、魔術師に使われるよりかは良いのではないか、少なくとも自分でしたいことが決められる」


 七人の小人は、それぞれ七つの実をひとつずつ選んで受け取りました。

 生まれた順に虹の順、それぞれが実を背負って家から出ていこうとしましたが、そこで日曜日生まれのサンが云いました。


 「俺はここで食べてしまうことにするよ。持って運ぶのは大変そうだし、なにより美味そうだ」


 悩みもせず、自分のアイデアを信じてサンはガブリと赤い実にガブつきました。

 するとどうでしょう、サンの身体が見る見る内に大きくなり、魔法使いと同じくらいの背丈になりました。


 「おいおい、それは良いじゃないか! オイラもそうしよう!」


 サンに続いて、月曜日生まれのマンが橙々色の木の実を食べると、その体は大きくなりましたが、サンの腰ほどの背丈で止まってしまいました。


 「サン、どうしたことなんだい、オイラの背丈はどうしてこんなに寸足らずなんだい?」

 「そんなこと俺に聞いたってわかるかい。すぐ食べなかったからか、実の種類が違うのか、お前の体質か」


 マンの言葉に、他の五人の小人はすぐに食べようとはしませんでしたが、そこで火曜日生まれのチューズが云いました。


 「サンにマンよ、とりあえず我々を近くの森まで連れて行ってやくれないか? お前たちのように大きいならともかく、我々小人は森の中と相場が決まっている」

 大きくなったサンと中くらいになったマンは軽々と五人を持ち上げて、近くのひし形葉っぱの木がたくさん生えている山まで連れて行きました。

 森に到着すると、チューズは自分の黄色の実を土に埋めました。


 「一体全体、どうしたって云うんだい? チューズ?」


 四番目・水曜日生まれのウェンズは不思議そうにチューズの様子を見ています。


 「一度食べたら終わりなんてもったいないだろ? でも植えたらたくさんの実が食べられるじゃないか」

 「そんなの何日掛かるっていうんだい、実が出ないかもしれないじゃないか」

 「植えてみなくちゃわからないじゃないか」

 「出ないに決まってるよ。バカだなぁ、チューズは」


 ウェンズが話している間に、チューズの植えたところから芽が出ました。

 その芽はウェンズがチューズのことをバカだとか、何も考えていないとか云っている間にどんどん伸びていきました。

 そして、見る見るうちに黄色い実を付けたのです。それを見てチューズは云いました。


 「サン、試しにこの木を登って、いくつか取ってみてくれないか。食べてみよう」

 「良いだろう、良いだろう」


 一番大きいサンはスイスイと木を登り、ポケットに美味しそうな実を七つ選び、みんなに配りました。


 「こいつはなんとも美味いじゃないか」

 「さっきオイラが食べた橙の実とは違うが、これは美味い。上等だ」

 「赤の実とも違うが、甘くてすっぱくて、いくつでも食べられそうだ」


 みんなニコニコと実を食べて、食べ終わるころには枝に新しい実がいくつも付いていました。


 「なあ、どうだろうか。チューズよ。俺やマンもこうやって大きくなってしまった以上、仕事というのをしなければならない。この木の実を売ってカネに替えさせてはくれないか?」

 「もちろん構わないさ。我々は兄弟じゃないか。一緒に楽しくやろう」


 チューズの言葉にサンとマンは喜びました。

 労働という行動の仕方が分からなかったものの、ふたりとも生きていくためにそれが必要であるとは分かっていたからです。

 その様子に、さっきまでバカにしていたウェンズも、いそいそと自分の青の実を植えました。


 「私の実もすぐ芽を出すぞ! そしたらサン! マン! 私のも売ってくれよ! 儲けたい!」


 そのあともウェンズがまくし立てましたが、一向に青の実は芽を出しません。

 すぐに出るぞ、今すぐでるぞ、さあ出るぞ、おい出ろよ! ウェンズはダメだと思いたくないのです。

 バカにしたチューズにできたことが自分ができないなんて思いたくなかったのかもしれません。


 「すぐに出るんだ! 出るはずだ! なんでだ! おい!」

 「……一個ずつさ、ちげぇんでねぇの?」

 「そんなこと云うな! 私の実は必ず出るさ! 待たせた分だけ、とっても美味しい奴が! 私の実はチューズより美味しい! 待った分だけ! そうに決まってる!」

 「……儂さ待ってらんね。食っちまうべ」


 云った木曜日生まれのサーズは緑色の実を食べました。

 すると、サーズの身体は大きくなるのと同時に変形していき、猛禽と呼ばれる、大きな鳥の姿になりました。


 「じゃあ、儂さ、こんまま飛んでくわ。おめたち仲良くしとけ」


 サーズはバタバタと羽ばたき、どこかへと飛び去ってしまいました。

 仕事や人間としての生活よりも、世界を見てみたかったのでしょう。

 実を食べて大きくなったサン、中くらいになったマン、木が育ったチューズ、芽が出るのを待つウェンズ、鳥になったサーズ。

 残っているのは六人目と七人目、フライとサタです。


 「ねえ、どうする? サタはどうするの?」


 フライは悩んでいる様子でしたが、サタは「僕も植えてみるよ。チューズのより大きい木を育ててみたいんだ」

 ウェンズの位置を中心に、チューズの木の対角線になりようにサタは自分の木の実を植えてみました。三本が生えたときに並んで立つようにしたいようでした。

 最後に残されたフライは決めかねていました。食べるべきか、植えるべきか、迷って迷って終われないのです。

 フライが迷っている間も、ウェンズとサタの木の実は、出るそぶりが有りませんでした。


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