王剣と選定試験
「ごちそうさまでした! 美味しかったですレイリンさん」
いままで食べたことがないような食材でお腹を満たし、満足した俺は料理を作ってくれたレイリンにお礼をいう。どういたしましてとそっけなくレイリンが答えるが、その表情は少しだけほころんでいた。
「さて、それじゃあ食事も終わったことですし、改めて話をしましょうか」
レイリンとウィルドが食器を片付ける中、アリシアと俺は向い合って席に座り直す。
「ソラトが置かれている現状を話す前に、王剣と選定試験について少し説明させてください。それであなたの立場も、少しわかっていただけると思うので」
アリシアの言葉に俺は素直に頷く。何を聞けばいいかもわからないのが正直なところなので、向こうから話を振ってくれるのはありがたかった。
「今から五百年前、ここフェリウス王国は災厄の魔女と呼ばれる一人の少女の手で壊滅寸前まで追い込まれました。当時国を治めていた王族は皆殺しにされ、罪なき民間人も大勢亡くなったそうです」
そう語るアリシアの声色は、まるで当事者だったかのように悲痛に満ちている。
「そんな魔女を打ち倒すために作られたのが王剣です。そして王剣の初代担い手は災厄の魔女を封じ、自らが王となってフェリウス王国を再建しました。それ以降、フェリウス王国の国王は、王剣によって選ばれた者がつとめているのです」
「それじゃあアリシアは、国王候補ってことか?」
俺の質問に、彼女はこくりと頷く。
「王剣の担い手候補とは、そのままフェリウス王国の王候補という意味でもあります」
「まてよ、それじゃあ騎士ってのは何なんだ? アルベルトの話じゃ儀式ってのは王候補と騎士の二人で行うんだろう?」
「その通りです。騎士の役割は、担い手候補が選定試験を突破できるように全力を持って助けること。その見返りとして、あらゆる望みを王剣の力で叶えることができるんです」
アリシアの語った内容は、アルベルトが言っていた事とほぼ一致する。だが彼女の言葉にどうも引っ掛かりを覚えた。
「どうかしましたか?」
少し考え込んでいたのが顔にでていたのか、アリシアが不思議そうに声をかけてくる。
「あぁいや、ちょっと今の話に違和感があったんだけど、何に引っかかったのかがよくわからなくて」
わけわからないこと言ってごめんと苦笑いを浮かべると、彼女は可笑しそうに口元に手を当てて笑う。
「ソラトは勘がいいのかもしれませんね。もし聞きたいことがあったらなんでも聞いてください。私の答えられる範囲であればお答えしますので」
「ありがとう、そう言ってくれると助かる。じゃあ早速ひとつ聞きたいんだけど、具体的に俺はこれからどうすればいいのかな?」
「そうですね。選定試験開始まではまだかなりの期間があります。その間にソラトにはこの世界に慣れてもらって、騎士として訓練を受けてもらうことになると思います」
「訓練ってことはその、やっぱり選定試験ってのは戦ったりするのか?」
俺の質問にアリシアはえぇと頷いた。
「試験の内容はまだ決まっていないませんが、その可能性は高いと思います。なのでソラトはまず戦うための基礎をウィルドから習ってもらいます」
いつのまにか食器を片付け終え、そばで待機していたウィルドが仰せつかりましたと礼をする。
「相手は剣も握ったことがない異世界の客人です。あまり痛い思いをさせてはいけませんよ?」
「努力いたしますが、何分手加減というのが苦手なものでお約束はできませんな」
しらっとそんな事をいうウィルドに俺は冷や汗をかきつつも、お手やわからにと頭を下げた。
「さて、それでは改めて」
アリシアはこほんと咳払いをして表情を正し、俺へと真剣な眼差しを向けてくる。
「お互いの願いを叶えるため、共にがんばりましょうソラト」
そう言って差し出されたアリシアの手を。
「あぁ、よろしくアリシア」
願いを叶えるという部分に少しだけ後ろめたさを感じながら、俺はしっかりと握り返した。