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異世界へ

 重い扉を開けると、視界が目を開けていられないほどまばゆい光に包まれる。あまりの眩しさに手をかかざして光を遮っていると、少しずつ視界が安定してきた。

 

 「あなたが私の騎士ですか」

 

 ようやく見えるようになった目が一番最初に捉えたのは、腰までのびる青みがかった黒髪と、真紅の瞳が印象的な一人の少女だった。

 どうやら扉の先は別の屋内に続いていたようで、蝋燭の薄暗い明かりが部屋の中を照らしている。

 俺があたりを見廻している間も、少女は赤く透き通るような瞳でじっと俺のことを見つめていた。どうやら、話しかけている相手は俺のようだ。

 

 「あ、あぁ。アルベルトとか言う奴に騎士になれとか言われてきたから、多分俺のことだと思うけど……」

 

 現実味を感じられない現状に、俺はたどたどしい声で少女の問いにこたえる。それを聞いた少女は、ほっとしたように胸をなでおろすと、改めて俺にむかって深々と頭を下げた。

  

 「私は王剣の担い手候補の一人、アリシア・レイバール。私の呼びかけに応じていただけたこと、心より感謝します」

  

 「えっと、俺は星井空人。一応、君の騎士って事になるのかな。……ごめん、正直今何が起こってるのか全く把握できてなくて、できれば詳しい説明が欲しいんだけど」

 

 目が覚めたら突然わけのわからない場所にいて、あれよあれよという間に異世界だ。今わかっていることといえば、何か儀式がある事とそれに勝てば願いが何でも叶うということだけだった。

 

 「そうですね、話さなければならないことがたくさんあります。とはいえいきなり難しい話をするというのもどうかと思いますし、まずは夕食でも食べながら話をしましょうか」

 

 そういうと、戸惑いを隠せない俺を安心させるようにアリシアはにこりと微笑み、俺の手をとった。まともに人と話したのも久しぶりな俺が、いきなりこんな美少女に手を握られると心臓がどきりと跳ね上がってしまう。

 

 「さぁ参りましょう。他の候補者と違いあまり豪勢なおもてなしはできませんが、屋敷のものがすでに準備を済ませて待っています」

 

 アリシアに手を引かれながら、俺は彼女の後をついていく。どうやら先程いた場所は地下室だったようで部屋をでて階段をのぼると、玄関らしき場所にたどり着いた。

 

 「お、おぉ……!」

 

 そこでは、ひとりでに箒が床を掃き、雑巾が誰に触れられることもなく壁をふいているという奇妙な光景が繰り広げられている。

 

 「うちの屋敷は人手が少ないので、こうして魔法を使って家事をしているんです。お恥ずかしいところを見られちゃいましたね」

 

 「魔法か……」

 

 現実ではありえない光景をみて、ようやく異世界に来たんだという実感が湧いてきた。正直夢を見ているんじゃないかと想って、念のため思い切り頬をつねってみる。

 

 「うん、普通に痛いな」

 

 そんな当たり前の感想を口にした後、ふと前を見ると急に自分の頬をつねりだした俺を見たアリシアが、怪訝そうな表情を浮かべていた。 

 

 「あの、どうかしましたか?」

 

 本気で心配してそうな顔のアリシアを見て、俺は少しバツが悪くなる。

 

 

 「いや、魔法ってのを見るのが初めてでつい。俺の世界にはなかったからさ」

 

 それを聞いた彼女は、なるほどといった表情を浮かべた。

 

 「そういえば、騎士として召喚される人たちが元々住んでいる世界には、魔法なんてものはないんでしたね」

 

 「その言い方だと、俺たちが異世界から召喚されたってことは知っているのか?」

 

 俺の質問に、アリシアははいと頷く。

 

 「王剣の担い手をきめる選定試験は、過去何度か行われています。そのたびに、騎士としてこことは異なる世界から騎士の資格を持った人を喚んでいるのでそちらの世界のことも少し文献として伝わっているんです」

 

 「その儀式とやらは今回が初めてじゃないってわけか。それで、喚ばれた騎士ってのはどうなったんだ?」

 

 「儀式の終わりと共に、元の世界に戻ったと聞いています」

 

 一応少しだけ気がかっていたことを、それとなくアリシアに尋ねてみた。どうやら儀式が終われば元の世界に帰れるって行っていたアルベルトの言葉は本当のようだ。

 最も、あんな退屈な世界に戻りたいとは今のところあまりおもっていないけれど。

 

 「さてと、着きました。ここが食堂です」

  

 そう言ってアリシアが目の前の扉を開けると、中には豪勢なご馳走が並んでいた。部屋の中では一人の老執事と、小柄な銀髪のメイドがお辞儀をして出迎えてくれている。

 

 

 「他の候補者の方たちならもっと豪華なおもてなしをしていると思うんですけど、私達のところは人手がすくなくてこんな物しか。お気に召すといいんですけど」

 

 そう自信なさげに言うアリシアの手を握り返し、そんなことはないと首をふった。

 

 「こんなもてなしされたの初めてだよ! ありがとうアリシア!」 

 

 これだけでも異世界にきた甲斐がある。部屋の中には食欲をくすぐるような匂いが充満し、いつの間にか俺の中で空腹感が広がっていく。

 

 「だから言ったじゃないですかアリシア様。異世界人にとってここの料理は、真新しい物ばかり。そんな心配しなくても歓迎されると」


 「こら! そんなこと言ったら騎士様に失礼でしょう」

 

 銀髪のメイドが頭を下げたままぼそりとそう口にすると、アリシアは少しだけ頬を膨らませて抗議した。

 

 「お言葉ですがアリシア様。儀式においてはアリシア様が主、そこで間抜け面している馬の骨はアリシア様に使える立場です。様付けは不要かと」

 

 「ちょっとレイリン!」


 初対面の女性に、無表情で間抜け面と言われて少し引きつった笑みをうかべてしまう。なんだろう、いきなり嫌われるようなことでもしてしまったんだろうか。

 

 「まぁまぁ、落ち着きなさいレイリン。はじめまして騎士殿。私はこの屋敷の管理を任せれているウィルドと申します。今宵はわずかながらですがもてなしの品を用意したため、ぜひ堪能していただければと思います」

 

 銀髪メイドをたしなめた後、隣に立っていた老執事が改めて俺へとお辞儀をする。

 

 「俺は星井空人です。アリシアの騎士として召喚されました。今後お世話になると思いますが、よろしくお願いします」

  

 ウィルドさんに向かい合い、俺も深々と礼をした。ここでいつまで生活するかわからない以上、関わる人とは仲良く過ごしたい。

 最も、レイリンと呼ばれていたメイドとの間にはすでに亀裂が入っているようだったけれど。

  

 「人当たりが良さそうな人物で安心しました。アリシア様をよろしくお願いします、ソラト殿」

 

 どうやら、ウィルドさんには気に入っていただけたようだ。俺はほっと息をつき、こちらこそと返す。

 

 「こちらはレイリン。私と同じく、アリシア様に仕えてこの屋敷の管理をしているものです。彼女はアリシア様しか眼中にないため、このような態度をとっていますが……まぁ悪い子ではないので仲良くやっていただければと」

 

 ウィルドさんに紹介を受けたレイリンは、ちらっとだけこちらを一瞥した後軽く頭を下げて礼をした。そんな姿にウィルドさんとアリシアが苦笑を浮かべる。

 

 「さて、それでは席につきましょう。せっかくレイリンが作ってくれたお料理、冷めてしまってはもったいないですから」

 

 そうアリシアに急かされ、俺は待ってましたとご馳走が並ぶ席へと座り込んだ。


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