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プロローグ

 「……どこだここ」

 

 一面真っ白な、果てが見えない広い空間で俺は呆然と呟いた。あたりを見回せば、数人の男女が俺と同じようにわけがわからないといった面持ちでせわしなく視線を動かしている。

 ここがどこなのか聞きたいところだけど、この様子じゃ聞いても碌な解答は得られないだろう。

 

 「ふむ……、とりあえずこういう時は記憶の整理だな」

 

 いちど深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、俺はゆっくりと今日あった出来事を思い出す。

 といっても、さして思い返すようなこともない。いつも通り朝起きて、学校に行き、放課後さっさと帰宅して家で一人ゲームをして寝る。いつもと変わらないつまらない一日を送ったはずだ。

 

 「ん……? 寝る?」

 

 俺の中にある最後の記憶はは、ゲームに疲れて布団に履いたところだった。そこまで考えて、俺は一つの結論にたどり着く。

 

 「なるほど、夢かこれは」 

 

 「残念ながら夢じゃないよ」 

 

 俺の完璧な推測は、突如背後から聞こえた声に否定された。

 

 はっとして後ろを振り向くがそこには誰もいない。気のせいかと思ったが、周りに立っている人たちも同じ方向を見ていたため、間違いなくここから声が聞こえたようだ。

 

 「皆様はじめまして、僕は選定者アルベルト。あなた達とをここに招いた張本人だ」

 

 再び、何もない場所から声が聞こえてくる。同時に、その言葉の内容に皆の顔つきがはっと変わった。

 

 「ちょっと、招待したってここどこなのよ。私、確かに寝てたはずなんだけど?」

 

 俺のすぐそこに立っていた金に染めた髪が特徴的な、気の強そうな女の子が、これまた予想通り気の強そうな声色でどこからともなく聞こえてくる声に怒鳴りつける。

 

 「ここは狭間の世界、とでも言っておこうか。すぐに出して上げるから、別にここがどこかとかはそんなに気にしなくていいよ」

 

 「あなたが気にしなくても私はきになるのですけれど。それに、招いたと言うのならば姿くらい見せるべきではないですか?」

 

 また一人、和服をきた同じくらいの年の少女が丁寧ながらもしっかりとした意思を感じる力強い声で、空に向かって異を唱えた。

 

 「これは失礼。だけど、残念ながら姿を見せることはできないんだ。さて、君たちが言いたいことがたくさんあるのはわかる。けれど、まず僕の話を聞いてほしい」

  

 その言葉に気が強そうな女の子がまた声をあげようとするが、隣に立っていた三十代くらいのおじさんが彼女を手で制す。


 「言いたいことは俺もあるが、まずは話を聞かないと情報が増えないだろう。先に話を聞くだけ聞いてみようじゃないか」

 

 おじさんの物言いに、なにか言いたげに口を開くが、結局女の子は黙って一歩下がった。

 

 「冷静な判断に感謝するよ。君たちをここに読んだ理由は一つ。僕達の世界のとある儀式に参加してもらいたいからだ」

  

 「儀式?」

 

 「そう。選定試験、と僕達は呼んでいる。儀式の内容は単純、二人一組で七組、合計十四人で力を競い合い最も優れた者を決めるというものだ」

 

 「その儀式ってのと私になんの関係があるのよ!」

 

 耐え切れなくなったように、金髪の少女は声を荒げて叫ぶ。

 

 「この儀式は、主とその騎士という役割をもった二人を一組として行われる。君たちにはその騎士となって儀式に参加してもらいたいんだ」

 

 「はっきりって妄言としか思えませんね。いまこのわけのわからない空間にいるのでなければ、一笑に付しているところです。もし今までの話が本当だったとして、そんなわけのわからない話を受け入れると思っているんですか?」

 

 和服の少女が、呆れたと言わんばかりに声を漏らした。その声に応えるように、正体不明の声は言葉を続ける。

 

 「もちろん、なんの見返りもないというわけではない。加えて言うならば、君たちも無作為に選ばれたわけじゃないんだ」

 

 他の誰かが声を発するより早く、アルベルトが話の続きを口にしていく。


 「この儀式に勝利した者、すなわち最も優れた力を示したものには、どんな願いでも叶えられる権利が与えられる」

 

 アルベルトが放った言葉を聞いた瞬間、俺以外のすべての人の顔つきが変わった。

 

 「その言葉の意味、君たちならわかるんじゃないかな? そう、ここに集められた君たち七人の共通点は、どんな手を使ってでも叶えたい願いを胸に秘めていること」

 

 

 そう言われて反論しないところを見ると、周りの六人はきっと思い当たりがあるのだろう。だが困ったことに、平凡な高校生である俺にはそんな願いは持っていない。

 

 「その願い、なんでもというのはどれくらいの願いまで可能なの」

 

 俺よりも少し年上だろうか。二十歳すぎくらいに見える女性が、いままで黙っていた口を開いてアルベルトに問いかけた。

 

 「なんでもはなんでもさ。もちろん、死人を生き返らせることだってできる」

 

 その返事に、お姉さんの瞳が何かを言い当てられたかのように見開かれる。それ以上は何も言わず、再びお姉さんは口を閉じた。

 

 「その話、本当だという保証は?」

 

 何かを考えこむようにうつむいていた和服の少女が、顔は挙げずに尋ねる。

 

 「今この空間に君たちを連れてきたことが一つ。そしてもう一つ、もし君たちが騎士となる事を受け入れるのであれば、これから儀式が行われる異世界へと行ってもらう事になる。世界の境界すら超える力だ、願いを叶える力の担保には十分だろう?」


 アルベルトの答えに、今度こそ全員が黙りこんだ。

 

 「さて、大体の理由はわかってもらえたかな。そうそう、儀式が終われば、君たちは元の世界に戻れる。もちろん、ここで騎士になることを拒否すればすぐにでも元の世界に帰ることも可能だ。さて、それじゃあ改めてきこうか」


 そう言うと、アルベルトは一拍おいて俺達へと問いかける。

 

 「願いを叶える機会を捨て、いますぐ元の世界に帰りたいものは、一歩前へ」

 

 一秒、二秒、数十秒たっても誰も動こうとはしない。願いを持っていない俺も含めて。

 

 「全員了承してくれたようでなによりだよ。それじゃあ、君たちを僕の世界へと送ろう。儀式の詳しい内容は世界を渡った先で改めて。それじゃあ、君たちの奮闘を祈っているよ」

 

 そう言い終わると同時に、俺たち全員の前に扉が現れる。これを開けて中に入れば異世界ということだろうか。

 すでにアルベルトの声は聞こえず、もう後戻りすることもできない。俺以外の者達はすでに覚悟がきまっていたんだろう、ためらいなく扉を開けてその中へと脚を踏み入れる。

 俺も彼らにならい、ゆっくりと扉を開いて一歩足を踏み出した。



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