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98日

「余命があと100日ですって言ったらどうします?」

「常談だよな?」

「本当ですって言ったら?」


レオン様は不思議そうな顔を浮かべたまま私の頬に手を伸ばした。

「どこも悪くなさそうだけど?」

「バルド様にも言われました」

「バルドは納得してた?」

「おそらく」

「ふうん」


レオン様は私の頬をつねり出したのでぺちりと叩いてやめさせた。


「なあ、抱き締めていいか?」


急に何事かとレオン様を見つめるがいたって真剣な目で見つめ返された。


「…どうぞ」


なんだか断れなかった。いつも彼は抱き締めてあげようか?などと冗談は言うけど抱き締めていいか?と彼から要求されるのははじめてだった。正面からぎゅっとされて私の顔は彼の胸に埋まる。


「こんなに暖かいのに死ぬのか?」

「はい」

「それは寂しいなあ」


頭が押さえられていて顔をあげられない。聞こえた声は震えているような気がした。





---




コンコンとドアがノックされる音が聞こえて返事をしながら扉を開くとバルド様がいらっしゃった。


「確認もせずに開くな」

「だってここに来るのはバルド様ぐらいですよ」


そう言うとそれもそうだがと納得いかない表情を浮かべる。バルド様は少し真面目すぎる。まあ騎士団長らしいと言えばらしいのかもしれない。お小言を軽く聞き流しながらお部屋に招き入れると聞いてるのかと軽く叱られとしまった。


「今日のお土産は何ですか」


分かりやすいように話題を変えてやるとため息をつきながらバルド様は手に持っていたものを潔く渡してくれた。


「わあ、この間と一緒のパンですね」

「えらく気に入っていたからな」

「ええ、とっても美味しかったですもの」

「殿下もお気に入りのパン屋だ」

「へえ」


民間のパン屋らしいのだが王宮でも認められる味らしい。どうりで美味しいわけだ。ふむ、ちょうどお昼時である。実はバルド様が野菜の種を持ってきてくれたことがあって家庭菜園が我が家にできていた。確かその野菜たちがちょうど食べ頃だったはず。持ってきてもらったパンに挟んでサンドイッチができる。バルド様にお昼は食べていくか聞くと食べるとのことだったので二人ぶん作ろうと思う。この間から黒猫のノワールが住み着いているがバルド様が来ているときはかならず家にいないので放置だ。あとでお腹すいたと文句を言われそうだが、いないノワールが悪い。私は野菜を取りに行く旨をバルド様に告げて外にでた。


どっこらせとかおばあちゃんみたいな声をだしながら野菜を必要な分とっていく。トマトとレタスときゅうりでいいかな。ちなみに我が家はなぜか塩こしょうだけが大量にあって当初の食事はそれだけでなんとか済ませていた。いつだったかポロッと調味料がほしいと呟いたらバルド様がいろいろ持ってきてくれて、今はそれを使っている。これだからバルド様にはほんとに頭が上がらない。せめてものお礼に美味しい昼食を用意せねばと野菜の収穫に励む。途中レタスに青虫がくっついていたけどそんなの手でつかんでポイだ。伊達に一ヶ月森で生きてない。虫なんてなんのそのだ。ごめんよと思いながら潰さないようにつかんでポイッと投げると突然当たりから笑い声が聞こえた。


「こんな女の子ははじめて、みた、よ、はははっ」


森のなかから出てきたのは金色の髪をふわふわと遊ばせながら体を捩りながら笑うイケメンだった。不審者かとも思ったのだがこの辺に不審者なんて出るわけないかと考えを改める。服装を見るとかなり上質なものでしかもきらびやかである。


「笑うなんて失礼だったね」

「いえ」

「君はこの家に住んでいるのかい?」

「はい」

「ふうん、バルドが最近森のなかに一人で出掛けると聞いていたけど…こんな可愛らしいお嬢さんの元に通っていたのか」


彼はこちらへ歩いてきてぐいっと顔を近づける。まつげ長いですねお兄さんなんて冷静に観察をしてしまう全く反応のない私に彼はまた笑い出す。顔でも赤らめるべきだったかと思ったがそんな芸当は私にできないので仕方ない。


「バルドが気に入るのもわかる気がする」

「はあ、さいですか」


先程から会話のなかにバルド様の名前が出ている、と言うことは彼はバルド様の知りあいなのだろう。外で立ち話と言うのもどうかと思ったので家の中に招待した。

そのときのバルド様の顔といったら、目を真ん丸にして驚いていた。このときほどバルド様の驚いた顔は見たことがない。


「レオン…なんでここに」

「君のあとを追いかけてきたんだ。最近一人で出掛けるのはなんでだろうって」


そう言って不適に笑う彼はきらびやかでこの家に酷く不釣り合いだった。


「それにサミィも気になっていたみたいだからな」

「お前はまた…!」

「はいはい悪かったよ」


二人は随分と仲がよいようだ。よくよく話を聞くと彼、レオン・アルテミル様は王宮魔導士らしい。魔法が使えるのか尋ねたら手のひらからお水を出して見せてくれた。魔法、すごい。


「バルドが来るなら俺も来てもいいよな?」


断る理由もなく、レオン様も訪れるようになった我が家は少し騒がしくなった。

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