99日
余命100日です。それをあと最低でも3人には伝えなければ行けないと思うと気が重い。いや、逆に3人しかいないと悲しむべきか。どうせ消えるなら交遊関係なんていらないかと家に引きこもっていたせいだ。でも家にいながら3人も友人が出来たと考えるとすごいのではないかと思う。そんなことを思いながら一人家のなかでぼーっとしていると小さな足音が聞こえた。
「お帰りノワール」
「にゃお」
窓から家のなかに入ってきた黒猫は返事をした。
「実はね私の余命あと100日なんだって」
「はあ!?!」
目の前の黒猫…ではなく、青年は目を丸くして吠えた。さっきまで居た黒猫はどこにもいない。そう、彼こそが黒猫のノワールである。
「そんな、急すぎだろうが!」
「ええ、でもお医者様に言われたから」
「こんなに元気なのにか?」
ノワールは私に近づいて頬をつねる。冗談だと思っているのだと思う。ゆらゆらと揺れる瞳だけが彼の不安を写していた。
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私は今日の食料を調達すべく川で釣りをしていた。1匹とれればいいだけなのでそんなに時間もかからないだろう。そう思っている間に竿が強く引っ張られる感覚がして魚がかかった。引き上げると水からあがった魚がばたばたと跳ねる。それを捕まえて針をはずして袋がたの網の中にいれた。手慣れたものである。目的を達成して帰ろうかと思ったところ視線を感じた。こんな森に誰だろうと視線を向けるとちょこんと座り込む黒猫がいた。じっと魚を見つめる黒猫に、
「お腹がすいているの?」
と問いかけると
「みゃお」
と返事らしきものをもらった。
「これは私のだから駄目」
そう言うと最低なやつめと言いたげな視線をもらった。
「もう一匹釣るってことよ。だからそんな目をしないでちょうだい」
ふんすと鼻をならした黒猫は再び竿を握った私の隣に丸まった。態度がでかい猫だ。無事にもう一匹釣り終えると満足そうにしっぽを揺らしていた。やはり態度がでかい。今度こそ帰るかと立ち上がると黒猫も立ち上がり、歩き出すと着いてくる。家につくと元々真ん丸な目をさらに丸くして家を凝視していたが一体何を思ったのだろうか。お腹もすいたので簡単に魚を調理して夕食にした。黒猫にあげる魚はどうしようかと思って、
「魚は焼く?」
と聞いたら頷いた気がしたので同じく焼いておいた。美味しそうに食べていたからきっと正解だったのだろう。黒猫は居座るつもりらしくご飯を食べたあとはソファーにあるクッションに沈んで眠り始めた。一人が寂しかったわけではないけれど家のなかに誰かいるのは少し嬉しかった。黒猫の隣に座って背を撫でながらいろいろ考えていたら頬を何かが濡らした。部屋の中で雨が降るわけないのでそれは必然的に涙である。黒猫は泣いている私に気づくとカッと目を見開いて驚いていた。帰れるのはわかっているし悲しい訳じゃないけれど溢れる涙は止まらない。
「泣きたい訳じゃないのに」
疲れていたのかもしれない。知らない世界に一人きりで自分が思っているよりずっとストレスが貯まっていたのだと思う。泣き止まない私を見て黒猫はおろおろしだした。泣くなと言いたげに私に体を寄せてくる。
「ごめんね、ありがとう」
ついぎゅっと抱き締めると少し焦ったように身をよじった気がしたが大人しくなった。自分以外の体温に安心する。そのまま私の意識は闇へと引きずり込まれていった。
そして起きたら隣に知らない男が寝ていたってどう言うことなのだろうか。これが朝チュンってやつですね。大学生とかそこいらのお兄さんがすやすやと気持ち良さそうに眠っている。私が寝落ちしたのがソファーなので小さなソファーに私と青年。狭すぎて私は青年とソファーに挟まれ身動きがとれない。どうしようかとじっと青年を見つめた。すごいイケメンなんだけど。バルド様もキリッとしたイケメンだが、目の前の青年はもう少し幼さがあって可愛い要素も入っている。こんな間近でイケメンが見れるなんて滅多にないとここぞとばかりに見ていると青年の睫毛がふるふると震えてゆっくりと目が開いた。
「おはようございます」
とりあえず挨拶をして見ると青年はいち、に、さん秒ほど使ったあとに大きく後ろに下がってソファーから落ちた。わなわなと震えながら口をパクパク動かしてやっとひと言。
「俺は襲ったりしてないからな!!」
逆に襲われてたらどうしようかと思います。落ち着いて話を聞くと彼…ノワールは昨日の黒猫らしい。なんとこの世界には魔導士がいて彼はその使い魔だった。過去形なのは彼が魔導士と喧嘩して家出してきたからだ。森でさ迷っていたところ私に出会ったらしい。なぜ起きたら人間だったのか聞いたら
「最近ずっと人でいたから寝ていて無意識で人間化した」
とのことだ。面白いから後で猫になるところを見せてもらおうと思った。
「今後はどうするの?」
「あいつのところに戻る気はない」
あいつとは魔導士のことだろう。
「自給自足でよければ好きに居座っても構わないけど」
「男女が一つ屋根の下でいいのかよ」
「猫としか見れないから大丈夫」
少しだけ複雑そうな顔をしたノワールは世話になるとふんすと鼻をならした。






