1話目
今は夏。今年の夏は記録的猛暑に見舞われ、こんな風に語っている俺も例外なくこの夏の暑さにやられた一人だ。
更に今年の夏は大学の夏休みを利用して短期のバイトを始めてみた。個人で経営しているカフェで夜にはバーに早変わりする。俺には似合わないようなおしゃれな店だ。
きっかけはたまたま学部の友人がやめる為、バイトを探しているならどうかといってくれたところだ。探そうかなと重い腰を上げる前に決まってしまった為、運がいいと言うか、なんと言うか・・・少し苦労しても良かったかな、なんて思う、今日この頃・・・。
今日も何だかんだ順調にバイトをこなすことができ、自分にご褒美といった感じでコンビニでアイスを買った。…ちょっとリッチな感じのやつを。
暑い暑いと内心呟きながら、早速歩きながら食べることにした。…食べながら思ったが、失敗だった。ものすっごい勢いで解けていく為、手がベタベタになった。まぁ、美味しかったけど、ちょっと残念な気持ちが残った。
食べ終わると、早く帰ろうと少し歩く速度を上げた。そして、家まであと少しというところで道端に何か白いもの…猫がいた。
『…もしかして、車で轢かれたのか?』
そろっと様子を伺うと、どうやら違うようだ。アイスの棒で突いてみたが、反応はなし。
『…もしかして、力尽きて死んでるのかも。』
そう思った俺は道の真ん中に放って置くのは可哀想だ、と恐る恐る抱き上げた。すると、まったく反応がなかった猫が少し顔を上げた。
『…え?生きてんの?』
それなら放って置くかと降ろそうとすると、何故か服に噛み付かれた。
『…降ろすなってことか?』
そっと頭を撫でてやると、スリッと軽くだが、擦り寄ってきた。
『…オイオイ、可愛いじゃねぇか、チクショー。しゃーない、連れて帰るか。怪我してるかもしれねェし…可愛いしな。』
心の中で自分に言い訳をしてはそのまま家に向かった。
「おーい、猫。そろそろ服離してくれねェか?何にも出来ねェ。」
今は玄関の前だが、降ろそうにも降ろせず、鍵を鞄から出すことも出来ないのである。どうしようか、と思っていると、猫は服を離し、降りると言うように前足で俺の腕を軽く引っ掻いた。
「お?お前、話分かってるみたいだな。」
まぁ、丁度いいと猫を降ろしてやり、鞄から鍵を取り出して一人暮らしをしているマンションの一室へと入った。