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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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海をスイスイ

 超重大な事を爺さんに教わったが、ナミタリアから水着の用意ができたと連絡があった。残念だが時間切れだ。

 きっとゲームの時はチュートリアルの1部分としてスキル説明があったのだろう。

 冒険者ギルドの受付で施設説明だと思って「知ってるから必要ない」と言ったせいで、特段他に受付には用事がなかった。

 うちの家族は貧民街揃いだから、冒険者ギルドの登録料の100モールも大金だったはず、払えるわけがない。そのため説明を受けていないのも納得。

 相談していなかったが、モズラならスキル説明の件を知っていたかもしれない。今さら確認ができないのが辛い。

 とにかく、この件は今夜にでも家族会議だ。


 みんなで宿で着替えて海に向かう。移動中は上にコートを着ているので、民衆の注目を集めることは避けられた。

 この国にスクール水着はない。競泳水着もない。

 主流はビキニのようだ。

 ただし、海女さんのような職種はないので、水着を着るのは、趣味レベル。

 これからの事はわからないが、現在の漁業は釣りで行われている。


 リズは真っ黒のビキニを、ギラーフは真っ白のビキニを着ている。

 基本的にしっぽの生えている位置は獣人で大差ない。そのため水着が落ちないように腰紐だけではなく、お尻部分には最初からしっぽの根元に結ぶ紐が付いている。付いているのだが……、ギラーフのようにしっぽにボリュームがあると結べない。たまに直さないと水着が下がって結構きわどい……。

 しかし、他にもサイズが合わなくて、きわどい子はいるので、別に気にしないようだ。


 リズは準備体操もしないで、いきなり海の中を平泳ぎでスイスイ泳ぐ。お前はカエルか……。海でクロールをしたら水しぶきが上がって大変だけど……。

「手のひらに弱い風魔法を作ってみろ」

 リズは海の中で手足を器用に使って、その場でキープしながら俺の話を聞いている。

「風魔法ですかニャ?」

 リズは空に向かって風魔法を撃つと、その姿は一瞬で海中に飲み込まれた。

「あっ……」

 ボートのエンジンみたいに移動させるつもりだったのに……。


「……これは面白いニャ!」

 バシャーンと水しぶきを上げてリズが登場。

 両手にエンジンを積んだ猫が、飛び魚の如く海面を移動する。もう習得しやがった……。爆風魔法の時も思ったが……、戦闘のたびにオルゴールの魔石に風魔法を補充していたから、そろそろ中級?

「そのまま空を飛べないのか?」

 途中で失敗して落ちても、下は海だ。リズはゆっくり両手の風魔法の出力を上げていく。すると、体が徐々に海面から……。

「リズ、ストップだ。水着がずれているぞ」

 さっきの飛び魚の勢いに水着がついていけなかったようだ。片方の胸が見えている。

「ニャ?!」

 バランスを崩したリズが再び海中に姿を消す。


「わかってきたニャ!」

 今度は顔だけ出したリズが宣言すると、ロケット花火の発射の如く、打ち出される。

 そのままドンドン上空へ。だいたい20メートルぐらいまで上がっただろうか……。


「ヤバイニャ~! 魔法の待機時間が……」

 おいっ!

 上空でそんな事を言われても……。もう遅い。

「リズさん、水魔法で滑り台をイメージして放ってください」

 リアラが咄嗟に声をかける。

「わかったニャ」

 リズは空中でクルッと回転して水を撒く。それをリアラが氷結させて滑り台を作った。

 落下の勢いが斜め方向に微修正されるが、空中滑り台だ。一緒に落下しているため気休めにしかならない。

「わわわわわっ! スピードが出過ぎニャ~」

 これ以上の面倒はみれん……。リズは待機時間が終わった風魔法でブレーキをかけて、そのまま海へ。激突はまぬがれたが殺しきれなかった勢いで大きな水しぶきを上げた。

「MPが切れたニャ……、危なかったニャ……」


「あまりうるさくしないで下さい! 今夜のお魚が釣れません」

 クラリーがリズに猛抗議する。

「お魚さん、ごめんなさい」

 リズは海に向かってペコリと頭を下げた。

 俺はリズの言葉に、どの部分から突っ込んでいいのかわからない。

 クラリーも苦笑いをしている。

 現在、クラリーが持っている釣竿には合作の印であるモズリーブランドのマークが入っていた。

 マークは三角フラスコの中に小さな斧が入っている。

 今後の作品にはこのマークを付けていくようだ。


 ヒューンと釣り針が遠くまで飛んでいった。そしてウキが着水するが、糸は今もなお出続けている……? あれ?

「海中深いのを狙うなら深さを手元で調整できた方がいいかと思いまして……」

 ウキの位置に糸があるのがわかるから、これが正解なのか?

 実際に釣りをしたことがないから、判断ができない。

「早速強い引きです」

 僅か1分足らずで、初ヒット。

「とてもでかいです」

 クラリーが勢い良く糸を巻く。



「痛いニャ!」

 猫が釣れた……。



「……リズさん」

「何をしてるんですか?」

 モズラとクラリーのジト目が炸裂。

「銛で魚をとろうとしたら、目の前にお肉が泳いでいたニャ!」

 海の中の肉を平気で食うなよ! いや、それを言ったら魚も釣れないけど……。

「リズは向こうの方で頑張ってくれ」

 俺は邪魔にならない場所を指す。

「わかったニャ!」

 ジェットエンジンで轟音を立てて移動するリズ……。


「うーん。気を取り直していくか……」

「「そうですね」」

 釣竿がまだ残っていたから、俺も糸を垂らす。

「これって最大で何メートルなんだ?」

 1度全部の糸を出してから、少し巻く。いきなり引っ張られて竿を持っていかれないためだ。

「約20メートルです」

 つまり、俺の釣り針はその付近にあることになる。

 海を泳いでるように、竿を上下に動かして魚を待つ。

 すると一瞬、ガッと手応えがあった。

「ヒットしたぞ。20メートル付近だ」

 糸が絡まらないように5メートルずつ離れた2人にそれぞれ声をかける。


「あれ……? 外れたかな?」

 全く手応えがなくなった。

 仕方ないので俺は一気に糸を回収する。クルクルクル……。

「本当に一瞬だけ……」

 しゃべっている最中に目の前に魚が現れた。

 あー、そういえば、料理屋の店主が言ってたな……。戦闘になるって……。こういうことか……。

 体長50センチほどの魚が海の中を泳いでいる……。全く逃げようとしない。

 レベルは7。アジモドキ。

「これ……、戦闘中だよな? 陸に来ないぞ?」

「そうですね。倒しますか?」

 モズラが銛を片手に1突き。

 魚が貫通した銛を海から陸に投げた。

 魚は銛が刺さったまま、ピクンピクンするだけで、ドンドンHPが減っている。

「よわっ!」

「料理屋の店主が倒せる程度ですから……」

 クラリーのあんまりな言い方だが、それもそうか……。


 そのまま俺たちは合計7体を釣り上げた。

※モンスターなので、単位を『体』で統一しています。

 内訳はアジモドキ5体、毒フグ1体、ブリモドキ1体。

 戦闘のたびに、モズラが銛で突く流れ作業。

「毒フグって……、間違いなくフグ毒が漏れ出してるよな……」

「フグ毒って何ですか?」

 さすがのモズラ様でも海系の知識は少ない。

「確か……体が痺れて、早く処置しないと死ぬはずだ」

「危険ですね。捨てますか?」

 フグを倒した時も銛で突いたが、倒し方にコツがあるのではないだろうか?

 フグを調理する人に免許がいるみたいに……。

「その前にフローラに浄化を試してもらおう」

「その手がありましたね」

「毒フグを海に捨てるわけにもいかないから、後で注意を呼びかけておこう」


 銛組の結果は、ブリモドキ7体。

 ブリモドキは浅い場所で、アジモドキが深いところなのか?

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