老人
『それぞれの過ごし方』の後半です。
「お城の方が騒がしいニャ!」
リズに言われなくても気が付いている。
「様子を見てくるか……」
フーリエンの一件で、城の衛兵に顔を覚えられていた。その結果、大した手続きもなく、機密情報に近い訓練場に案内される。もともと女王からの申し出であったとはいえ、連絡なしで来るのは本来マナー違反だ。
俺が通された広い訓練場では丁度ギラーフが老人に斬りかかったところだった。ギラーフの手には無刃刀が握られている。
老人は左手で杖を握って立ち、右手の木刀だけでギラーフの攻撃を払う。よくあんなヘボい武器でギラーフの相手ができるな……。
「直線的になりすぎじゃワイ」
老人は木刀で無刃刀の勢いをいなすと、今度は支えにしていた杖でギラーフのお腹を突く。これを二刀流と呼ぶのはどうかと思うが、老人の流れる動作には無駄がない。ギラーフがあんな簡単に攻撃を食らうとは……。
あの爺さん、何者だ……?
俺はこっそりステータス表示で確認をする。
レベル25、クラス「刀剣士」
この世界に来て、通常職では初めての中級職に出会った……。ただし、初級職は誰でもなれる「剣使い」なので、能力値はさほど高くない。
「視線、筋肉、体重移動。どれも素人じゃワイ」
文句を言ってるわりには老人の顔が晴れやかだ。
「あの爺さん、強すぎませんか?」
俺は遠巻きで見ていた衛兵Aに聞いてみる。
「あの御老人は70年前に開かれた国の武術大会で10年連続優勝した、元軍団長殿ですよ」
「そりゃ勝てないわ……」
ギラーフを相手に防戦一方になっていた青田は上級職の70超えだ……。本当にレベルだけが全てじゃないな。
「今でもたまに顔を出して鍛えてくださるんですが、今日は女王様の命で特別に来てくださったんです」
こんな強い元軍団長がいたら衛兵も育つ……。
「でも、あの娘さんも相当だね~」
奥からひょっこり話に入ってきた衛兵Bがギラーフを評価する。
「どうしてですか?」
「僕はもう10年以上ここにいるけど、元軍団長殿が杖で攻撃しているところを初めて見たよ~」
「へぇ」
右手だけじゃなく、左手も使わせたと言うことか……。
きっと右手の木刀だけならギラーフはすぐに離脱して避けられるだろう。そのため、左手の杖を使わざるを得なかった。そう考えると辻褄が合う。
「久しぶりに骨のある娘じゃワイ。少しだけ本気を見せようかのぅ」
爺さんは薬を1粒飲んだ。背筋がピンっと伸びて足腰が丈夫になる。
今飲んだ薬は筋力を5分間だけ増強させるもの。別に若返ったわけではない。
爺さんは右足を軽く引くと、木刀と杖を構えた。
弘法筆を選ばず。
あれでも、やっぱり二刀流なのか……?
爺さんは一気に走り出すが、決して早くはない。しかし、大きく見える。走っているだけなのに、迫力がある。
ギラーフは身構えて応戦するようだ。
爺さんはまだ10メートル以上離れているのに木刀を上から下に下ろした。
ギラーフは目を大きく開けて、爺さんの木刀の直線ラインから大きく避ける。絶対に爺さんの攻撃は届かないはずだ。幻覚でも見たのか? 疑問に思っていると、ギラーフのさらに後方の壁からドンと音が鳴った。
「え……?」
爺さんの攻撃って飛ぶの?
今度はそのまま大きく避けたギラーフに向けて杖で3連突き。こちらも、もちろん届く距離ではない。
しかし、ギラーフの体はタンタンタンッと右肩、左肩、お腹と順番に突かれたように吹き飛ぶ。
「初撃を避けたからって気を抜くんじゃないワイ」
いや、初見で飛ぶ斬撃を避けられる奴の方が少ないから……。
この爺さん……、ギラーフのハードル設定高すぎだろ。
使っている武器が木刀と歩くための補助具の杖だ。威力は大したことがない。それでも射程距離の長さが異常だ。
ギラーフはすでに立ち上がって、無刃刀を爺さんみたいに振っている。
もちろん鍛練なしで真似ができるはずがない。
しかし、あれは紛れもなくスキルだ。習得方法は未だに不明だが、最低でも実在はした。
「何か出そうな気がするんですけどね……」
ギラーフさん……。首を捻ってるけど、出そうとか予感があるものなのか?
「なんじゃい娘さん、それはまだ冒険者ギルドでスキル説明を聞いておらんのじゃワイ。それじゃあ、頑張ってもスキルを使えないワイ」
え? 冒険者ギルドで……スキル説明? 俺のせいかっ!!!!!




