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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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老人

『それぞれの過ごし方』の後半です。

「お城の方が騒がしいニャ!」

 リズに言われなくても気が付いている。

「様子を見てくるか……」



 フーリエンの一件で、城の衛兵に顔を覚えられていた。その結果、大した手続きもなく、機密情報に近い訓練場に案内される。もともと女王からの申し出であったとはいえ、連絡なしで来るのは本来マナー違反だ。

 俺が通された広い訓練場では丁度ギラーフが老人に斬りかかったところだった。ギラーフの手には無刃刀が握られている。

 老人は左手で杖を握って立ち、右手の木刀だけでギラーフの攻撃を払う。よくあんなヘボい武器でギラーフの相手ができるな……。

「直線的になりすぎじゃワイ」

 老人は木刀で無刃刀の勢いをいなすと、今度は支えにしていた杖でギラーフのお腹を突く。これを二刀流と呼ぶのはどうかと思うが、老人の流れる動作には無駄がない。ギラーフがあんな簡単に攻撃を食らうとは……。

 あの爺さん、何者だ……?

 俺はこっそりステータス表示で確認をする。

 レベル25、クラス「刀剣士」

 この世界に来て、通常職では初めての中級職に出会った……。ただし、初級職は誰でもなれる「剣使い」なので、能力値はさほど高くない。

「視線、筋肉、体重移動。どれも素人じゃワイ」

 文句を言ってるわりには老人の顔が晴れやかだ。


「あの爺さん、強すぎませんか?」

 俺は遠巻きで見ていた衛兵Aに聞いてみる。

「あの御老人は70年前に開かれた国の武術大会で10年連続優勝した、元軍団長殿ですよ」

「そりゃ勝てないわ……」

 ギラーフを相手に防戦一方になっていた青田は上級職の70超えだ……。本当にレベルだけが全てじゃないな。

「今でもたまに顔を出して鍛えてくださるんですが、今日は女王様の命で特別に来てくださったんです」

 こんな強い元軍団長がいたら衛兵も育つ……。

「でも、あの娘さんも相当だね~」

 奥からひょっこり話に入ってきた衛兵Bがギラーフを評価する。

「どうしてですか?」

「僕はもう10年以上ここにいるけど、元軍団長殿が杖で攻撃しているところを初めて見たよ~」

「へぇ」

 右手だけじゃなく、左手も使わせたと言うことか……。

 きっと右手の木刀だけならギラーフはすぐに離脱して避けられるだろう。そのため、左手の杖を使わざるを得なかった。そう考えると辻褄が合う。



「久しぶりに骨のある娘じゃワイ。少しだけ本気を見せようかのぅ」

 爺さんは薬を1粒飲んだ。背筋がピンっと伸びて足腰が丈夫になる。

 今飲んだ薬は筋力を5分間だけ増強させるもの。別に若返ったわけではない。

 爺さんは右足を軽く引くと、木刀と杖を構えた。

 弘法筆を選ばず。

 あれでも、やっぱり二刀流なのか……?

 爺さんは一気に走り出すが、決して早くはない。しかし、大きく見える。走っているだけなのに、迫力がある。

 ギラーフは身構えて応戦するようだ。

 爺さんはまだ10メートル以上離れているのに木刀を上から下に下ろした。

 ギラーフは目を大きく開けて、爺さんの木刀の直線ラインから大きく避ける。絶対に爺さんの攻撃は届かないはずだ。幻覚でも見たのか? 疑問に思っていると、ギラーフのさらに後方の壁からドンと音が鳴った。

「え……?」

 爺さんの攻撃って飛ぶの?


 今度はそのまま大きく避けたギラーフに向けて杖で3連突き。こちらも、もちろん届く距離ではない。

 しかし、ギラーフの体はタンタンタンッと右肩、左肩、お腹と順番に突かれたように吹き飛ぶ。

「初撃を避けたからって気を抜くんじゃないワイ」

 いや、初見で飛ぶ斬撃を避けられる奴の方が少ないから……。

 この爺さん……、ギラーフのハードル設定高すぎだろ。

 使っている武器が木刀と歩くための補助具の杖だ。威力は大したことがない。それでも射程距離の長さが異常だ。

 ギラーフはすでに立ち上がって、無刃刀を爺さんみたいに振っている。

 もちろん鍛練なしで真似ができるはずがない。

 しかし、あれは紛れもなくスキルだ。習得方法は未だに不明だが、最低でも実在はした。

「何か出そうな気がするんですけどね……」

 ギラーフさん……。首を捻ってるけど、出そうとか予感があるものなのか?

「なんじゃい娘さん、それはまだ冒険者ギルドでスキル説明を聞いておらんのじゃワイ。それじゃあ、頑張ってもスキルを使えないワイ」


 え? 冒険者ギルドで……スキル説明? 俺のせいかっ!!!!!

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