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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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それぞれの過ごし方

「時間が空いたから、それぞれ自由に過ごしていいぞ」

 水着が用意されるまでの間を、それぞれのやりたいことをしてもらうことにした。お小遣いは500モールずつ。今となっては多いのか少ないのかわからない。ただし、人数が19人もいるとやっぱり話は変わってくる。


 そんな中、意外と忙しいのはエヴァールボだ。

 理由は簡単。

「武器って錆びないのか?」

 盾は11階層ぐらいならなくてもいい。鎧も外すからいいとして、武器に関しては持っていかないという選択肢はない。

「そうですね。ガラスの武器は置いて行った方が良さそうです……」

 そしてエヴァールボが鋼装備を準備する。

「鋼も無理じゃないのか?」

 俺用に用意された鋼の剣を鞘から抜いて聞いてみた。

 それとも鋼って錆びないのか?

「海育ちではありませんので、詳しくありませんが、鋼装備なら鉱石が余っていますので、作り直しができます」

 そういうことか……。

 スキルLvを上げるのに、毎日毎日鍛冶をしているから、予備が大量にあるようだ。

 ガラス装備を含む貴重品はナミタリアにお願いして預かってもらう。宿に盗みに入る者はいないと思うが、念のためだ。


「ご主人様!」

「急にどうした?」

 俺がエヴァールボと武器の話し合いをしていると、ギラーフが声をかけてきた。

「女王から衛兵の訓練を見学しないか? と使者が来ました」

 きっと師弟対決を見ていて、自己流であるとバレたんだな……。女王も粋なことをしてくれる。

「ギラーフは型を習ったことがないから、コーシェルを連れて行ってきてもいいぞ。水着が用意できたら声をかけてもらえるようにナミタリアに伝えておく」

 ゲーム時代にあった、武器によるスキル。まだどこで習得できるのかわかっていない。

 この世界にもスキル習得用の道場のような場所があるのかと思ったが、存在しなかった。

 青田に聞けば教えてもらえるだろうが、おんぶに抱っこじゃつまらない。

「ありがとうございます! 1時間弱ですが、城で見学してきます」

 ギラーフはさっそくコーシェルを連れて城に向かった。今の生活でこれ以上の鍛練が必要なのか不思議で仕方ない。

 それでも、もしこれでスキルの1つでも習得してくれたら、今後の予定に組み込もう。


 今度はモズラとクラリーが来る。この2人は海に行くと決まってから何やら準備をしていた。

「海で釣りをするために釣竿を作ってみました!」

 クラリーが代表で自慢げに見せてくる。

 2人の合作。

 合作と言えば聞こえはいいが、竹の棒の先端に糸が付いて、糸の先に針が付いているだけだ……。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 小学生の工作でももっといいものが出来上がる気がする……。

「ダ、ダメですか?」

 俺のジト目にクラリーが耐えられなくなった。

 モズラの方は俺がこの世界の住人じゃない事を知っているので、この程度の釣竿ではダメだと予想をしていたのか平気そうだ。

 海の近くで育っていない、釣りの情報は魚料理の店主とくれば、この辺りでも上出来なのだろうか?

「餌にオークの肉を提供するから、今夜の夕食を釣り上げてくれ」

 クラリーの目が光った。釣竿をわざわざ作って釣果(ちょうか)がなければ可哀想だ。本当はミミズがいれば良かったんだが、ないものは仕方ない。

「ありがとうございます」

 クラリーは時間ギリギリまで釣竿の生産に入るようだ。

「やっぱり、あの釣竿では足りませんか?」

 クラリーがいなくなってからモズラが質問してきた。

 モズラとしては釣りの知識があっても実際にしたことがないのだろう。正直俺もない。

 それでも最低限の知識ならある。

「そうだな……。糸を巻く仕掛けが欲しいな」

「他には?」

「遠くに飛ばすために先端を少し重くするか?」

 モズラは俺が言った改善点をどんどんメモしていく……。

「……ご主人様の世界の釣りはかなり進歩してますね」


「あとは……、あれだ。(モリ)だな……」

 俺はモズラに絵を描いた。小学生の落書きレベルの絵だが、モズラは真剣に質問をしてくる。

「ごむ? ですか……?」

 まだ見つけていないだけかもしれないが、ゴムがない。迷宮都市育ちのモズラが知らないのであれば、きっとないのだろう。

「用途を考えると体を早く動かして代用ですかね?」

 きっと現実なら、水の中でそんなことができるのか、疑いたくなるが……、この世界の能力補正なら、それで充分お釣りがくる気がするから怖い。

「手元に風の魔石を内臓してみるか?」

「残念ですが、急造でそんな加工はできませんよ」

 ジェットエンジンを積んだ銛……。モズラにあっさりと一蹴された。

 異世界っぽい案を出してみたが、ダメか……。

「試作品を作ってみますね。後で見てください」

 モズラはメモを持ってクラリーのもとへ向かう。新しい知識を試せるのが楽しみなようだ。モズラが珍しく鼻歌を歌っている。


「今日の夕食は自分たちで作るので、いりませんと伝えてきました」

 アンジェが気を利かせてくれた。同じ宿屋にギラーフたちまで泊まることに……。宿屋のおばさんも20人前の食事量だと大変そうだからな。すでに代金は支払っているが、今回は調理場を借りる代金だと思えばいい。

「ありがとう」

「家族が食べる分は料理班の仕事ですから」

「釣れなかったらどうしようか……」

「海中迷宮にも入る予定ですし、大丈夫じゃないですか? ちょっと勉強をしてきます」

 アンジェは魚料理を知らないので、これから料理屋の店主に聞きに行くそうだ。

 職業が同じ者同士、きっと話が合うだろう。


「「海に浮かぶ乗り物を作りたいです!」」

 順番待ちをしていたスオレとリオーニスがウズウズして聞いてきた。

 物が浮くという知識はあるようだが、具体的にどんな形をしていれば乗れるのか、知らないようだ。

 大工であって、船大工じゃないんだけどな……。

「そうするとボートか、小型の舟か……」

「何か知ってるんですね!」

 俺でも知らない舟の作り方をどうやって説明したらいいのか悩んだ。人が乗る以上、バランスも考えなければいけない……。

 将来的には乗り物の1つとして、便利なのはわかる。

 仕方ないので、笹舟をイメージした紙の舟を作った。

 異世界で折り紙をするとは思っていなかったので、知識がない。

 今回は形が悪すぎるが、これを水に浮かべて満足してもらおう。

「「ありがとうございます!」」

 2人で仲良くお礼を言ってどこかに消えた。


 みんな自由時間を満喫できていいな……。



「暇すぎて死にそうニャ~」

 さっきから床で静かにゴロゴロ転がっていたリズが騒ぎ出す。

「ギラーフについて行けば良かったのに……」

「私は後衛職ニャ」

 ごもっとも。

「モズラとクラリーと一緒に工作は?」

「縫い物は得意だけど、工作は苦手ニャ」

 家庭科は得意だけど、技術は苦手。乙女か!

 いや、リズは女の子だった……。

「アンジェと一緒に魚料理……を……」

 魚の話題が出ただけで、ヨダレが垂れている。

「アンジェにダメって言われたニャ」

 そりゃ、言われるわ……。そして半泣きになるな……。

「暇ニャ~」

 ゴロゴロ……。ゴロゴロ……。ガンッ!

 机の足に頭をぶつけて、無駄にHP回復水を使うリズ。

 このまま野放しにしておくと、永遠にゴロゴロしていそうだ。猫っぽくていいけど。

「それなら久しぶりに二人だけで観光にでも行くか……?」

 打ち合わせは終わったので、水着が用意できるまで俺も暇だ。

 色々あって、まだ観光をしていない。

「行くニャ!」


 宿の外に出ると長蛇の列。

 どこから情報が漏れたのか、ビエリアルが中級回復魔法の使い手であるとバレた。

 ビエリアルは中庭に集まった怪我人に魔法をかけている。現在無料診療で絶賛営業中。

 ビエリアルの自由時間だ。人に迷惑をかけていないなら使い方は自由。放っておこう。


 リズが外を歩く時は水魔法で周囲の水分を補給する。砂漠にじょうろで水を撒いても効果はないかもしれないが、やらないよりは湿度を上げられる。

「リズ、ご苦労様」

「ご主人様に言われたからやっているだけニャ」

 リズは恥ずかしそうにそっぽ向くが、しっぽはビュンビュンと動いていた。そして狙っているのか、俺の足にペチペチ当たっている。

「あっちに人だかりニャ!」

 リズがそっぽ向いた先には、確かに人だかりができている。


 近づいて確認をすると30人程の集団が出来上がっていた。中心ではミーナが踊って、エリスが商売をしている。

 きっと夜の酒場で踊れば、これの倍は集客できただろう。

 俺がそんなことを考えていると、丁度オルゴールの音が止まってしまった。

「用意していた魔石の魔力が切れてしまいました。また機会があれば……」

 ミーナはいくつかの魔石を手に持って、集まってくれた人に説明をしている。

 犬の国では魔法はレアだ。使える者はほぼいない。つまり集団の中に補充ができる者がいない。

 ミーナの説明に集まってくれた人は、名残惜しそうに三々五々散ってゆく……。

 もちろん、そんな状況下でリズが名乗りでない訳がない。

「私が魔力を補充するニャ~!」

 その一言がミーナの踊りよりも歓声を上げさせたのは御愛嬌だ。

 リズは1つずつ魔法を使って補充する。これは人前で2つ以上の魔法を同時に使える事を隠すためだ。

「リズさん。ありがとうございます」

「気にするニャ」

 俺たちは補充を終わらせると、さっさとその場を離れた。

 何人か俺たちに手を振ってくれたので、2人で振り返す。


 城の方へ近づくと活気溢れる出店があった。

「お嬢さん、砂ネズミの串焼きはいらんかい?」

 ネズミとか、ノーサンキュー。

「少しコリコリしていて旨いよ!」

 コリコリってなんこつ? でもネズミってだけで、全然そそられない。

 俺はリズを引っ張って通過しようとするが、リズは出店の前から動かない。

 そしてリズはポケットに手を入れた!

 買う気か……。猫とネズミだもんな……。


 ダラダラと垂れる…………、汗。



「お、お金を落としたニャ!」

 さっき宿であげたのに、もう落とすとか……。

 スカートのポケットを引っ張り出して裏返すが、お金は見つからない。

 宿の床でゴロゴロしているうちにポケットから滑り出していても不思議じゃない。

 リズらしいと言えば、リズらしい。

「1本もらおうか……」

 俺がお金を払うとリズは期待の眼差しで見てくる。

 これがネズミ以外なら、自慢して食べるという選択肢もあるんだろうが……、ネズミだ。俺には難易度が高すぎる。

 俺は美味しそうな香りのする串焼きをリズに食べさせた。

 リズの顔が喜びでほころぶ。

「コリコリする食感。噛むと溢れてくる肉汁。オークの肉を超えたニャ!」

 1本100モール。迷宮都市の串焼きが30モール。あちらはモンスター肉ではないので、安かった。

 オークを超えた肉……。

 俺は目を瞑って、深呼吸をする。気合いを入れないと食べる勇気がでない。


 よし。今なら食べられる!


 俺はゆっくりと目を開けた、まさにその時!

「食べないならもらうニャ」

 串焼きをリズに強奪された……。

 頬に手を当てて、幸せそうに食べるリズ。

「……」


 最初こそ奪われて怒りそうになったが、冷静になって考えてみると、青田は美味しい物を食べていなかった。きっとこの国の食べ物は美味しい物に分類されないはずだ。

 一時の気の迷いで、取り返しのつかない事をするところだった……。

「ご馳走様でした」

 リズはきちんと手を合わせて言う。

 最初の頃は本当にひどかったけど、今ではお上品に食べられるようになった。

 その後にさらに2本追加購入して両手に1本ずつ持って食べ歩きさえしなければ、褒めていただろう……。




「次回……予告………………ニャ……」

「なんで元気がないんだ?」

「時間が経ったら、串焼きが冷めるニャ……」

「串焼き食べちゃっていいって……、待ち時間の間に食べ終わったら、復活する仕様になってるって……」

「ご主人様より太っ腹ニャ! 次はギラーフが出てくるニャ! 串焼きを食べるのに忙しいから、またニャ!」

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