継承権剥奪
「そなたがそう言うなら、そういう事にしておこう」
女王は目を細めて青田を見た。
あの行動を見るに、女王は魔法を使った事に気が付いている……。問題は誰が使ったのかって事だ。説明しても、実際に見ないと、バカっぽいリズとは結び付かない……。
今もリズは瓦礫を触って指を切り、フローラのお世話になっている。これが普段のリズ……。
しかも今日は農作業をするだけなので、杖を持っていない。見た目だけでは魔法使いと判断するには難しい。
「すみません♪」
「よい、最初に無理を言ったのは私だ」
この女王は、そんなに偉そうな口調を使わないな……。王と民の会話だよな……?
「聞きたいのだが、君たちは敵同士ではなかったのか?」
俺とギラーフとコーシェルが仲良く並んでいたのが、気になったようだ。そもそもギラーフとコーシェルはさっきまで表面上は闘っていた。
「この二人は師弟関係で、この辺りにいるのは全員、俺の家族です」
ギラーフとコーシェルを先に紹介して、後方で様子を見ていた他のメンバーをグルッと腕を回して指差した。
女王は端から端まで一通り顔を見ると、ある一点で顔が止まる。
「ということは、君たちがアキリーナを受け入れてくれた人たちかな?」
俺が指差した範囲内にアキリーナの姿があったからだろう。
俺は慌てて頷いた。
「そう緊張せずともよい。もうすぐ娘の夫になる男だ」
女王はしてやったりという顔をする。
「でもアキリーナはまだ『継承権』を捨てておりませんが……」
「そうだったな。そなたは国を継ぐか? この男のそばにいたいか?」
女王はアキリーナに向き直り質問をする。
二人が並べば母娘であることは一目瞭然。
「私の気持ちは以前より決まっておりました。女王様、私は一生この方のおそばにいたいと思います」
アキリーナは女王に微笑んだ。
自分を捨てたはずの女性を前にしても、微笑むことのできる人がいったいどれくらいいるだろうか……。
この子は女王の器だと思う。
「うむ。よくぞ申した。だが……」
女王は一拍おいた。なぜか一瞬ナミタリアの顔を見た気がする。
「継承権はクラスを〈クイーン〉にしてから放棄するとよいぞ」
※クイーンのクラス特性:発言に重み付与。
こんなの使う機会があるのか? 砂漠称号も、吹き力称号も結局使ったけど……。
「では、そのように」
アキリーナは女王に一礼をした。これには別れの意味もありそうだ……。
この国にいる間だけは母娘の時間を邪魔しないようにしよう。
「ところでモズラ……。2人が同時期に〈クイーン〉になれるのか?」
1つの国に女王が2人とか聞いたことないよな……?
あれ……、俺はまた馬鹿みたいな発言をしたか? モズラ様が溜め息を吐いたぞ……。
「どう説明しましょうか……。国は犬族だけではないので、全部で1人だったら戦争が起きますよ」
クラスの奪い合いで戦争とか……。
「継承権があるうちは継承順位の順番で就くことができます。もちろん実際に国を継ぐのは1人です」
よくわからないが、アキリーナが〈クイーン〉になってもナミタリアが王位を継げるのか。少し不思議だ。
俺がモズラにこっそり、この世界の事情を習っている間に事態は進んでいた。
「フーリエンの継承権を剥奪する」
フーリエンが目覚めるのを待っていた女王が宣言した。
実際には剥奪を宣言されてもクラスが変更されるわけではない。今も『第2候補』は継続されている。
しかし、大勢の前で国のトップに宣言されたため、この場合は継承が許されない立場になったという訳だ。
「待って下さい。私は嵌められたのじゃ!」
女王相手だと『余』って言わないのな……。
「あなたの罪は色々聞いています。言い逃れはできません。本来であれば打ち首ですが……。労役の刑です、すぐに連れていきなさい!」
きっと俺のように邪魔に感じた存在は次々に殺してきたのだろう。
「「はっ!」」
左右から兵士が拘束して連れて行く。
「無実じゃああああ。そうじゃ、そこの男に唆されたのじゃ!」
無実を訴えているフーリエンが、去り際、俺に罪を擦り付けてきた。もちろん全員でスルー。
女王が手で合図を送ると側近を残し、兵士が一気に中庭から去る。
「これでナミタリアを次期女王にできれば、簡単なのですが……」
アキリーナは放棄、フーリエンは剥奪。消去法で女王じゃダメなのか?
「実績がないので、反対する者が……」
なるほど……。いろいろあるんだな。
きっと今までのナミタリアの政策はフーリエンに邪魔をされていたのだろう。
ゆっくり成果をあげられればいいが、今は緊急性が高い。
「そうなると、ここはキーリアの出番だな」
「……わ、私ですか?」
突然名前があがって、ビックリしたキーリアが家族の中から姿を現す。
「あぁ、お前なら、この砂漠を緑豊かな国にすることができるだろ?」
俺はキーリアの頭を撫でながら言った。
「モズラさんがいますので、肥料は作ってもらえますが……」
チラッとフローラの方を見た。すぐに土地の状態を改善するにはどうしてもフローラの力が必須だ。
「今夜中に国の内外を浄化してもらっておく」
俺はキーリアに耳打ちをした。
「ありがとうございます」
これでこの件は片付く。ナミタリアの政策だから、必要な人材はナミタリア経由でお願いすればいいか。可能な限り現地の人に慣れさせたい。
「海のモンスターで、その後の情報はないですか?」
俺が女王に聞くと、女王は側近に目配せをする。
「ご報告いたします。現在確認された水揚げ量は10体。すでに毒味が完了しているとの情報があります」
すると、俺たちだけで半分以上を食べたんだ……。
「……思っていた以上に少ないですね」
炭鉱の町から排出されたモンスターは約1000体だ。それを考えると……。
「周辺の魚を食べたために竿にかからなかったと推測されます」
そうなると、今夜から明日にかけて、ヤバくないか?
「死者、負傷者、行方不明者などは?」
「一人もおりません」
この世界の漁は釣りだけなのか?
「陸には来ない……?」
「『迷宮化』された時のモンスターなら陸に適応するのに約2日じゃないかな♪」
げっ! 2日以内に迷宮都市に帰ろう……。
「次回はいよいよ。国を見捨てて帰るニャ!」
「リズ……。次回予告って宣言してから偽情報を流そうな……」
「わかったニャ!」
「あの~」
「今度はフローラが私のコーナーに顔を出してきたニャ」
「宣言しても偽情報は流しちゃいけないと思いますよ……」
「1週間以内に帰れば許容範囲ニャ! 小さい事を気にしていたらシワが増えるニャ」
「リズさん! 予告がんばって下さい」
「フローラが向こうで〈保湿クリーム〉を使ってるぞ……」
「負けられないニャ! ではまた来年!」
「リズの許容範囲ひろ!」




