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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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師弟対決

「この刀を使え!」

 ギラーフはコーシェルへ抜き身の刀を投げる。力強く投げられた刀は忍者が投げたクナイのようにヒュっと一直線にコーシェルのもとへ。

 俺がギラーフに『短剣』を投げた時とはえらい違いだ……。刀がキレイに飛んでいる。得物が長い方が回転しにくいのか? きっと俺が投げたら長くても同じだろう……。


 コーシェルは刃先が横を通過した直後に体を回転させ、追うように持ち手を握る。

 そのまま刀の推進力を利用してコマのように体を1回転させると、刃を上にして一瞥した。

 突然コーシェルの顔に笑みが浮かぶ。

 すげぇー。ギラーフを見ているようだ……。私兵たちも一連の動作の練度の高さに静まり返っている。

 そして今まで装備していた刀は隣にいたリオーニスに預けた。そこは少しオロオロしたコーシェルが顔を出す。

 中段に構え直したコーシェルの先にはギラーフが立っている。

「……参ります」


 コーシェルのかけ声を合図に両者が同時に駆け出した。2人とも一瞬で加速する。

 ガンッ!

 まずは刃と刃をぶつけて力比べ。

 最初の鍔迫り合いはコーシェルが1歩リード。

「いきなり激しいな……」

 一応2人ともパーティーに加入しているので、俺の称号の恩恵を受けている。

 それにしては二人とも、特にギラーフの動きがやや悪い気がした……。

「なんだか、2人がダンスをしているみたいニャ」

 ギラーフが右に動けば、コーシェルもそれに合わせて右に動き、コーシェルが上から攻撃すれば、ギラーフが下から合わせる。

 たしかに互いの位置を入れ替えながらダンスをしているようだ。

 キン! キン! キーン!


 1度2人とも距離をとって、微笑む。

 ギラーフは息を切らしていないが、コーシェルは肩で息をしている。

 単純な力比べでは、コーシェルに分があり、速さ勝負ならギラーフに分があるように見えた。

 ギラーフは徐々に速度の落ちてきたコーシェルを気遣って間を取ったに違いない。

 コーシェルは最後に大きく深呼吸すると、再びギラーフに斬りかかる。


「みんなの意識が2人の戦いに集中しているね♪」

 青田たちが俺たちのそばまで来ていた。俺もいつの間にか見とれていたようだ……。


 2人のダンスが開始されてから2分ほどが経過した時。

「煙幕ニャ」

 俺の視界には煙幕など、1欠片も見えない……。

「あっちと、そっちと、こっちと3方向から同時ニャ」

 リズが指をさしながら言う。

 嬉しそうに言うから、ピンチなのか、楽しいイベントなのか、わからない……。

 今の俺たちはナミタリアの護衛だ……。ナミタリアを守るべきか?

 迷っている間に青田たちがいた地点に矢の雨が降り注ぐ。

「「キャッ!」」

 リズがキョロキョロしているから、すでに煙幕の影響を受けているのだろう。

 上の窓からは私兵が再び矢じりを光らせている。

「みんな! さっき出来た壁の大穴に走れ!」

 俺の指示を聞いてみんなが走り出す。

 歩いてきた廊下の方が近いが、私兵の配置を考えると罠の可能性が高い。

 俺の声は家族だけではなく、私兵の耳にも入ってしまい、行く手を阻むように今度は大穴の前に矢の雨が降り注ぐ。

「ちっ! ウーリー頼む」

「石柱君、みんなを守って」

 ウーリーは隠し持っていた()を投げる。透かさずリアラが石柱君の上に氷の屋根を作った。二人のコンビネーションで見事、巨大な傘が完成。

 煙幕の中、石柱君が落下した音だけで、よく中心点がわかったな。俺たちと離れている間も目隠し特訓をしていたのか……。助かった。

 石柱君が腕を出して傘の受け骨の役割をしている。

 打ち合わせなしでよくやった!


 しかし、降り注ぐ矢の絶対数が多い。

「1ヶ所にヒビが入った。もう持たないぞ。急げ!」

 リアラの氷は数秒間だけ時間を作ってくれた。家族を逃がすためには、貴重な数秒間だ。

「余の邪魔をする者は、誰であろうと死んでしまえ!」

 目を血走らせているフーリエンが再び矢を放つ命令を下す……。

「そこまでじゃ」

 凛とする声音が喧騒の中に響き渡った。頭に直接浸透する声だ。

 すでに弓を引いた私兵が声を聞いて硬直する。硬直の中、何名かの手から弦が離れた……。

「リズ、全てを吹き飛ばせ!」

「任されたニャ」

 天に向かって撃たれる初級風魔法の3段合成。

 リアラの氷の屋根を粉々に吹き飛ばし、煙幕を一瞬で無に返す。放たれた矢は向きを変え、壁に突き刺さった。

 さらに真上に撃たれたわけではないので、進路上にあった建物の上半分を根こそぎ吹き飛ばす。

 さすがにやりすぎだろ……。


 昔、何度も……。人の努力を全て無にするほどの魔法を手に入れられたら、どんなにいいだろうと思ったことがある。1回の魔法でこの惨状……。

 家族はリズの背後にいたから平気だったが、吹き飛んだ破片で至るところが傷だらけのフーリエンを見た時、俺は人の努力を讃えられる人になりたいと思った。


「お前だけは……殺す!」

 リズの()()魔法に巻き込まれたフーリエンは、最後の力を振り絞って矢を放つ。放たれた矢が、アキリーナに迫る。

 上空を見ていたアキリーナはゆっくりとした動きで振り返った。このままでは避けられない!


 ギラーフが咄嗟に矢の進路上に体を滑り込ませ、その身で受け止めた。


 この光景を手紙は指し示していたのか……。矢はギラーフのコートを突き破る。


 カンッ!


「んなっ!」


 フーリエンの放った矢は無情にも甲高い音を立てて弾かれた。

「なぜじゃ……」

 顔が驚きに染まる。

 もう一度矢を放とうとするが、弓を落とし、そのまま膝をつき脱力した。

 血の流しすぎだ……。今もHPが減り続けている。


「コートの下にきちんと鎧を着ていたんだな……」

 俺はギラーフに近づき声をかけた。

「はい」

 コートを脱いだギラーフは服を着ているだけだ。

「あれ……? 鎧は?」

「ガラスの鎧を着てますよ」

 ギラーフは鎧を叩いてコンコンッと音を出す。

 きっと『バカには見えない鎧』を着ているんだな……。俺はバカだから全然見えない……。


 俺がギラーフと会話していると、突然、中庭にぞろぞろとお揃いの鎧に身を包んだ団体さんが進入してきた。

 キレイに中央ラインが開き、一人の女性が歩いてくる。

「現王のお出ましだよ♪」

 青田が俺の隣へやってきて、囁く。

 王って女王だったのか……。ティアラを頭にのせているから、えらい人なのは予想できたが、女王って城から外に出るんだな……。

 クラス〈クイーン〉。かっこいい。

 名前は……『ハルリーナ』って……。あんたが『春』かよ! 全員⭕⭕リーナで良かったじゃないか……。

『隠し子』だからこそ、自分の名前をあげたのか……?


 女王はフーリエンに近づき見下ろす。傷だらけの我が子を見ても表情一つ変えない。

「裁きを下す前に、誰か回復をしてやれ」

 女王は後方に向かって声をかける。

 リズが張り切ったせいで、フーリエンが瀕死だ。

 このまま死なれても、正当防衛なのでリズが〈人殺し〉になることはない……。

 ビエリアルがサッと近づき、中級回復魔法でフーリエンの治療を行う。

 一瞬で傷が治り、HPが回復した。

「ほぉ。そなたは中級回復魔法を使えるのか……。私に仕えぬか?」

 女王の言った回復はきっと〈回復アイテム〉を指していたのだろう……。犬族じゃ魔法は皆無だ。

 なんぼ女王でも、勝手に俺の家族をスカウトしないでもらいたい。

「私にはすでに仕えるべき主がございます」

 ビエリアルが視線を向ける。


 うん。向けた相手は俺じゃない。ギラーフだ。


 最初にギラーフの顔を見てから、慌ててこちらを見やがって……。

「そうか、残念だな。最後の風はどうやったのじゃ?」

 女王は俺の方を向いて聞いてきた。

 どうやって説明すればいいのか……。俺は頭を掻いて考えるが、全く浮かばない。

「アイテムを使っていましたよ♪」

 え……? 青田がリズをかばった……?

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