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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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時間がありません

『内政職が活躍する日』の続きです。

 ギラーフの顔を見ると、口許の周りを僅かに綻ばせている。どうやらみんな洗脳されているわけではないようだ。そうなるとエヴァールボがいるから作戦だろうか?

「あっ! ギリャーブゥ……」

 リズのバカ! ゲンコツの計だ。

 ギラーフたちが知らないフリを成功させているのに、台無しにする気か!

「……痛いニャ」

 リズは両手で頭をさすって涙目になる。自業自得だが、ちょっと本気でやり過ぎたか……?

「フローラはリズの面倒を見てくれ」

「わかりました」

 フローラはすぐにリズの隣に行き、俺が叩いたところを撫でている。とてもさりげない近づき方だ。

 リズは舌を怪我したようで、フローラがHP回復水を飲ませていた。

 これなら安心して問題児(リズ)を任せられる。

 1番古参のくせに1番手がかかってしまう……。子供が生まれてもリズはリズの予感がする。


 俺たちは倍以上の数の私兵に周りを包囲されて、一際大きな邸宅に案内をされた。

 右に曲がったと思ったら、左に曲がって、また右に。

 広すぎて地図がないと迷子になれる自信がある。


 今度は重苦しい扉の前でしばし待つ。

 ようやく中から入室の許可が下りると、扉の前で警備していた男が片手で扉を開けた。重苦しいのは見た目だけか……。

 通された部屋には、中央に赤い絨毯。少し進んだ先には段差があり、上った先には高級そうな金で装飾された椅子が1脚。その椅子にはこの邸宅の主だろう高級そうな服に身を包んだ女の子が座っている。

「余はフーリエン、この国の『第1候補』じゃ」

 フーリエン。『第1候補』と名乗っているが、ステータスのクラス特性のところに『第2候補』と書かれている。

「存じております」

 顔は双子というだけあり、アキリーナにそっくりだ。家族の中にも見分けがつかない双子がいるから、もう驚かない。

「ふむ。そなたたちは砂漠に種を撒き、1日で芽吹かせたというのは、まことか?」

「事実にございます」

 俺はことさら丁寧な口調で話す。

 やはり、1番気になっているのは、その事か。

「そうか……。これからこの国に緑をもたらす事は可能か?」

 一瞬フーリエンが苦虫を噛み潰したような顔をした。まだまだ子供だ。国のトップに立つ人材は思っていても表情に出しちゃいけない。

「犬族のみでは限界がありますので、無理でしょう。しかし、他種族の力を借りれば、いずれ緑豊かな大国『ワヌン』と呼ばれる事は間違いありません」

 また一瞬フーリエンの顔が歪んだ……。目で近くの兵士を見ただけで、背後の兵士が動き始めた。よく訓練をされていること……。

 これで1番邪魔な存在は俺に認定されただろう。

 狙いが1人の方が守りやすいというものだ。

「それは楽しみだな。もう帰ってもよい。気を付けて帰るのじゃぞ。特別に中庭まで見送ろう」

 帰りは危険なようだ……。こんなあからさまなフリがあって、警戒しない方が変だと思うが……。

「ありがとうございます」

 先にフーリエンが退室する。俺たちは頭を下げて、道を譲ると後に続いた。


 帰りの廊下でエヴァールボが声をかけてくる。

「そこの者、これを落としたぞ」

 またメモか……。

「これはこれはご丁寧に。大切なメモ書きをなくすところでした」

 コラ! エヴァールボ。耳打ちできないからってみんなの死角で手をくすぐるな。


 メモの表紙には『時間がありません』か……。やはり帰り道に襲われるのは確定事項のようだ。

「俺が合図をしたら臨戦態勢を……、それと俺の手元が死角になるように陣形を変更してくれ」

 俺はみんなにだけ聞こえるように下を向いて指示を出す。


 死角が出来上がったことを確認すると、さっそくメモを読む。炭鉱の町以来の……。

『ラブレターではありません』

 あれ? やっぱりこのメモ変だよな……? 会話になってる……。

『真面目に読んで下さい』

 はい、すみません。

『まずは時間を稼いで下さい。やり方は最後に書いておきます』

 さすがエヴァールボ様……。素敵です。

『3分が経過す……』

 前が急に止まって、ノルターニにぶつかってしまった。

「下ばかり見ていたら危ないぞ」

 メモがまだ途中なのに、フーリエンの配下にバレた。3分経ったら何が起こるんだよ……。


「ここが『中庭』じゃ、そしてお前たちの『墓場』じゃ」

 早くもフーリエンが本性を現した。

 宣言とともに隠れていた私兵50人ほどが俺たちを囲む。ただし、1角はギラーフたちが受け持っている。

 中庭で仕掛けてくるのは読めていたけど……、テイムモンスターがいないのが難儀……。

 最初ギラーフたちは見物をするようだ。

「ウーリー、()は持ってきているな?」

「もちろんです」

 ウーリーは懐に仕舞っている棒をチラッと見せる。


「へぇー、面白い事をしているね♪」

「そうですね。これからこの国の『第1候補』として、ご挨拶をしようと思っていたんですが……」

「青田様、アキリーナ様まだ登場タイミングが早いですよ。ナミタリア様を見習って下さい」

 左手斜め上の窓から声が降ってきた。これで役者はそろったのか。どうも筋書きがあるようだな……。

「『第1候補』じゃと?」

 フーリエンの耳にも聞き捨てならないワードが届いたようだ。慌てて上を向く一同。

 隙だらけだ……。これが国の主力兵なら、すでに国は侵略されているな。


 俺は肺に空気を入れて一気に宣言する!

「ここが俺たちの『墓場』とまで言われたんだんだ、返り討ちにするぞ!」

 エヴァールボが手を額に当てている。

 あれ……? 間違った……?

 上を見ると青田たちも唖然としている。あ、青田が紙を破った。みんなごめんね……。俺のせいで筋書きがなくなった!

 みんなの視線が痛い……。


「こんなタイミングの出番で悪いな」

 俺は鎧の中に隠していたピンポン玉サイズのボールをギラーフ班のいない右前方へ。

「ピッチャー第1球、投げました!」

 大岩さん(鉛バージョン)が大きくなりながら、壁へと衝突する。壁は大岩さんの突進力に負けて大穴を開けると、壁がキレイに崩れた。

 フーリエン勢は信じられない光景を見て、5歩ほど後退る。


「うーん。俺が悪者になってないか?」

 冷静になって考えてみると、継承権のある者を襲っている構図だ……。


「最初は私が行きます」

 ギラーフがため息をしてから、宣言した。

 ご迷惑をおかけしております。

 とうとう『問題児』と書いて、『リズ』と読む日が来てしまいました……。

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