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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第1章 奴隷少女を購入します。
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迷宮都市『アスガディア』

 山賊の襲撃を大した被害もなく乗り越えた俺たちだったが、貴族御一行には手痛い被害が出たようだ。

 護衛たちの亡骸は馬車に乗せて迷宮都市まで運び、弔う事となった。

 クラス〈人殺し〉に関しては奴隷商に売れないらしいので、貴族御一行の捕らえた山賊と交換してもらう。

 その後の彼らの行方を俺は知らない。


 夜は体力の残っているメンバーで順番に見張りを交代する。人数の関係で俺たちも手伝う事になった。

 ただで馬車に乗せてもらって、断るほど恩知らずではない。

 俺の順番の時には護衛たちの中から〈盗賊〉が選ばれて一緒に見張りをする。

 夜行性のモンスターがいるとの事で〈盗賊〉が変な煙を起こしていた。スライム軍団とオーガは平気だったのに、パンダ様がその匂いを強く嫌がっていたから、獣系のモンスターに効果があるのかもしれない。

 結局二時間。

〈盗賊〉は何度か夜回りをしていたが、俺はずっと煙が消えないように、風上に座って番をしていただけだ。

 煙のおかげか、本来この道は優しいルートなのか、特段何も起こらずに終わった。


 翌日。

 俺たちの使っている馬車には交換した山賊も含めて一二人がいる。こいつら――臭い。

 御者の席に避難して、ついでに馬車の操作を覚える。

 旅と言えば馬車だろう。この世界にいる限り体得しておくに越した事はない。


 もう一回野営をする予定だったけど、思わぬ死者を出してしまったために、強行軍で進む。

 休憩の時は馬に水を与え、体力の回復は〈聖職者〉が回復魔法をかけていた。御者の話を聞くまでもなく予想は出来ていたが、こんな事をしているとすぐに馬が使えなくなるそうだ。しかし、誰も貴族に文句を言えずに潰す覚悟で走らせた。

 その結果、夕方には目的地に到着する。


 迷宮都市『アスガディア』

 ゲーム時代は五つある迷宮都市の中で、もっとも治安がいいとされる都市。

 御者の話では、都市は迷宮と共に育つとされ、中心に迷宮がくるように開拓された都市である。そのため中心に近づくほど生活がしやすい。

 また北から南に向かって大きな川が流れているため、北の方には清潔な水を求めて貴族街が出来上がっている。


 東側から到着したが、ぐるっと城壁にそって迂回し、貴族専用の北門から入った。特に待ち時間はなく、手続きや検査の類いもない。もともとないのか、貴族が特別ないのか知らないけど、みんなが驚いていないので、これが当たり前のようだ。都市を囲む壁の高さは約一〇メートル。その分厚さは約一メートル、モンスターと言う事を考えると比較的薄めか?

 東はそうでもなかったが、北は完全に白い壁で出来上がっていた。

 貴族が住んでいるから、硬い素材の壁なのかもしれない。


 そのまま馬車が低速で進み、突然大きな屋敷の前で止まった。ここで前の二台と、後ろの二台を除いた中間の三台が敷地内に入っていく。ここがあの貴族の家の前なのか?

 執事のような爺さんが出てきて、俺に封筒を渡す。

「こちらが謝礼金になります」

「ありがとうございます」

「本日はすでに遅いですから、宿は『月光』をお使い下さい。それでは」

 それ以外に俺に用はないのか、(きびす)を返して歩いて行く。

 冒険者だから、この程度の扱いなのか?

「荷台の山賊を下ろしたら、あっしの仕事も終了でいいですか?」

「あぁ、すまない」

 御者の人が場所を知っていたので、奴隷商のところまで送迎してもらった。


 奴隷商人の館。

 この世界では奴隷が合法化されているのだろう。一階を隠すように高い塀はあるものの、表通りに平然と立っている。

 危険な仕事や、戦闘の時の壁を任せるにはいいのか?

 館の外には上下とも黒い丈夫そうな服を着た若い男が一人立っていた。

「山賊を売りにきた」

 用件を伝えると扉を開けて中に連絡をとる。

「テイムモンスターを休憩させたい」

 今度は建物横の庭スペースを指さした。

 テイムモンスターはそこで休憩させる。

 結局、外の若者は俺とは一度も喋らなかった……。無口? 人見知り?

 脱走されないためか、扉が重く、とても頑丈だ。

 中に入ると、外の若者と同じ格好だけど、お腹にたっぷりと脂肪を付けた人が挨拶をしてくる。

「いらっしゃいませ」

「捕まえた山賊を売りたいが、こちらで構わないか?」

「はい」

 一階の奥の部屋に通された。

 室内は調度品が無駄にピカピカしている。奴隷商って儲かるのだろうか……? 貴族を相手に商売をする事があるから、きちんとした制服を用意しているのか?

「そちらにお掛けください」

 二脚ある長椅子の指定された左側に座る。

「表の馬車に男が一二人いる。全て売りたい」

「査定いたしますので、少々お待ち下さい」

 頭を軽く下げてから、出ていった。


 長イスに座っていると、扉をノックして人が入ってくる。

「お茶になります」

 また黒い制服に身を包んだ、でも、今度は年配のキレイな女性が飲み物を持ってきてくれた。

 そして仕事が終わるとすぐに出ていく。また一人ボッチ……。この世界の人間は俺に関心がないのだろうか。

 うーん。お話ししながら査定を待つという選択肢もあったと思うぞ?


 五分後。


「お待たせいたしました、男が一二人で三〇万モールになります」

 内訳は一人三万モールなのだが、パンダ様の攻撃を食らって、骨折がひどく、査定にひびいたらしい。

 切り傷、打撲程度なら初級職の〈聖職者〉が治癒出来るが、骨折になると中級職の〈聖導師〉か、時間をかけて治癒する必要があるとのこと。

 それは仕方ない。山賊をすぐにでも無力化するためにパンダ様が頑張ったのに、どうして文句を言えようか。

「それで構わない、ついでに奴隷を購入したいが可能か?」

「もちろん、可能でございます。ご希望はございますでしょうか?」

 正直……。希望を言えばきりはないな……。どうしよう……。

「予算は三〇万モールほどで、迷宮探索が可能な若い女性を頼む」

 謝礼金の一〇万モールもあるから、四〇万モールまで買えるが、その後の生活費を考えると三〇万モール辺りが限度だろう。

「それではご用意致します」

 小太りのおっちゃんが出ていく。

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