内部調査をします(ギラーフ視点)
「夜襲は仕掛けてきませんでしたね。少しは信用してもいいのでしょうか……」
ご主人様と生活するようになって、いない夜は初めてでした。
「『王位継承の式典』が行われるまでは従順なフリをしましょう。きっとご主人様も参加されますから、遅かれ早かれ会えますよ」
「そうですね」
エヴァールボが大胆な作戦を立てます。ご主人様、待っていて下さい。
特にすることがないので、これからの作戦を話し合っていると、突然部屋の扉がノックされて兵士が数名入ってきます。
「こちらに着替えて下さい。得物がなければ、こちらでご用意致しますが、中に装備する鎧はそちらで準備して下さい。連絡は以上です。声がかかるまでは、建物内を自由にしていて大丈夫です」
「わかりました」
どうやら、お揃いの衣装(コート)に身を包むようです。
「ギラーフはコートの下に、こちらを装備しておいて下さい」
「まさか!? これは……」
「私は今でもあなたの胸が射抜かれる夢を見ます。左目を事前に治すために書かれた手紙の可能性もあります。それでも……」
エヴァールボが涙を堪えて懇願してくるとは……。
「ありがとう」
本当はどんな攻撃であっても、避けられる自信がありますが……。この国にいる間は、エヴァールボの気持ちを尊重しましょう。
私は用意されたコートに身を包み、建物内を探索します。とても広いので時間を潰すには事欠きません。兵士の許可があるので、堂々と内部調査中!
エヴァールボは興味がないようで、邸宅に併設されている鍛冶場で作業をしながら誰かと連絡を取り合っています。朝からエヴァールボの指示を受けたリアラが何度もこっそり建物を出入りしている姿を見ました。誰と連絡をとっているのかを聞いても『本番のお楽しみ』と言って、詳細を教えてくれません……。
昼前に伝えたい事があると、フーリエン様が代表で私だけを呼ばれました。
「まだ極秘じゃが『王位継承の式典』が延期になった」
きっと今のままでは『第1候補』不在で執り行う事になるからでしょう。
フーリエン様はとても悔しそうな顔を一切隠すこともなく、どこにいるのかもわからない敵に敵意を剥き出しにしています。
「そしてもう1つ、余の政策の邪魔になる者たちが現れた。その者たちを直ちに捕らえてくるのじゃ」
不敵に笑っているので、どうやらこちらはすでに敵の場所がわかっているようです。
「その者たちの特徴をお聞きしてもよろしいですか?」
「詳しい話は、そこの使えぬ男から聞いてもらいたいのじゃが、どうやら昨日の昼過ぎに国に入った12名の若者らしい」
昨日の昼過ぎですか……。フーリエン様は1秒でも早く邪魔者を排除したいようです。
「わかりました。ではこれから戻ってすぐに準備致します」
私は一礼してから退室した。
部屋に戻り、先程フーリエン様が言われた言葉を家族に伝えます。
「いよいよ、ご主人様に会えますね」
モズラもご主人様の顔が浮かんだようです。
「式典の延期ですか……。準備期間が延びて助かる反面、バレる確率が上がります。それと偽情報の可能性も……」
さすがに、エヴァールボは深読みし過ぎじゃないですか?
私たちは12人を捕らえるために30人規模の部隊で囲みました。やはり若者はご主人様でしたね。そんなに見つめられるとバレてしまいますよ……。
どうやら私たちの事を気遣って抵抗はされないようです。いざとなればいつでもお助けしますから、安心して下さい。




