魔境に足を踏み入れし者たち(ギラーフ視点)
時は遡って、ギラーフ班がこれから山賊を捕らえに向かう頃。
「それでは私たちは先に出発します」
コーシェルが作ってくれたコートはサイズがピッタリで、動きの阻害にならないように考慮されていますね。新品の物が着られる日が来るとは思ってもみませんでした。
「ケーレルは転職したばかりで、まだレベルが低いです。無理をせずに後方に下がっていて下さい」
ご主人様に預かった家族です。怪我をさせてはいけません。
「ありがとうございます」
多少の怪我ならビエリアルが治してくれますが、最近は回復魔法よりも、状態異常治癒魔法のレベル上げをしているようです。
先日『何度やっても、中級魔法はLvが上がらない』とご主人様に報告していました。モズラは中級職の『創製術』が使えるようで、暇なときにデュアル回復水を作っています。やることがある人は本当に羨ましいですね。
※創製術:錬金された物と素材を再錬金して2つの属性を持つ物を錬金する術。
※デュアル回復水:HP、MP、SPから2種類を同時に回復させる事ができる薬。
私も罠を設置すればスキルLvが上がるのでしょうか? 迷宮に入るだけなら解除ができれば充分なんですけど……。
方角的には迷宮都市がある方へ徒歩で真っ直ぐ3時間ほど進みましたが……。
「困りました。モンスターは群れでいるのに、山賊が全くいません」
「仕方ないので、ドロップアイテムを手土産にすれば、いいんじゃないですか?」
モズラの提案は、妥協案でしかありませんが、今は他に選択肢がありません。
「山賊がいないので、そうしますか……」
私はまた、ご主人様に言われた事を完遂できませんでした……。
私たちが犬の国まで引き返すと、時刻はすでに夕方を過ぎています。昼間は長蛇の列ができていたのに、今は人が少ないようですね。
「周辺のモンスターを退治してきたので、確認をお願いします」
「この量をお前たちだけで倒したのか?」
「はい。そうです」
そんなに驚く量でしょうか? リアラとナイラを中心に目隠し特訓をしていただけなので、実質2人分なんですが……。
「この者たちを直ちに連れていけ!」
え……? 門番の呼び掛けに詰め所にいた兵士もぞろぞろと集まってきました。
私は家族を守るために抜刀しようとすると、エヴァールボが柄頭を押さえ、首を左右に振って。
「今は従いましょう。私たちの力ならどうにでもできます。それに……、騒ぎを大きくしたら、ご主人様にも迷惑をかけるかもしれません」
私たちは抵抗することなく、兵士たちに連行されます。武器を取り上げないところをみると、犯罪者のような扱いを受けるわけではなさそうです。
連れてこられた大きな建物には、アキリーナさんにそっくりな方が座っていました。この方がフーリエン様なのでしょうね……。
「この者たちが、優秀な手練れたちなのか? 随分と若いのじゃな」
フーリエン様は隣の兵士に確認をしています。私たちが目の前にいるのに、どうして直接話しかけないのでしょうか?
「はい。この周辺で誰も立ち入らぬ魔境のモンスターを数体仕留めております」
そんなに強そうなモンスターはいなかったはずですが……?
「その様な所にどうして立ち入ったのか、確認はしたのか?」
「すみません、まだです」
「もうよい、使えぬ。そなたたちはどうして危険な場所に向かったのじゃ?」
「迷宮都市の方角を真っ直ぐ目指していただけです」
フーリエン様は一瞬何を言っているのか、わからずに止まると……。
「あはははは。方角は確かにあっておるが、魔境を避けぬとは……、おもしろいのぅ。そなたたち余に仕えぬか?」
「今日この国に来たのですが……、あなたはどなたでしょうか?」
「余は、フーリエン。この国を継ぐ『第1候補』じゃ」
やはり正解でしたね。
「とても嬉しいお話ですが、何分急なことですので、考える時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「おぉ、そうじゃったな。興奮して忘れておった。外を歩く時はコレを見える所に装着しておくのじゃ、余の護衛の印じゃ」
装着した時点で仕えたのと同じでは? さっきみたいに連行されるよりはいいですが……。
「泊まる所は決めておるのか? そんなに警戒せずともよい、余の配下に魔境のモンスターを倒せる程の実力者はそうはおらん」
「ここは考える時間を作るためにも、誘いに乗っておきましょう……」
エヴァールボが耳打ちでこの場をうまくやり過ごす方法を教えてくれました。
「それではお言葉に甘えて、本日はお世話になりたいと思います」
私たちはフーリエン様が用意して下さった邸宅で一夜を過ごしました。念のため、交代で夜の番をしながら……。




