内政職が活躍する日
俺たちはナミタリアの護衛という名目で雇われることになった。しかし実際の仕事は護衛ではなく、昨日耕した区画の拡張作業だ。区画は大工→細工→浄化→農婦→水魔法という流れ作業で次々に拡張していく。フローラの浄化魔法でズルをするからとても効率がいい。
「12人でやると早いな」
「そうですね。緑が増えると思うとやっていて楽しいです」
キーリアは今日も生き生きしている。内政職が活躍する日って本当に来るんだな……。
俺は手が空いたので、昨日の実験結果を確認した。『石サル』をテイムした時に得た称号は、サル族のキーリアにも恩恵を与えている! これはすごい発見だ。今後はテイムする時、種族系モンスターの優先順位を上げる事になるだろう。
この実験が成功したなら……『魔法使いの友』も実験しておくか? これ以上暴走されても困るか……? 俺が悩んでいると。
「中級水魔法を使えるようになったニャ」
「待っ」
俺の制止の声は間に合わず、リズが一際大きい水魔法を放つ……。轟音とともにせっかくキーリアが頑張って植えた1列をキレイに流す。
「これはひどいな……、リズの昼食の魚は半分な」
「お、お腹の子供に栄養があげられないニャ」
そうきたか……。
「んじゃ魚ばかり食べていると栄養が偏るから、他の物も食べような」
リズの考えなど簡単にわかる。思惑が外れたリズはあっさり降参をする。
その後リズが大人しく水を散布していると……。
「在庫の肥料がなくなりました」
俺たちが普段持ち歩いているアイテムは、錬金前の物がほとんどだ。今回は隣の国に行くので、事前にモズラが用意してくれた肥料を使っていた。
「そういえばギラーフ班はどこに行ったんだ?」
今の俺たちはこの国で注目の的になっている。今日初めてこの国を訪れた人でも、俺たちの噂を耳にするぐらいには騒がれている。
「山賊を見つけられずに、国の外にいるのでしょうか?」
フローラが心配な顔で聞いてきた。
「どうだろうな……。山賊に出会っても負ける可能性はないから無事だろうが……。明日までに戻らなければ何か手を打つか……」
特にいい手があるわけじゃないが……。
「そうして下さると安心です」
フローラは離れ離れだと不安になるようだ。
ギラーフ班の事を話し合っていると、突然背後から声をかけられた。
「兄者、昨日はすみませんでした。俺たちにも何か手伝いをさせて下さい」
兄者? 許可した覚えはないんだが……。あれだけ噂になっていたはずなのに、登場が遅かったな。もう肥料がないから作業は終了するぞ。
「この者たちが外であなた方の知り合いだとしつこくて……、本当に知り合いでしたか?」
ここで『知り合いではありません』という選択肢は出来ないものか……。
例えばこんな感じで……。
――――――――――
【この者たちと知り合いですか?】
・知り合いです
・はい
・YES
妄想なのに、この選択肢!?
――――――――――
「大丈夫です。知り合いです」
「それは良かった。迷惑をかけるなよ」
犬族が他種族よりも下に扱われるのを初めて見たな……。今の俺たちは内政をしているだけなのに、貴賓扱いだろうか?
「はい。わかっています」
リーダーの男が首を縦にすごい速度で動かしている。コイツってこんなキャラだったか? まるでリズみたいだ……。
「肥料がなくなってしまってな……」
日本なら残飯を使って堆肥を作るところなんだが、土の中に、残飯を分解する微生物がいるかが怪しい……。ダメ元で埋めておくか? 堆肥になれば徐々に土地が回復するし……。
「この国の残飯はどこへ捨てられているか知っているか……?」
「海に捨てられるか、燃やされているはずです」
最悪……。海を汚すな。空気を汚すな。
「俺たちが作った土壌には残飯を土の栄養分に変える力がある。土の餌だと思って埋めてやってくれ。あげすぎてもダメだからな……」
俺はこれからの事を考えて、連作にならないように、残飯を埋めすぎないように、細かく指示を出した。俺たちがこの地を離れても土地が痩せすぎる事は防げるはずだ。
※残飯を埋めすぎると、地下水に悪影響がありますので、ご注意下さい。
これでこの地を捨てる派に打撃を与えられたはずだ。
昼過ぎに宿に向かっていると……。
「フーリエン様の使いだ。ちょっと来てもらおうか」
テンプレ展開か? 変な集団が現れたな……。お揃いの衣装を着た男女が俺たちを囲む。その中にはギラーフたちの姿が……。アイツらは変な集団に混じって何をしているんだ?
「……わかった」
俺たち家族は変な巡り合わせで再会することになった。
「次回予告ニャ! とうとうギラーフが反旗を翻したニャ。これは戦争ニャ!」
「私たちは絶対にそんな事をしないので、落ち着いて下さい。はい、お魚です」
「ギラーフはいい子ニャ。私が保証するニャ」
簡単に懐柔されているし……。結局次回予告は何だ……?




