誘い
俺は連中を誘い出すために、敢えて人気のない路地裏へ移動する。戦闘になった場合に被害を最小限にする意味もあるが……。
前方の暗がりから声が飛んできた。
「あんたたちが俺たちの計画を邪魔する集団か?」
「何の事だ? 計画を知らないのに、何をしたら邪魔になるんだ?」
青田といい、まだ顔も見えていないコイツといい、どうして俺たちが動くと、阻止しようとするんだろうね……。
「ちっ! 兄貴やっちまいますか?」
前方の子分っぽいのは、俺たちの後方に声をかける。
「そうだな、計画の邪魔になりそうだ。捕らえて地下牢に入れておこう」
戦いに負けても、捕まるだけで済みそうだ。
前からは、いかにも弱そうな犬族の男が現れた。村人レベル5か……。後ろは確認出来ていないが、コイツより低いってことはないよな……。
「君たちの計画が何かは知らないが、俺たちを見逃してはくれないだろうか? お互い傷付くのは得策じゃないと思うぞ」
俺は前方の雑魚を視界に収めつつ、後方の親分に声をかける。
「ここで引き下がったら『他種族追い出し隊』の名折れだ」
計画って言うからすごいことかと思ったら、犬族以外が国にいるのが嫌だっただけじゃないか……。
俺は大きな溜め息を吐いてから。
「俺たちは『王位継承の式典』が終わったら帰る。どうせ長居はしない。それなら文句はないだろ? 他種族だから、排除するを繰り返すから、国が砂漠化から立ち直れないんだ。原因の一端はお前たちのような輩にもあるんだぞ」
「そ、それは……」
コイツらは武力で制圧しなくても、大丈夫そうだな。
「力を合わせれば今頃は、緑豊かな国『ワヌン』と言われているかもしれないぞ」
ゲーム時代はそういう設定だったんだから、なるんだろ?
「緑豊か……」「そんなことが……」
後方でどよめきが起こった。
「フーリエン様が新しい土地を用意して下さる」
コイツらはフーリエン派か……。道理で好戦的なわけだ。
「その新しい土地に住んでいた者はどうなってもいいのか? 自分たちだけが良ければそれでいいのか? この土地に愛着がある者はどうなる? もっとよく考えろ。この土地をもう1度復活させられるのは、この国を愛する民の力だろ」
言ってて恥ずかしくなるな……。
「あ、あんたの話が本当だという証拠はどこにある?」
俺は前方の子分から視線を外して親分の方に体を向ける。後ろから斬りつけるなよ? 俺には後ろは見えないぞ。
「今日俺たちが耕した区画に芽が出たら証明になるか?」
「「「……」」」
それぞれが顔を見合わせて、更にどよめきが広がった。
「明日には結果が出ているはずだ。続きは明日だ」
俺たちは動揺して統率がとれていない集団の横を通過して表通りに戻った。実は20人規模に囲まれていたようだ……。それだけ排他的な考え方が根強いということか?
翌日、俺たちは朝一番で叩き起こされ『第3候補』のナミタリアの前に連れていかれる。
「君たちはどうやって不毛の地に植物を芽吹かせた?」
まずは名乗ってね。ステータス表示があるから誰かはわかるけど……。このお嬢ちゃん10歳ぐらいじゃないのか? 今の言い方からすると、昨日の種はきちんと芽が出たんだな。
「土の中の塩分を……」
当たり障りのない情報を教える。本当はフローラの浄化がなかったら、とてもじゃないが、1時間もかからずに土壌を戻すことなどできなかった。
「なるほど、原因は潮風にあったのか……」
「もちろんそれだけではありませんが……、これから緑豊かな土地に変えるためには、たくさんの水が必要です。犬族では〈魔法使い〉になる事が、種族的に難しいはず。迷宮都市に依頼を出して人員の補充をされてはいかがでしょうか?」
「もう噂は知っているかもしれぬが、私は姉上と王位争いをしていた。しかし先日、突然王位継承順位が1つ下がったのだ。姉上を超える事こそが、王位に就くための道だと思っていたのに……。今の私では政策に口が出せん」
ナミタリアは悔しそうに唇を噛んでいる。この子は本当にこの地を変えてくれる存在なのかもしれない……。
「力のない私に君たちの力を貸してはくれぬか?」
「私たちで良ければ、喜んで協力致します」
俺はナミタリアが力なく差し出してきた手を握る。
「おぉ、よろしく頼む」
特にステータスの変更点はありません。




