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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第5章 隣の国を救います。
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偽善

「同じ宿にするか?」

 あの店主は話好きだから、情報が漏れる可能性が高い。

「部屋が空いていればいいんですが……」

 そもそもこの国の宿屋は、商売が成り立つとは思えない。

「たぶん空いていると思うぞ」

 もうバレている前提で行動することにした。どうせ〈農夫/農婦〉のクラスが俺たちを守ってくれる。


 俺の予想通り、この国の宿はどこもガラガラのようだ。宿で大きな部屋を借りて、12人で話し合いをする。

「キーリア、〈農婦〉として砂漠を何とかできそうか?」

「正直ここまでひどいと、どこから手をつけていいのかわかりません」

 見渡す限り砂漠なのだ。対策のために国が〈農夫/農婦〉を集めているのは頷ける。1人、2人いた程度でどうにかなるレベルではない。

「〈農婦〉の力で地質を調べることはできないか?」

「難しいですね。今できる事は植物の成長促進ぐらいです」


 海の近くであれば、水分が豊富だから砂漠化はしないように思えるが、逆に海の近くだから、塩の被害がある。

※今回の主な原因は『塩害』です。実際の砂漠化の原因は場所によって異なりますので、専門家の指示を聞いて下さい。


「それじゃ今から作戦を伝える。スオレとリオーニスは作業中に風で大切な土が飛ばされないように壁の製作を頼む。フローラは土壌の塩分を浄化してくれ。全てを取り除いて土壌として成り立つのかはわからないが、1部分だけなら他から塩分が流れてくるだろう。キーリアはこの土地の失った栄養分の補充と植林、種まきを頼む。リズは空気中に水分を補給してくれ」

 俺は一気に指示を出すが、いつも1番最初に行動をするギラーフがいないので、動き出しが悪い……。

「ほら、時間がないぞ。1日で結果を出して王族にアピールするんだ」

 俺は本気でこの国の砂漠化を止めたいわけじゃない。王族に敵じゃなくて、国のために行動しているように見せられればそれでいい。この国の砂漠化の解決ぐらい、国の中の種族の割合を見たときからわかっている。


 まずはスオレとリオーニスが〈大工〉の力で壁を製作。留め金にはクラリーが〈細工〉の力を発揮する。そして数分で、巨大なシャワー室が完成した……。見た目の造りが同じだ。ドアノブの付いた入口もあるし、上からリズが魔法を使う足場まで完備している。

「考えてみると、シャワー室って……俺たち家族の1部分だよな……」


 フローラは目隠しとなる壁が出来たので、室内でこっそり浄化魔法を使う。本来1番難易度の高い部分が、1番難易度が低かったな……。フローラ様々だ。

「塩分がなくなれば、栄養分を失った土と同じだ」

 キーリアが砂と水と肥料を混ぜて、それらが流れていかないように固定していく。なぜ壁を用意したかも理解しているな。それが終わると種まき作業もどんどん進めていく。


 問題はリズだ……。

「リズは霧で水分を補給してくれ。まとまった水だと土が耐えられなくて流れちゃうんだ」

「わかったニャ」

 リズは見えないほど細かい霧を噴射している。またLvを上げたのか? 今までと違って、水分に混じって潮のにおいが……。あ……、『砂漠能力上昇(中)』の効果で、吸った空気が浄化されて、においがわからなかったのか……。理由は単純だったな。


 そしてにおいがわかるようになったということは、この空間は現在『砂漠』とは認識されなくなったわけだ。称号のおかげで、分かりやすいな。

「1時間も作業していないのに、もう目処が立つとは……」

 テニスコートの半分程度だが、砂漠ではなくなった。


「ついでに少し実験をするか……」

 称号のオンとオフで、どれくらい植物の成長に変化があるのかを見極めておくことにする。

「実験って楽しいな」

 思わず声に出てしまった。

「ご主人様はいつまでも変わらないニャ」

 成長をしていない人のように言わないでもらいたい。



「今日はこの辺りでいいだろう。俺は代表で兵士に報告してくる。キーリアが植えたなら明日には芽が出るだろ」

「いつもなら出ますが……、今回は自信がありません」

 俺は近くを歩いていた兵士に報告すると、不正がないように見張りを立てるそうだ。本気で何のための見張りなのか不思議だ。自分たちの種族以外を信じていないのか? 検問の兵士は意外と普通だったぞ……。見張りがつくと、リズの霧では水分補給が出来ないので、桶に水を入れて兵士にお願いする事にした。土にはまだ水分を長時間蓄える力がないから、定期的に水分を与えないといけない。


 俺たちはやるだけやった。失敗しても打ち首になるわけじゃない。

「夜までもう少し時間があるな……」

「観光をするニャ」

 何かあっても〈農夫/農婦〉としての仕事をしたからな。大丈夫だろう。

「それじゃみんなで観光をするか」


 最初は観光気分で歩いていたのだが、コーシェルがすぐに異変に気が付いて、小声で報告してくる。

「尾行がついています。どうしますか?」

 この国では、犬族じゃない者は自由に歩けないのか?

「こちらに危害を加えてきたら、対応しよう……」

 迷宮で行われた訓練の成果が出る方がいいのか、出ない方がいいのか、微妙なところだな……。

「わかりました」

 レベルの高いメンバーが不在中に襲われるのは危険だ。テイムモンスターを預けてきたのは失敗だったか?

「1人が前方に回り込んだようです」

 どうやら避けては通れないようだ……。

「コーシェルは後方を頼む、合図を出すまでは絶対に手を出すなよ」

「はい」

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