農夫/農婦歓迎
「まずはどうやって姫を潜入させるかだな……」
俺は山賊がいた方角とは別の方角にある入口を見た。100人ぐらいの長蛇の列が出来上がっている。
「なんであんなに検問が厳しいんだ? って明白か……」
アキリーナを探している列だろうな。青田も頷いているし。
俺が悩んでいると……。
「姫だけならこちらで面倒を見ようかい♪」
「どうするんだ?」
「壁の内側に転移するだけだよ♪」
「俺たちも一緒に……」
領内に直接転移とか……。戦争の時に使われたら壁が無駄だな……。俺なら陽動も兼ねて、壁と中の同時攻撃か……?
「流石にこの人数はバレるんじゃないかな♪」
青田は笑っているが、俺は笑えない。
「パーティーに〈農夫/農婦〉がいると、歓迎されるよ♪」
「そういう情報はもっと早く教えてくれ」
それなら2パーティーまでは安全に入れるな……。あと8人か。
「ギラーフ、すまないが、ケーレルを連れて山賊を捕まえてきてくれ。山賊を手土産にすれば、国に入っても嫌がられる事はないだろう。最悪、賄賂として引き渡しても構わない」
「「わかりました」」
俺はレベルの高いメンバーを中心に選んでギラーフに預ける。人選している間にコーシェルお手製の紫外線対策用コートが配られた。種族の絵柄付きだ。凝ってるな……。
「それじゃ中で会おう」
別れた後に集合場所を決めていなかった事に気が付いたが、大丈夫か? 小国と言っても、それなりに広いけど……。
「太陽が痛いニャ」
やっぱり紫外線が強いのか?
「コートで全身を防げるわけじゃないからな……。〈保湿クリーム〉でも塗るか? 紫外線に効果があるかは知らないが……」
異世界の物がUVカット製品であるとは思えないが……。
「塗り塗りするニャ」
リズは〈保湿クリーム〉に食いついたが、単純にすることがなくて、暇なんだよな……。
俺たちの番になる前にあっさり1時間を超えた。これは普通に熱中症や脱水症状になるぞ……。
「俺たちが未だに待たされているということは……、成功したようだな」
リズはハテナマークなので、教えてやる。
「これが姫を探すための検問なら、姫が潜入に失敗した時点で解除されているだろ?」
「なるほどニャ」
やっと俺たちの順番がやってきた。
「ようこそ、砂漠の国『ワヌン』へ」
ワヌンだと? どういう意味だ? 意味はどうでもいいか……。まさかゲームの時と国名が違うとは……。
「若いのに〈農夫〉レベル3かい? 頑張ったね。この砂漠を何とかしてくれよ。お連れはそこの5人かい? 今日はゆっくり休むといい」
ステータスを変更しておいたおかげで簡単に通れた……。変えられるって意外と便利なのか?
「よくそのようなことを思い付きましたね」
フローラは検問から離れると、周りをキョロキョロ見ながら声をかけてくるが、挙動不審過ぎる……。
「堂々としていた方が逆に怪しまれないぞ。観光は宿をとってからゆっくりしよう」
俺たちの家族が連続しないように、キーリア班は別の入口に行ってもらった。先程の感じだとあちらも大丈夫だろう。
「それにしても犬族ばかりだな……」
排他的過ぎるだろ。犬族は前衛向きなので、屈強な体付きだ。それに兵士たちのレベルが軒並み高い……。低い者でもレベルが10はある……。戦争を起こす気が満々というわけか。犬族がいないパーティーには必ず〈農夫/農婦〉がいる感じだ……。
「周りの視線が怖いです」
フローラの言葉は俺も思っていた事だ。針の筵だな。
「とにかく、宿屋を探そう。それからだ」
こんな状況は精神的に疲れる。
「この国でなら魚が食べられるかもしれないニャ」
犬の国で魚? 漁業権は? 貴族の食べ物では? 諦めなかったっけ……?
「さっきから潮の香りがするニャ。近くに海があるはずニャ」
全然においがしないのだが……。潮の香りを魚センサーで感知したのかな? さすが猫……。
「宿屋で聞いてみような」
「はいニャ」
リズのしっぽがブンブン振り回されている。興奮し過ぎだ……。もし、食べられなかったら凹むんだろうな……。
「宿屋があったニャ!」
リズはダッシュで宿屋に駆け込んだ。
「焼き魚下さい」
……。おい! そこの猫。ここは宿屋だぞ。
「ごめんね。ここでは犬族以外には出せない規則になっているの」
宿屋のおばさんは無情にも死の宣告を……、リズのしっぽが止まった……。そして機械仕掛けの首が、この世の終わりを表現した顔をゆっくりとこちらに向ける。
「ここではって事はどこかで食べられるのか?」
「通りの向こうの地下食堂でなら、食べられるから許してね」
おばさんが手を合わせて謝ってくる。
おばさんの追加情報に、リズの顔が一気に華やいだ。リズにはやっぱり笑顔が似合う。
「規則じゃ仕方ないな。宿が空いていたら6名泊まりたいんだが……」
「〈農夫/農婦〉がいるなら歓迎だよ」
〈農夫〉の時代が来ました。
俺たちは2人部屋にそれぞれ別れた。
「荷物を置いたらすぐに行くニャ!」
昼食は食べてから来たんだが……。目と鼻の先に好物があったら、さすがに我慢できないか。
「トラブルを避けるためにも、6人で行動をするぞ」
みんなが頷いたので、テイムモンスターは宿に預けて、おばさんが描いた地図を頼りに地下食堂を探す。
次回は『リズの原材料は魚』です。
「魚人じゃないニャ! でも、美味しそうニャ……」
リズさん、ヨダレが出ていますよ。魚人も魚じゃないかと……。
「この次回予告より『教えて、モズラ様』のコーナーをした方が喜ばれると思うんだが……」
「私の出番が減ってしまうニャ……、そもそも真面目に次回予告をしないご主人様が悪いニャ!」
「それは……息抜き……?」
「息抜きが必要なら続けるニャ!」




