緑豊かな大国『ワンヌアス』
まずは俺をリーダーにして、大パーティーを組む。リーダーが〈転移アイテム〉を使うと大パーティー全員が転移する。リーダー以外が使うと、その者だけが転移できる。
「それでは出発をしよう」
俺が青田から〈転移アイテム〉を受け取ると、みんなは俺を中心にして近づいてくる。
※離れていると転移されないため。
ゲームだと半径6マス(約4メートル50センチ)。ゲーム時代はテイムモンスターが画面に1体しか表示されていなかったし、キャラを重ねる事もできた……。なので、その範囲は決して狭いわけではなかった。しかし、現実ではどうだろう……。数日とはいえ、着替えを持った人が21人、荷物を持たされたテイムモンスターが20体、従属が少し。それに青田とワニ子さん。
「2回に分けられないか?」
何で出発前からこんなに苦労しないといけないんだ……。
「簡易的な台を作って、上と下の2段になればいいんじゃないですか?」
リオーニスが提案してくる。
「すぐにできるのか?」
スオレとリオーニスは昨日〈大工〉に転職したばかりだ。つまり、今日は肉体改造に苦しんでいるはずだが……。すでに午後だからか平然と生活をしている。
「5分で作ってみせます」
俺の質問に今度はスオレが元気に答えた。5分ならすぐだな……。
「頼む。みんなも2人の手伝いをしてくれ」
演劇用の舞台セットが瞬く間に出来上がっていく。まるでビデオの早送りを見ているようだ……。〈大工〉すげぇー。
「それじゃ……、俺と青田は上の段な……」
青田は不思議な顔をしているが、これは強制だ。
理由……? 俺の家族は全員スカートだ。例外はない。俺たちが下の段だと、舞台の隙間からスカートの中が丸見えになる……。隙間ができるような手抜き作業をしているわけではないが、安全第一だ。
「それでは転移するぞ。忘れ物はないな?」
みんな頷いたのだが……、常習犯が1名。
「ご主人様人形(4代目)を忘れたニャ!」
初耳の4代目……。3代目すらお目にかかった事がないぞ……。
「2代目がいるんだから却下だ。荷物になる」
「置いてきぼりは可哀想ニャ」
脱兎の如く……。猫だけど。
「お待たせしましたニャ」
早すぎて全然待ってない。ギラーフと速度勝負ができるんじゃないか?
「それでは行くぞ」
俺は〈転移アイテム〉を使った。待機時間なし! 〈脱出アイテム〉もこれと同じように作れよ……。
俺たちは小高い丘の上に転移した。眼下に広がるのは黄色い風景。そして高温で乾燥した空気。典型的な砂漠地帯だ。
「青田……」
「ここであってるよ♪」
これがゲーム時代、犬族が築き上げた緑豊かな大国『ワンヌアス』か? 大国どころか、小国だな……。
※ワンヌアス:犬族の言葉で『尊い』という意味。
発音しにくいな……。もう犬の国でいいか。こんな小国で本当に迷宮都市に攻めるのか? 無謀だろ……。
「旦那様、あちらから山賊の反応があります。その後ろにはモンスターがいるようです」
俺はケーレルの指差す先を見るが、砂漠の砂が視界を遮る。そういえば……、俺はある称号をONに変更すると急に視界がクリアになった。さらに呼吸まで楽になる。
「あれは……助からないな……」
[砂サソリ]が5体と[砂ネズミ]が8体に追われている。もうすぐ国に着くが、山賊じゃ捕まるだけだし……。そう思っていると、わずか数秒で国側から放たれた弓矢がモンスターの群れを全て絶命させた。山賊の裏側の敵までキレイに倒す部隊か……。もちろん山賊の男は無傷だ。すごい腕前だな。
中央にいる偉そうな人が隣の人に耳打ちをすると、今度はその隣の人が何かを叫んだ。
「何て言ったんだ?」
「『あと4回だ、行け』っと言ってました」
流石ウサギ族のウーリーさん。
「あれは山賊を使って『釣り狩り』をしていたのか……」
※釣り狩り:周辺のモンスターを陣営まで引き連れて、まとめて倒す事。
あの山賊は犬族ではないから、人として扱われていない可能性があるな。別に助けたいわけじゃない。山賊だし……。だが……。
「あれって国としてどうなんだ?」
日本人の感覚で言うと、捕虜を囮にして肉食獣の駆除をしているようなものだろ?
「そういう国なんだよ。悪化させないためにも……」
「『冬』をトップにさせちゃダメだな……」
思っていた以上に問題を抱えた国のようだ……。




