幕間:夢を見たニャ!
「そういえば、夢を見たニャ!」
朝早くにギラーフへの謝罪が終わって、みんなで朝食の準備をしていた時にリズが大声を上げた。
「急にどうしたんだ?」
「何だったかニャ」
リズは今日見た夢を思い出そうとしているが、寝ている時の夢ってそんなもんだ……。
「諦めてリズも準備を手伝え」
「大切な夢を見た気がするニャ……」
「リズがそこまで必死になるなんて、珍しいな」
「思い出したニャ! 猫耳が付いているスライムの夢を見たニャ」
そんなスライムいねーよ!
「その目は信じていないニャ」
リズのしっぽが久しぶりに逆立ったな……。
「それは是非1度、私もお目にかかりたいですね」
「アキリーナはリズの話を真に受けるな……。所詮、夢の中の話だ」
「近くには花が生えていたニャ。黄色くて拳よりも小さい花が上から下に向かって……」
「「「え?」」」
モズラ、ビエリアル、エヴァールボが同時に声を上げた。
「知っているのか?」
モズラがビエリアルとエヴァールボに目配せをすると、2人が頷く。
「私たちはご主人様に拾われる前は、花摘みをしていました」
「そうだな」
「その時に、来年もお花が咲くように摘む方法を教えてくれた、ご老人がいました」
そのご老人が好きだった花か?
「ご老人は特に関係ないんですが……」
関係ないのかよ! んじゃ出すなよ。
「そのご老人が唯一摘む方法がわからないっと言っていたお花が、今リズさんが説明していた、上から下に向かって拳よりも小さい黄色いお花を咲かせます」
「リズが夢で見た花は実在したのか……。でもたまたまリズが知っていただけじゃないのか?」
「そのお花は……、気候が安定している場所にしか咲くことはなく、今の時季ですと西に3キロほど行った崖の中腹にしか咲きません。摘むのも難しいので、知っている人は少ないはずです」
西に3キロなら昼までに余裕で往復ができるな……。
「今日は午後から隣の国に出かける。その用事を変更することはできない」
リズがションボリする。
「なので、それまでに戻ってくるぞ」
「ピクニックニャ!」
それは違うぞ?
「近場のようだが、崖なので全員で行くのはやめよう。食材の準備や数日分の着替え、色々出発までに用意しなくちゃいけない事が山ほどある。すまないが指揮はギラーフに任せる」
「わかりました」
少数精鋭で6人で行くことにした。
俺、リズ、モズラ、ビエリアル、リアラ、ノルターニだ。変わった組み合わせだが……。
「まずは、崖を登る準備は……」
「私がロープを錬金します」
「誰が最初に……」
「私が飛びます」
「崖を登った事ないぞ?」
「私が氷で足場を作ります」
「怪我した場合は……」
「死なない限り頑張ります」
っと適材適所の完璧な布陣だ。大工で足場を作りたかったが、肉体改造の影響で朝はまだ無理だ。
モズラの案内でピクニック気分で歩いた。崖が近づくにつれて、道が険しくなり、思っていた以上に進むのに時間がかかる。
「まだ着かないのか?」
「あの崖が目的地なので、あと少しです」
あれか……、あと100メートルぐらいだ。
「お花はこの崖の上ですが……、この辺りには猫耳スライムはいませんね」
「それじゃ、手はず通りに登るぞ」
崖の上に登ると。
「確かにリズが説明していた花が数輪だけ咲いているな」
「通常はお花が枯れ、種を付ければ来年も咲きますが、正しく摘み取ると球根を作ります」
※異世界の話です。
「花が目当てじゃないから、手を出すなよ」
みんなが頷いた。
「猫耳スライムは……」
さっきから視界の端で震えている妖精が見える。モズラが妖精のすぐ横を通過したから、俺以外には見えていないんだろうな……。
「残念だが猫耳スライムはいなかったな。時間もないし帰ろう」
「夢で見た場所と同じなのに……、どうしてニャ」
リズはションボリするが、俺は妖精がリズのお腹に触れたのを見た。その行動にどういう意味があるのかはわからないが……。
「今度は子供が産まれてから、もう1度来てみような」
「はいニャ」
俺は帰る前に妖精に一礼をした。




