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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第1章 奴隷少女を購入します。
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新天地へ向けて

 あくる日、宿屋には事前に旅立ちを告げてあったので、お弁当を用意してくれた。中は笹の葉で包まれたおにぎりとおかずの干し肉のようだ。ありがたい。

 朝食を食べた後なので、これは馬車の中で食べようと思う。残る葉っぱはパンダ様が食べるだろう。

「足りなかったら、こちらも食べて下さい」

 そう言うと、サンダルを鳴らして走り、受付の裏まで取りに行った。

 長期滞在していたから、ついにイベント発生か?

 ガサガサ音を立てて出てきたのは緑の物体。

 って笹か! 俺の食べ物じゃない。

 俺の気持ちを(もてあそ)びやがって……。この宿の受付嬢、絶対にパンダが好きだろ……。


 そんなに恋い焦がれている相手を見るようにパンダ様をチラチラ視界に収めなくてもいいと思う……。

 パンダ様と目が合っているようで、実はパンダ様がガン見しているのは君が持ってる笹の方だ!

 残念だったな。パンダ様は受付嬢には興味がないぞ。

「ありがとう、あとで食べさせておく」

 長期滞在してたのに、所詮この程度の見送りしか受けられなかったので、この町のことはすぐに忘れることにする……。

 俺にとっては名もなき町だ。



 モンスター屋を通して、商隊のまとめ役にあいさつをした。なんと相手は貴族だ。

 この世界の貴族がどのくらい地位が高いのかは知らないが、貴族と聞くと偉いイメージしかない。

 でも、なんで貴族が今回の商隊に参加しているのか。

 うーん。きっとアレだな……。

『モンスター屋』、『貴族』のキーワードで思い当たる繋がりといえば……。

 目的はメイドか!

 あったな……。どこかの貴族がドジッ子メイドを熱望しているって話。

 わざわざこの町まで買いに来たのか……。ご苦労なことで。

 それにしても寝る子は育つを体現しているメイドさん、現在のレベルは七。ずっとモンスター屋にいたと思うが、本当に恐るべしチート娘……。

 寝ているだけで、転職条件を満たして見習い卒業とか悪夢だ……。普通にありえそうで怖い。

 メイドは今も馬車の中で睡眠していた……。

 欲しがる理由が全くわからない。この世界にも物好きが存在するだけかも……。


 食料の補充が終わると、馬を交換して出発するようだ。馬の善し悪しもあるだろうに――この世界では戦闘用の乗り物でない限り、馬は走ればいいらしい。


 俺は七台ある馬車の最後尾に乗らせてもらった。貴族は安全と思われる中央の四台目にメイドと一緒に乗っているはずだ。

 町から離れるにつれて道は狭くなり、木が生い茂る。

 道は整備されているものの、辺りを見渡しても同じ景色。正直飽きた……。


 貴族がいるおかげで、たまに出てくるモンスターも護衛の皆さんがすぐに片付けて、襲われる心配がない。

 何のために張り切ってフォーメーションまで練習したのか……。馬鹿みたいだ。

 そんな時、馬車の外を歩いていたパンダ様が突然素振りを始める。

 モンスターが現れるのか?

 奇妙な行動に辺りを警戒した。


 ……。


 …………。


 ………………。


 十回振ると、何事もなかったようにまた歩き出す。

 何もないのかよ! ただの暇つぶしかよ!

 もう笹でも食ってろ。

 俺が笹を与えると嬉しそうに食べ始めた。


――――――――――


 本日の野営地に到着。


 さすが、貴族御一行。テントの設営がすぐに出来上がった。

 野宿経験もない御子様には手も足もでない完成度……。

 一番大きいテントを囲むように一〇()りのテントが並んでいる。素人の俺でも一番大きいテントにお偉いさんがいるのがわかるけど、こんなんで本当にいいのだろうか?

 実際問題、真ん中にいてもらうのが、一番守りやすいのかな?


 事件は夕食の時に起こった。

 俺の飯だけない!

 え? いじめ? 手違い? 本当に?

 ただで乗せてもらう上に、ただ飯まではありつけなかった。

 仕方がないので、馬車に戻って一人寂しく干し肉を食べる……。

 携帯食の定番らしく、お弁当の横に二枚だけ入っていた物だ。本当はこの硬い肉を食べながら、おにぎりを食べるべきだったのだろうが、日本育ちのインドア小僧の俺にはジャーキー片手におにぎりを食べる習慣はなかった。

「顎が疲れてきたな……」

 俺は噛みきれない干し肉を武器の細剣(さいけん)で小さく切り分けようと手をかけた瞬間!


 野営地の方から呻き声が聞こえた。

 俺はすぐに馬車の布の隙間から、護衛たちのステータスを確認する。

 状態異常で〈毒〉やら〈マヒ〉やら……。


 テンプレ展開きたーーーー!


 すぐに動こうとする仲間を止めて、急いでこちらの戦力を確認する。

 笹を食べていたパンダ様は無傷、水で全てをまかなえるスライムさんも無傷、調理前の生肉をもらって食べていたオーガさんは〈マヒ〉。

 オーガ……、今回はゆっくりと休んでいろ。

 馬車の奥にオーガを隠し、まずは状況を見極める。

 ステータス表示で〈聖職者〉を探すも狙ったように状態異常が〈マヒ〉で回復魔法は期待できず……。

〈毒〉を食らっただけの護衛たちは自分たちで解毒を開始する、しかし、その瞬間を山賊は見逃さなかった。


 初めての対人戦!

 まずは野営地から逃げ出す者を探して、馬車に背を向けている男のステータスから……。

〈人殺し〉とかいう物騒な職業。人を倒す事は出来たが、殺す事は出来なかったゲーム時代には存在しなかったクラスだ。取得方法はわかるがいらない。

 クラス特性に〈対人戦で能力上昇〉と書かれている。

 しかし、基本性能はペナルティー職なのか、そこまで高くはないようだ。特に素早さが低い。


 対人戦は能力よりも駆け引きが大事。

 俺とスライムさんだけ馬車から下り、野営地とは反対側の陰から小石を投げて音を出す。わずかな音だったけど、一人が反応した。

「向こうにもいるぞ!」

 あまり多いと負けるから程々がいい。

 二人ぐらいで良かったのに、こちらに五人も向かってきた。

「げっ!」

 俺とスライムさんが一度姿を見せ、馬車の死角を利用して、この五人を山賊の集団から引き離す。

「回り込め!」

 俺たちの中で一番優秀なパンダ様がバラけたところを馬車から下りて狙い打つ。

 バコッと鈍い音が聞こえると人間が三〇メートルぐらい飛んだ。あれはきっと死んだな……。

 続いて、人が飛ぶ現象を目で追っていた隙だらけの奴もパンダ様が吹き飛ばす。

 俺たちは飛ぶ現象に慣れているんだ! 敵から長い時間目を離すかよ!

 今度は一五メートルは飛んだだろうが、さっきよりも飛距離はない。人間の重さよりもジャイアントブルースライムの方が重たい気がするが……。

「このパンダやばいぞ!」

 二人が飛んでようやくパンダ様の仕業だとバレた。

 そう。俺たちは注意を引くためだけの囮。時間を稼げばいい。

 周りに危険を呼びかけたそいつも、あっさり五メートル程飛ばされ、地面をゴロゴロ転がって、グッタリした。


 あれ? よく考えたらパンダ様の竹ってリーチ長い? 身長と同じぐらいだから二メートルはある。

 一〇日愛用していた竹だったが、対人戦まさかの三発でダメになった……。

 ここは仕方ないので、新品を投入。

 俺がスライム以外を相手にしてこなかったのは、竹が竹だからだ。硬い物にぶつかるとすぐにダメになる。


 新品を振ると、再び人間が空を飛ぶ。

 これは……、竹が破損していなければ、吹き飛ぶ距離が長いのか?

 と、考察しているうちに、五本の竹が昇天してしまったが、俺たちが山賊の注意を引いたお陰で護衛たちが復活して、無事返り討ちに成功する。


 スライムさんは体当たりをしたり、噛んだりしていた。これはダメージソースというよりは陽動に近い。

 通常のスライムよりも称号の恩恵でパワーアップしている事もあり、鈍器で殴られても傷は負っても死ぬことはなかった。

 オーガは残念ながら全てが終わっても〈マヒ〉から回復せず、聖職者のお世話になる。


 貴族のピンチを救った事で、迷宮都市に着いてから謝礼金(一〇万モール)を貰える事になった。

 もう少し早ければ、そのお金で簡単に転職できたのに……。

 なお、自分たちで倒した山賊は、奴隷商に売ってもいいということで、もう少しだけお金が増える予定だ。

 三〇メートル飛んだ山賊がどうなったのかは、深く考えない事にした。

――――ステータス――――

 名前 緑野赤

 種族 人間

 性別 男

 素質 天才

 クラス 獣使い

 レベル 一〇


 HP 一四〇/一四〇

 MP 〇/〇

 SP 二三〇/二三〇


 筋力 五

 体力 五

 素早さ 五

 かしこさ 五

 モンスターの友 七〇


 残りポイント 〇

――――――――――

 クラス特性

・モンスターをテイムできる。

・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。

――――――――――

 称号

・スライムの友(衝撃耐性(小))

――――――――――

 装備 ※武器/盾/服/アクセサリー

・細剣/木の盾/皮の服/なし

――――――――――

 所持金

・二三〇モール

――――――――――

 テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)

・パンダ(♂/良い/一三)

 武器:竹×二本

・ブルースライム(♀/良い/一一)

 武器:鉄のキバ

 従属:ミニスライム(子供)×八匹

・オーガ(♂/普通/五)

 武器:金棒

――――――――――

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