第1候補
「コウノトリは『モンスターの友』が高い種族です。優秀なコウノトリの中には〈獣使い〉を目指す者もいます」
モズラ様が優しく教えてくれる。俺は外の世界の住人だから『モンスターの友』に極振りができたが、ノルターニはそれができない。そしてノルターニの素質は『普通』だ。
「どうしても〈獣使い〉になりたいなら、もう少し〈村人〉のままレベルを上げるか? それとも転職条件を満たすまで、他の職業に就くか?」
「もう少しだけ〈村人〉でいさせて下さい」
この世界の住人は転職条件を知らないかもしれないが、俺にはわかる。今のままではノルターニはレベル25近くまで転職ができない。それでも本人が望むなら……叶えてあげたい。
「私からもお願いします。ノルターニさんが希望する職業に就くチャンスを与えて下さい」
フローラが真っ先にノルターニを援護する。おそらくフローラはノルターニのおかげで夢を掴むチャンスを得たから……。
「称号の件とは関係ありません。家族の夢を応援するのは当然の事です」
フローラの手が少し震えている。立場から考えると、主に意見を言っているようなものか……。
「そうだな。30ぐらいまでは様子を見るとしよう」
「「ありがとうございます」」
フローラとノルターニは嬉しさでハグをしている。俺は喜んでいる2人の頭を撫でた。
「フローラの口から『家族』という言葉が出るとはな」
フローラは白い肌を真っ赤にして俯いた。
「このまま探索を行うよりも〈斥候〉を得た方が効率が良くなるならみんなで戻るか……」
「戻ってから特訓が出来ます」
エヴァールボはまだいたのか……。他意はない。ケチ臭いが〈脱出アイテム〉が1個無駄にならずに済んだな。
「昼食後1戦だけしてから帰るぞ」
1戦だけならさっさと戦おうという意見もあったが、早すぎても検証にはならない。
そして本日最後のテイムチャンス。
「左のスケルトンが青色で光っている」
別の色とか……。覚える側の身にもなってほしい。
「もう戦意を喪失している気がするニャ」
「たしかに……」
青ざめたから青色? 骨なのに?
「とりあえず、無視して他を殲滅してくれ」
戦いはすぐに終わった。
【称号:スケルトンの友達(骨強度上昇(中))を取得しました】
骨太に近づいた……。
「今回のスケルトン君はギラーフが面倒を見ろ」
「ありがとうございます」
俺たちは迷宮を出て〈肉の串焼き〉を食べた後は、スムーズに転職作業を行った。
〈プリンセス〉の転職代金は安かったが、口止め料が高かった。そして〈プリンセス〉のクラス特性には『第1候補』と表記されている。
家に帰るとまだ昼過ぎなのに『食あたり』の状態異常になっている子供たちが倒れていた。
「なにこれ……、あんたはいったい何をしたんだ?」
「お昼ご飯を食べに来たのに、誰もいないから僕が料理をしたんだけど♪ どうしてだろうね?」
質問に質問で返すな。
「〈薬師〉はいないが……、モズラは何か薬を作れるか?」
「私が毒消しの魔法を使いますが……」
ビエリアルがちょっと怒っている。1番最初に声をかける相手を間違えたな……。
「すまないが、頼む」
なんで俺が悪い訳じゃないのに、お願いしないとダメなんだ? 青田は『僕は関係ありません』って態度だ。コイツはいつもこんな感じか……。
ビエリアルが1人ずつ治していく。
「とうとう〈プリンセス〉になったんだね♪ 準備ができてたら、転移させようか?」
さすが20年以上生活している人は違うな……。段々移動手段が良くなるのが冒険の醍醐味なのに……。
「一応明後日に馬車で出発予定だったんだが……」
「馬車は一緒に転移できないから、ここを登録した使い捨ての〈転移アイテム〉をあげるよ♪」
「ここは俺たちの家で、あんたの食堂じゃないぞ」
俺は突っ込んでいいのか悩んだが言ってやった。意味がないのは知っている……。
「まぁまぁ気にしないで♪ そんなことよりも、きっと今頃は大騒ぎになっているよ♪」
そんなこと? 俺はもう無駄な突っ込みはしない。
「何の事だ?」
「そこに『第1候補』がいるなら、今までの『第1候補』は『第2候補』になっているだろうね♪」




