膝枕
「影武者が必要そうなのは、アキリーナだろうな」
「私には必要ありませんよ?」
姫の微笑みを見ていると、これからクーデターのど真ん中に乗り込むのに不要な気がしてくる。不思議だ。それでも安全面では……。
「これから何が起こるのかわからない、護衛は1体でも多い方がいいだろう」
「ありがとうございます」
スケルトンをテイムしたことで、光っているモンスターには当分出会えないな……。
周りを見渡すと何名か疲れの色が見える。特にエヴァールボ班がひどい。小休憩の時も色々していたから……。
「大休憩を入れるか?」
「疲れている環境下での特訓もかねていますので、不要です」
エヴァールボの宣言に班の4人が頷いている。そこまで過酷な訓練をしなくてもいいと思うが……。
「それよりも『目隠し』を超えるためのトレーニング法を知っていますか?」
エヴァールボは策士ではあるが、誰かの戦術を複合して作戦を立てるタイプだ……。
「古典的なのは重りを装着して生活をする方法だな」
生活=戦いと解釈してもいいが、いきなりでは危険だろう。
「なるほど……。鉛で装備を作ってみますか……」
エヴァールボは1人でブツブツ計画を立てている。
「体を壊されると、戦力ダウンに繋がるからほどほどにしておけよ」
俺たちはそのまま昼食まで14階層の探索を行った。
昼食の時。
「コーシェル、こちらへ」
いよいよギラーフによるご褒美タイムが始まるようだ。
コーシェルは顔を真っ赤にして膝枕をされている。
ギラーフは右手でコーシェルの頭を撫でて、左手でウリボー君を撫でている。
1名と1体が気持ち良さそうだ。今回アリ君は蚊帳の外か……。
本来コーシェルは料理班なので、昼食の時は忙しいが、今日はモズラが抜けた穴を担当している。
「今日はすごかったですよ。目隠し2日目とは思えない動きでした。師匠として鼻が高いです。私があの領域に到達するには1週間以上かかりましたから……」
ギラーフは満面の笑みでコーシェルを褒めていた。
エヴァールボはガラス装備のメンテナンスを終えると話しかけてくる。
「昼食後は装備を作りたいので、先に戻っていてもいいですか?」
「戦力的に足りているからいいぞ」
炭鉱の町でも先に戻って鍛冶をしていたな。
「ありがとうございます」
予備の〈脱出アイテム〉を渡す。
俺も今のうちに用事を済ませることにした。
「新人組は戻ったら転職作業をしてもらう。それぞれなりたい職業を決めておいてくれ。出発は明後日の予定だが、転職の肉体強化で御者ができなくても困るからな……」
まさか自分たちが転職する日がくると思っていなかったのだろう。不安がっている。
「私はもう決まっています」
姫は〈プリンセス〉で確定だ。お金足りるのかな?
「私たちは〈大工〉になって恩返しをしたいと思います」
スオレとリオーニスの姉妹はイタチ族の人気の職業に就くらしい。
「私は種族固有職の〈斥候〉に就きたいと思います」
斥候って偵察とかするアレ?
「わかった」
全然わからなかったけど……。モズラの方を見ると、クスクス笑っている。顔に出ていたか。ゲーム時代になかった職業だし……仕方ないだろ。
「迷宮内に限らず、敵対する者の位置がわかる職業です」
モズラ様がこっそり教えてくれた。でも俺は説明を聞いても意味がわからなかった。つまり?
「ご主人様にとってはありがたい職業かもしれません。迷宮内の階段の部屋には敵対する者がいませんので、階段の位置がわかるようになります」
え? 今までの苦労は?
「ただし、モンスター以外で『感知』できるのは、山賊がせいぜいですので……、就く者はいないでしょう」
そりゃ……、軍でもなかったら敵の位置を『感知』することしかできない職業は食べていけないよな。聞いているだけでも不遇職なのがわかった。
「なんで、山賊だけはわかるんだ?」
「敵対する者の判断基準が曖昧なので『危険』に反応するのでしょうか? 会話をすると『感知』が働くとの噂もありますが……よくわかっていません」
就く人がいないんじゃ情報も少ないか。襲う意志や憎悪に反応しているのか?
「分類は種族固有職ですが、ギラーフやビエリアルもなれますよ」
1つの種族しかなれなかったら、この世界じゃ廃れるか……。
「聞く限りでは〈盗賊〉、〈聖職者〉を諦める程の職業ではないな」
ケーレルが俺のために職業を選択したというところか。
「まだ決まっていないのはノルターニだけだな。なりたい職業がなければ、仮でもいいぞ。他の職業に変更したい時は、もう1度転職すればいいだけの話だ」
モズラが何か言いたげだ。もしかして、ノルターニも種族固有職があるのか? 必ず1つ以上ないと、その種族だけ可哀想か……。
「〈獣使い〉に……」
え……、俺の存在理由は?
「次回予告ニャ。ご主人様が失業するニャ。これから子供が産まれるのに……。次回『リズが大黒柱になる』ニャ」
それはない……。リズじゃすぐに折れる。




