スケルトン
「1人で実験を楽しむのはズルいニャ。楽しそうなことは共有するニャ」
「仲間になる可能性があるモンスターを倒すのに、2人は心が痛まないのか?」
「「あ……」」
この実験は楽しそうに見えるが、残酷な面もあった。
「光って見えていなかった時は、手当たり次第に倒していたから、もっと可哀想だったよな。それにせっかくテイムしても、モンスター屋に売った子もいるし……」
ゲームの時はデータとしか思っていなかったから平気だったけど、そこに感情があるとやっぱり違う……。それでも、相性の悪いモンスターは今まで通り売るしかない。
「辛いことも共有すれば楽になるニャ」
「そうですね」
俺は2人の言葉に救われた気がする。
実験をしようとすると階段が見つかるとか……。
良いのか、悪いのか。
「14階層に移動しよう」
14階層の初物は[グリズリー]。
ヒグマだな。動物園でしか見たことがないが、檻に入っていない熊を目の前にしたら、人間なら誰だって怖いだろう。ここはやっぱり伝説の『死んだフリ』か? 効果がないって話をよく聞くが……。異世界のヒグマは体長が3mもあるようだ。
[サソリ]、[スケルトン]、[アリクイ]、[プラント]、[グリズリー]。
「光っているモンスターはいない。いつも通り倒してくれ。グリズリーは初めてだから遠距離攻撃主体で行こう」
俺が簡単な作戦を決めると、まずはリズが敵の密集地帯に火炎の渦を作る。
「もう魔法を撃てる場所がないニャ」
リズは中級魔法の使いどころの無さに困っていた。開幕1発目に3体以上を倒せる所に放つと、味方を巻き込まずに魔法を放てる空間がない。
「確かに宝の持ち腐れではあるな……」
本来はこんなに大所帯で迷宮に入らないから魔法を撃つ機会はもっとたくさんあるはずだ。本当に贅沢な悩みだ。
その上、主力メンバーを投入しているので、13階層よりも戦闘時間が短い。
んじゃなぜ戦力を分けないのか……。
まず、11階層以降に出現するトラップを解除できる〈盗賊〉が1人しかいない。
もし階段を見つけても、お互いに連絡手段がない。
携帯って便利だよな……。
っと無い物ねだりをしている間に光っているモンスターに出会った。
今度はスケルトンか。餌の心配はいらないだろう。カルシウムの補給はしそうだが……。
気持ち悪いので、実験に最適だな。
「右奥のスケルトンが穏やかな緑色に光っている。性格が温厚なのか? まだ情報が少ないな。俺たちのパーティーには合わないので……」
「待ってください」
エヴァールボが突然何かを閃いたようだ。
「骨だけということは、『肉』を装着させれば変装が出来るんじゃないですか?」
忍者じゃないんだから……。
「そんなことが可能なのか?」
俺の知識ではできない。困った時のモズラ様。
「中身がスケルトンなので、素早い動作はできないと思いますが、見た目だけは誤魔化す事が出来ると思います」
『見た目だけ』だから、俺のステータス表示は誤魔化せないんだろうな……。
「とりあえずテイムする方向で進めてくれ」
「わかりました」
今回は重大な『切り札』の可能性があるので、ギラーフに行かせる。
「どうやってテイムをするか……」
ギラーフは背後からスケルトンに攻撃をされているが、気にしないようだ。しかし、攻撃を避けるたびに、緑色が赤色に変化している気がする。
「あまり時間をかけると怒った赤色になるぞ」
「では、どうすればいいんですか?」
俺は近くにいた新人から『短剣』を借りるとギラーフに向かって投げた。ギラーフは回転して飛んでいる刃物を当たり前のように空中でキャッチする。
「それで攻撃を受け止めてやれ」
ガラスの武器では余程うまく攻撃を受けないと、相手側が切断される。
スケルトンがギラーフに攻撃をすると、段々緑色の光が強くなった。
【称号:スケルトンの友(骨強度上昇(小))を取得しました】
骨折しにくくなったか?
赤色の光は光っている状態ではテイム出来る状況から1番遠いのか?
そして、緑色の光は攻撃を受け続けるといいのか? まだまだ検証が必要だな。
・スケルトン(♀/普通/10)
「何を使うとスケルトンさんに肉付けが出来るんだ?」
「『メイキングパウダー』を使います。成功率が非常に低いアイテムですが……」
アイテム名を聞いて驚いた。ゲーム時代にも、もちろん存在した。
ゲーム中に『キャラメイキング』を行えるネタアイテムだ。
なぜ、ネタアイテムに分類されていたかと言うと、途中からではどうしても『可愛い』、『格好いい』キャラが作れない。スタート時の設定画面の方が『可愛い』、『格好いい』顔が自由に作れた。
仕組みを調べたゲーマーの書き込みによれば『今の体型よりも太らせる変更は出来る』と書かれていた。
スタート時が骨なら確かに肉付きは自由自在だろう。
罠の抜け道のような使い方だな……。
そしてもう1つ驚いた事がある。
『髪の毛』を使う事で、影武者が作れるようだ。
今回はスケルトンをベースにしているので、発声が出来ない。つまり、声をかけられるとバレてしまう。




