同士討ち
コーシェルはスケルトンの攻撃を避けた時に後ろから体を掴んで、指揮権を奪うようだ。
俺が考えていた戦術もそれだが……。
「あとはサソリを攻撃するだけですが……、位置が離れていますね」
「助けにいかなくていいのか? 段々囲まれているぞ」
ギラーフなら周りの敵を倒しながら後ろにスケルトンをくっつけて、サソリの場所まで引っ張るんだろうが……。
「さすがにあれは危険ですね」
コーシェルでは少し足りなかったか……。
ギラーフが『退却』のジェスチャーをすると、コーシェルはスケルトンから離れて戻ってきた。
「ただ倒すだけならできるんですが……、難しいですね」
「ギラーフ手本を見せてこい」
俺は代わりにギラーフを向かわせたが、スタートの時よりも中央に敵が集まっていて、思うように近づけていない。
「少し敵を散らせるか……、リズは敵の真ん中に火の魔法を放ってくれ」
「はいニャ~」
リズさん……、いつもより火の勢いが強いんですけど……。俺の中では『蜘蛛の子を散らす』ように驚かせるだけで良かったんだけど……。
リズの魔法は中央にいた7体を一気に火炎の渦に巻き込んだ。
その中には件のアリクイもいた……。
「目的のアリクイまで倒してどうする」
俺はリズをゲンコツした。
「ごめんなさい」
「巻き込まれなくて良かったです」
ギラーフはそこを目指していたからな……、そりゃ苦笑いだよな。
「それにしてもいつの間に火の魔法が中級になっていたんだ?」
「魔石に魔法を込めていた時になったニャ。これからは一気に魔石に魔法を入れられるニャ」
なんだろうか……。魔石の許容量をオーバーして爆発する未来しか思い浮かばない。
「却下だ。これまで通り初級火魔法で込めてくれ」
「……はいニャ」
リズは人の話を聞かないから平気で中級魔法で込めそうだな……。
「爆発したら赤ちゃんも死ぬからな」
急にリズの顔が真っ青になった。リズは子供の話が絡むと真面目に話を聞く。
「わ、わかりました」
「まずは一気に残りの敵を倒すぞ。リズは中級魔法を放つ時は細心の注意を払えよ」
首を縦に高速に動かしている。そんなに動かすと首がもげちゃうよ。
アリクイはテイム出来ても、モンスター屋に売っていただろうからいいか。
テイムする予定でテイム出来なかったのは二度目か……?
「次の部屋へ行ったらギラーフはコーシェルと反省会をしていてもいいぞ」
「ありがとうございます」
そして次の部屋に移動すると奇妙な事が起こった。
またアリクイが光っている。
今度は少し赤い感じだ。怒っている?
残念だが、スタート地点が近すぎて、みんなに声をかける前に部位欠損になってしまった。
そして1つ試したいことができたので、今回のアリクイはスルーしよう。
俺は久しぶりに次の部屋に移動するのが楽しみになった。
しかし、俺の予感は外れていた。
どのモンスターも光ってはいない。
それでも1つ出来た仮説は『優しい光』→『少し怒った光』→『光の消滅』っと段階を踏んで光の移動が行われる可能性。
今後の事を考えると何回か試してみる価値のありそうな仮説だ。
「ご主人様が嬉しそうだニャ」
戦闘が終わったリズが俺の腕に抱きついてきた。そういえば、リズが間違って倒さなかったら確認出来なかったのか……。さっきは怒ってゲンコツをしてしまったが、一応リズの手柄ではあるんだよな。
「さっき間違って倒したアリクイだが……」
リズがその話はゲンコツで水に流したはずではって顔をしている。
「怒っているわけじゃないから安心しろ」
安堵のため息が出るほど不安に思っていたのか。
「実はあの次の部屋でもアリクイが光っていたんだ」
「え? でも何も言っていなかったニャ」
みんなも頷いている。
「言う前に倒されちゃったからな」
「偶々同じモンスターが光っていただけでは?」
ギラーフが質問してくる。
「そうだな。その可能性ももちろんあるが、発する光の色が違っていた」
「色ですか……」
「ちょっと実験をしてみようと思う。みんなは気にせずいつも通り敵を倒してくれ」
リズとギラーフからブーイングが起こった。




