アリクイ
目隠し戦後の俺たちは口数が少なかった。誰も冗談を言わずに、各々があの芸当を超えるために試行錯誤をしている。
どうやらギラーフの行動が家族の意識改革に繋がったようだ。
一部例外はギラーフとコーシェルぐらいか?
目隠し戦の極意を伝授するのに大忙しだ。
一方エヴァールボはさっきから熱心に得意分野の『守り方』を教えている。
どうしても戦いになると攻撃に注目が集まりがちだが、前線を支えたり、誰かを護衛する時は、攻撃よりも防御が重要になる。
「今度先生を入れ替えて指導してもらおうか」
俺の発言でみんなの視線がギラーフに集まる。
これは仕方がないな……。あのオドオドしていたコーシェルを一人前に育て上げた技量だけでなく、本人の技量もピカイチで、面倒見がいい。
「攻撃はギラーフ、防御はエヴァールボが担当。俺が大雑把な戦術を教え、モズラが細かい作戦を教えるか」
「わかりました」
ギラーフが代表して返事をしてくれた。
分野別に先生を分けるのは、効率化の上では最高だな。最低でも自衛のための訓練はさせたいので、全員エヴァールボにはお世話になりそうだ。
「私の名前が出ていないニャ」
ちょっと怒っている……、でも残念だがこの件でリズは活躍できない。
「リズは魔法使いだからな。今回は子育てに専念してもらうかな」
さっきまでトゲトゲしかったのに『子育て』という魔法の言葉で頭がいっぱいになり、すぐにデレデレになった。
さすが、ちょろイン。
まずは13階層で昨日進んだ地点を目指す。
新人組は攻撃を食らいながら、それでもきちんと戦いをするようだ。
12階層までで練習してくれれば良かったんだけど……。
13階層のモンスターはこんな感じだ。
[グレムリン]、[サソリ]、[スケルトン]、[アリクイ]、[プラント]。
魔法使いがいない12階層からは安全に思えるが、実はその分だけ全体数が増える。
その結果、負担がかかるところが変わる。
「ビエリアル平気か? 12階層から魔法を使いっぱなしだろ?」
「MP回復水がありますから……」
その割には『困っています』って顔をしているのだが……。
さっきから前しか見えていなくて危ないメンバーが何人かいる。
「そろそろテイムモンスターを投入して先生方も参戦しよう。ここまでよく戦ってくれた。あとは数が少なくなってきたらお手伝いを頼む」
予想以上に戦力の温存ができた。
ここまで戦力を絞らないと21人と18体のテイムモンスターと従属の大所帯では敵の取り合いで戦う相手がいなくなる。
新人組もあと数日間、縛りがある状況下で繰り返せば立派な戦力になってくれるはずだ。
それがわかる程度には今日の1日でみんなが成長してくれた。
ミーナは今日の特訓をやめて、踊りに専念をするようだ。
「中央のアリクイが光っている。でも、いつもと……」
具体的に何が違うって表現しにくいが、いつもより優しい光と言うのか?
「食べ物を提供しようにも『アリクイ』だからな……」
視線が自然と……。
「アリ君は食べさせませんよ」
それは言われなくてもしないから……、ただ……テイムしても仲良くできるのか?
それよりも今はどうやってテイムするかだな……。
「ギラーフ、難しい注文だが……」
ギラーフの目が今度はどんな難題だろうなっとキラキラしている。
「スケルトンの攻撃を利用してサソリを分解し、分解したサソリをアリクイに食べさせろ」
ギラーフがキョトンとしている。
「え~っと、ドロップになるだけじゃ?」
「蜘蛛をテイムした時に、モンスターを生きたまま蜘蛛に食べさせただろ? あれの応用だ」
モンスターの同士討ちをさせた場合はドロップにならず捕食する事ができる。
「理屈はわかりましたが、どうやれば……」
「自分で考えてやってくれ。無理ならアリ君を提供するだけだ」
しないけど……。
ギラーフが悩みだした。
「私がやってみたいです」
コーシェルが師匠の代わりに名乗りを上げた。
「んじゃ思い付いたのを試してこい」
顔が色々試したいことがあってワクワクしている。どうやらまずは一番近くのスケルトンを狙うようだ。
さて、ギラーフさん。
「なぜ自分で行かなかった?」
「やはりバレていましたか……」
ギラーフの顔がとても満足顔だ。
「なんとなくな」
弟子の自主性を伸ばしたくて芝居するとか、ギラーフも変わったな。




