長旅の準備
翌朝、すっかりSPも回復して、宿舎へ向かう。
いつも通りパンダ様の寝床まで迎えに行くと、隣にはスライムがいる。もちろん昨日テイムした母スライムだ。
でも、その周りには他にも小さいスライムたちがいた。
うーん。一夜で増えたな……。
スライムって子沢山なのか? 一、二、三…………七匹……? 雪玉サイズがぴょんぴょん跳ね回って数えるのが難しいけど、きっとあっている。
青色やら、赤色やら……。
名前はミニブルースライムとミニレッドスライムか。
素質は不明、性別も不明。
スライムってある程度育ってから性別が決まるのか? 生態まではよくわからんな。
母親が青だったから、父親が赤ってところか?
テイムモンスターの印はどうしよう……。
これで三五〇〇モールの出費? 痛すぎる……。この件はあとで門番に確認しよう……。
それよりも俺には気になった事がある。
テイムした当初は妊娠(一日と六時間)だった。
せいぜい一八時間しか経ってないぞ。いったい宿舎で何があったんだ?
憶測でしかわからないけど、モンスターの友の成長促進の影響か……?
お腹の子供にまで作用するとか異世界ってすごいな。
せっかくなら、産まれるところを見たかった……。
そう思って観察を続けていると、突然、母スライムがプルプル震えだす。
八匹目が母体から分裂するように産まれてくる。
液体が分離したイメージだ。昨日は紫色をしていたのに、今の出産で母スライムの体から赤い成分が全部抽出された。もうどこにでもいるブルースライムだ。
結局それ以降は産まれてくる事はなく、合計八匹のミニスライムが誕生した。
ミニスライムたちは布を鉢巻きのように巻けばいいとのこと。助かった、マジで……。小さくて結ぶのに苦労したのは、ご愛嬌。
母親とお揃いで喜んでいるようだ。
どうやらミニスライムたちの位置付けは、テイム状態ではなく、母親の従属関係。
やっと〈獣使い〉になって、これからって時に、目の前にモンスターを八匹も従えるツワモノテイマーが現れた……。
何とも言えない敗北感……。母は強し……。
そして、なぜか母親のレベルが二個も上がっている。
これは出産イベントをクリアして経験値を得た。と解釈すればいいのかな? まぁそれ以外には現状説明ができない。
というのが、早朝の出来事。朝から濃厚なイベントだった。
転職も無事終えた事だし、そろそろ迷宮都市へ拠点を移そうと思う。
土地勘が全くないので、外の町と連絡を取っていそうな冒険者ギルドに行く。受付には相変わらずの厳つい顔のオッサンがいた。他に受付の人はいないのだろうか? 仕方ないので、このオッサンに質問をする。
「迷宮都市まで徒歩だと何日かかるんだ?」
今日は朝から訪れたというのに、俺以外の利用客は誰もいない。もしかして、この町の人は俺のせいでジャイアントブルースライム狩りに出払っているのか?
「徒歩五日ってところだな。なんだ、依頼もせずにもう旅立つのか?」
「ここでやるべき事はすでに済ませたからな……」
うーん。それにしても――五日もかかるのか……。俺とパンダ様、母スライムは歩けても、ミニスライムたちには無理そうだ。成長するまで待つか、風呂敷で包んで持ち歩くしかないか……?
「明日迷宮都市から商隊の馬車が来るはずだぞ」
「商隊の馬車……? 何しに来るんだ?」
「何日か前にモンスター屋が早馬を走らせていたから、そっちで聞いてくれ」
「貴重な情報をありがとう」
「おう。達者でな!」
もう会うことはないだろうが、顔は怖いけど話してみると、意外といいオッサンだった。
冒険者ギルドに支払ったお金分は情報として取り戻せた気がする。
さっそくモンスター屋に移動して、パンダ様を売ってくれた人に詳細を聞いた。
その商隊は取引が終わると、迷宮都市まで引き返すそうだ。なので、お尋ね者でもない限り、一緒に同行ができるらしい。勝手に許可を出して文句を言われないのだろうか?
どうも事が上手く運びすぎて、逆に怖い。
一応何があっても大丈夫なように準備はしておく。
資金集めと、草原へのお別れを兼ねて、この町で最後のスライム狩りに取りかかる。
商隊の護衛をする機会があるかもしれないので、予行練習をした。
中央には馬車があるイメージで敵を近づけないように、フォーメーションは左翼にパンダ様、右翼を俺と母スライムが担当。
連絡係はミニスライムが頑張ってくれる予定。
練習始めは、パンダ様が全スライムを一人で片付けようと持ち場をよく離れていた。
しかし、回を重ねる毎に自分の仕事を理解して、相手に任せる信頼関係が出来上がってくる。
いい仕上がりになったところで、貯まったお金を使って、新戦力のモンスターを購入した。
オーガ(♂/普通/二)→一万モールで購入。
テイムモンスターの印→五〇〇モールで購入。
武器屋。
金棒(攻撃力+一二)→一五〇〇モールで購入。
――――ステータス――――
名前 オーガ
性別 ♂
素質 普通
レベル 二
HP 四〇/四〇
MP 〇/〇
SP 〇/〇
筋力 一五
体力 九
素早さ 三
かしこさ 二
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装備
・金棒
・テイムモンスターの印(右腕に装着)
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俺の装備も更新し、余ったお金は、全て竹に変えた。ぜひパンダ様には頑張ってもらおう。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 一〇
HP 一四〇/一四〇
MP 〇/〇
SP 二三〇/二三〇
筋力 五
体力 五
素早さ 五
かしこさ 五
モンスターの友 七〇
残りポイント 〇
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号
・スライムの友(衝撃耐性(小))
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装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・細剣/木の盾/皮の服/なし
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所持金
・二三〇モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/一三)
武器:竹×七本
・ブルースライム(♀/良い/一一)
武器:鉄のキバ
従属:ミニスライム(子供)×八匹
・オーガ(♂/普通/五)
武器:金棒
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