『秋』『冬』『夏』
「んじゃアキリーナが……」
「その通り。現王の血筋を引く立派な第1候補だよ♪」
※まだ名前は出てきていませんが、頭文字から通称を付けて整理します。
本来の第1候補「アキリーナ」通称『秋』。
今の第1候補「フーリエン」通称『冬』。
今の第2候補「ナミタリア」通称『夏』。
「王族なら『英才教育』があるはずだろ……」
「よくその事を知っていたね。でも双子の場合はどちらかにしか経験値が入らないんだよ♪」
「つまり、妹の『冬』にだけ経験値が入り、先に産まれた姉は『隠し子』とされたのか……」
「そういうことだね♪ こういう世界だから、王族でもレベルが低い子に力を注ぐよりもレベルの高い子を育てる方が確率が高いんじゃないかな♪」
「今さら姉を引っ張り出すということは、まさか……『冬』って……」
「迷宮都市と戦争を起こそうとしているよ♪」
「どうしてそんな奴が王位を継げるんだ……」
「日本人の感覚じゃそうかもしれないけど、世界で戦争をしている国はあるんだよ」
「俺はアキリーナを信じて、王位を継承させればいいのか」
「それもまた違うかな……、王位を継承して欲しいのは『夏』だ」
『冬』は過激派を率いていて、迷宮都市に戦争を仕掛けようとしている。
『夏』は穏健派を率いていて、迷宮都市と今まで以上に貿易をしようとしている。
「早い話が『冬』を追放して『秋』を君のハーレムに加える。以上だよ♪」
簡潔だな……。わかりやすい。だから信頼を勝ち取るのか……。今のアキリーナなら俺を選んで継承権を放棄しそうだもんな……。でも放棄する前に『冬』を追放する手助けをしないと迷宮都市が攻められるのか。
そしてこの騒動に巻き込まれて、あの手紙の『ギラーフが左胸を射抜かれる』に繋がるのか……。
「現王も了承しているから、心配しないでね♪」
これからの事を考えると頭が痛くなってきた……。
「カニ汁ができましたよ」
俺たちはみんなのところに戻ることにした。
「なんだこれ。うまいな」
「あんたはそのレベルでいつも何を食べているんだ」
「宿屋の飯と居酒屋の飯だけど……、『これ』どこで出るんだ」
※もちろんカニです。
「迷宮都市の11階層で出るぞ」
「11階層か。あとでワープを使えるようにしてくれ♪」
これに拒否権はないんだろうな……。目がマジだ。青田が装備以外で、こんなに食いついたのを初めて見たな……。さすがに泣くまではいかなかったが、装備レベルに匹敵したカニ汁さん。マジ最強。
「わかったよ」
「お礼は鉱石でいいかい♪」
それは鍛冶効率を上げるための、あんたの利益のためだろ。俺たちも+が上がればメリットはあるけど……。
「なんでもいいぞ」
2人で迷宮に向かっている最中。
「こっちに来て初めてあんなにうまい飯を食ったな♪」
『オリハルコン装備』を超えたか……。さっきからカニ汁さんの話ばっかりだ。
「いったい何年こっちにいるんだよ」
「20年ぐらいだったかな♪」
なが……。
「20年も宿屋暮らしなのか……」
「お金はいくらでも稼げるからね♪」
貧民街の連中に聞かれたら大変だな。
俺は他愛のない会話をしながら11階層で別れた。
迷宮から出るとリズとギラーフが腕に抱きついてくる。
「ご主人様がどこかに行っちゃうような予感がしたニャ」
「昔を懐かしんでいたんですか」
「そうだな。久しぶりに恋しくなったな」
「ご主人様はもうお父さんになるニャ。子供を捨てて帰ったらダメニャ」
「俺はリズの子供が見たいからな。楽しみにしているぞ。……それに俺がいなくなったら、パンツが穿けないギラーフが困っちゃうしな」
俺は前半を2人に、後半をギラーフに耳打ちしてやった。
「その話は内緒ですよ」
ギラーフが小声で文句を言ってくる。
「ご主人様が楽しそうニャ。早く帰って露天風呂に入るニャ。1人のお風呂は寂しかったニャ」
昨日は発情していたからな……。結構前の出来事のように感じる。
「お迎えは2人だけなのか」
「不満ですかニャ」
久しぶりにリズのしっぽが逆立ったか?
「他にも来たがりそうな奴が多い気がして」
「エヴァールボは何か用事があるとかって言ってましたよ」
ギラーフ……、こういう時のエヴァールボを野放しにするな。まぁ危険はないだろう……俺には。
「今日からミス……」
「ミス?……」
リズが聞き返してきた。
今日からミストサウナができるかと思ったが、母体にサウナってまずいよな……。
リズの魔法で作るからリズは必須だし。
「ごめん。なんでもない」
「変なご主人様ニャ」
俺は他の話が思い浮かばなかったので、リズのステータスを確認した。
妊娠(あと49日) え? 1日で10日も早まったぞ?
「リズ……」
「何ですかニャ」
「妊娠期間が……」
「10日ぐらい縮まったかニャ」
「何でわかったんだ」
「ご主人様は本当にこの世界の常識に疎いですニャ。そもそも普通のパーティーは団体戦をしないニャ」
あ、忘れていた……。
「家族が1日に倒す量を普通のパーティーがしたら何十日かかると思っているニャ。それに装備が良くなって倒す時間が短いニャ」
このペースで戦えば、実質あと5日で産まれてくるのか……。
そりゃ服の準備って言うな……。
「子供の職業はどうするんだ」
「落ち着くニャ」
リズに『落ち着け』って言われる日がくるとは思わなかった……。
「ネコ族は力は弱く、後衛向きニャ」
「そうだったな……」
「職業は本人に任せるニャ。元気に育ってくれれば満足ニャ。本当は男の子が欲しかったけど、仕方ないニャ」
あれ? 今すごいことを言わなかったか?
「リズごめん。今のをもう一度言ってくれ」
「職業は本人に任せるニャ」
テンプレかよ!
「最後のところだ」
「姉妹にするかニャ」
新しいボケ方だな!
「男の子が……って」
「心配しなくても女の子が産まれてくるニャ」
「どうしてもうわかるんだ」
「母親のカンニャ」
「フローラさんが言っていましたよ。産まれてくる子供の性別は選べるらしいですが、母体に負担がかかるので、必ず1回に1人しか産まれてこないそうです」
「ギラーフがもうバラしちゃったニャ」
俺以外はみんな知っていたのか?
「フローラが言っていたって……」
「最初にいたメンバーだけは真実を知っていますよ。私たちには奴隷紋がありますから……」
『奴隷は主人に害のある行動はできない』
ギラーフにとっては真実を知れる立場にいれる方がよっぽど幸せのようだ。
「服はどうするんだ? コーシェルに言うわけにはいかないだろ」
「産まれてくるまではズボンを作ってもらっているニャ」
一応考えてあるんだな……。
俺だけがのんきにしていたのか。
てっきり1ヶ月はあると思っていた。
「ギラーフだったら3日で産まれてくるな」
俺は思わず声に出していた。
ギラーフの顔が真っ赤に染まった。
「わ、わ、わた、私はいつでも、だ、だ、大丈夫です」
「ギラーフ立ち止まってどうした? 家に着いたぞ」
「はう……」
ギラーフは顔の熱気を振り払ってから俺の腕に抱きついてきた。
「露天風呂でリベンジをしますよ」
ギラーフがエヴァールボの真似をして耳打ちをしてきた。とても爽やかな笑顔がそこにはあった。




