双子
昼食のあと、俺たちは2戦しただけで13階層の階段を発見することができた。
炭鉱の町とは違い、階段のある方角がわからないので、今回は本当に運が良かったと言っていい。
13階層の初物は[プラント]。
植物型のモンスターだ。食中植物とは違い普通に根を使って移動をすることができる。
攻撃手段は葉っぱを振り回すだけだ……。
表面にブツブツの塩みたいなのがあるが……。 まさか?
[グレムリン]、[サソリ]、[スケルトン]、[アリクイ]、[プラント]。
俺たちの大好きなカニ汁さんが出なくなってしまった。今後必要な時は11階層に行けばいいだけだが……。
「プラントですね。キーリアが喜びますよ」
どうやらキーリアにとって欲しい素材が出る階層のようだ。
現在のキーリアのメイン武器は鎌と鍬だ。
職業武器とはいえ、作ったエヴァールボを尊敬した。
そして戦いでは使う機会はないと思っていたが……。
農婦さん出番が来ましたよ!
「キーリア、自分のタイミングでいいから頑張ってこいよ」
「わかりました」
「モズラもサポートをしてやってくれ」
モズラがささっと移動をしてきて頭を差し出してくる。まだ続けるのか……。
俺は軽くポンポンっと頭に触れた。
モズラは頬を膨らませて、キーリアのサポートに向かう。
本当に今日のあいつは変だな……。
「あとでモズラの機嫌が悪かったら、ご主人様のせいですからね」
今回は耳打ちではなく、本気で文句を言ってきた。
「そもそもなんで今の流れで俺が悪いんだ」
エヴァールボは盛大にため息を吐いてから離れていった。
あんなエヴァールボを見たのは初めてだ。 何だか本当に俺が悪い気がしてきた。
キーリアはモズラの指示を受けてモンスターを倒していく。
確証はないが、アップルの時のアンジェもそうだったが、職業補正か武器特性があるかもしれないな……。
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ドロップアイテム ※( )の中は売却価格
・プラント→プラントの種(7モール)×10と11モール
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「『プラントの種』は何に使えるんだ」
「植えると野菜が育ちます」
本当に農婦向きのドロップだな……。
キーリアはとても嬉しそうだ。
逆にがんばったのに、報われないモズラが不貞腐れている。
遠くでエヴァールボの視線が恐い。
どうやら今回はなでないとダメらしいな……。俺はさっきのことも含めて優しくなでてやることにした。
モズラが気持ち良さそうに目を細めて顔を上気させている。
「こんなに近くに……」
モズラは急に泣き出してしまった。
「はーい。大丈夫ですよ。あとは私が慰めておきますね」
エヴァールボが面倒を見てくれるらしい。
「心配ないニャ。モズラはご主人様の手の良さがわかっただけニャ。どうせモズラが泣き止むまでは休憩なんだから私をなでるニャ。……気持ちが一切入っていないニャ」
リズは不満を漏らすが、俺の心はモズラの心配でいっぱいだ。
それでも俺はこの休憩中に、今後の指示を出さなくてはいけない。
「プラントはキーリアが中心に倒してくれ。さっきの様子だと任せても大丈夫そうだな」
「はい」
なんだか少し表情が硬い。
「相手は刃物を持っていないから絶対に致命傷を食らうことはないんだ。戦う以上は痛い思いをするだろうが、ここで慣れておけ」
今度は力強く頷いた。
そしてさっきの戦いでキーリアはサクランボさんを従えることができる数値になった。
モズラがやっと復活したので進むことにする。
「今日はギラーフの目が治ったお祝いをしませんか」
エヴァールボ、そういう話は休憩中にしろよ。
「そうだな。考えておく。今は戦いに集中しろ」
「約束しましたよ」
「するとは……」
「モズラを泣かせたのは誰だったかな? 慰めるのは結構大変だったんですよね」
「よし。飲もうか」
エヴァールボの耳打ちに即座に了承したのに少し嫌な顔をされた。
「次はギラーフのパンツで釣ろうと思っていたのに……」
ボソッと何かを言って戦場に向かった。
普段キーリアを戦力として計算に入れていないので、1人増えるとやっぱり違う。
俺たちは14階層の階段を見つけることは出来なかったが、早めに切り上げることにした。
みんなで〈肉の串焼き〉を食べながら今日のこれからの予定を指示する。
ギラーフには馬車の手配を。
エヴァールボにはお酒を。
クラリーにはオルゴールを。
それぞれサポートの人を選んで別れた。
家に帰って庭を見ると、昨日植えたばかりの種がすでに芽を出していた。
もう5cmはあるぞ。いくらなんでも早すぎだろ。
「肥料は私が作りましたが、これはキーリアの力でしょうね」
「〈農婦〉だとやっぱり何かいいことがあるのか」
「成長促進、収穫量アップともちろん恩恵はありますが……」
「何か言いにくそうだな」
「せっかくレベルを8以上にできたなら、もっといい職業がたくさんありますので……」
「〈農婦〉が農業をすることはあっても、農業をする人が全員〈農夫、農婦〉になる必要はないのか」
「そうですね。他にも家族で言うと、盗賊、鍛冶、細工、裁縫、料理、商人もスキルや魔法ではなく、技術なので職業に就かなくても大丈夫です」
「盗賊もなのか……」
「可能ではあるってだけですよ。素人と玄人ほどの差があります」
スキルや魔法が関係しない職業は専門職に就いていなくてもいいのか……。
料理はできたし、リズはご主人様人形を作っていたし、路上販売もできていたもんな……。
「キーリアはこれから『プラントの種』を植えるのか」
「そうですね。まだ時間がありますので植えたいと思います」
「夕食目当てで集まった子供たちを手伝わせればいいか」
「ありがとうございます」
「僕の装備はできたかい♪」
青田が来たか。
「あぁ。きちんと出来上がっているぞ」
俺は袋にしまっておいた『オリハルコン装備』を手渡した。
「これはすごいね♪早速着てもいいかな♪」
すごい目立ちそうだけど……、そういうのを気にしなさそうなタイプだもんな。プラチナ装備で十分目立っているか。
「あの納屋の中で着替えてきてもいいぞ」
青田は気にせずにその場で着替え始めた。最初から「着替える」宣言をしただけか……。
「ありがとう。エヴァールボさんにもお礼を言っておいて。それにしてもいいにおいだね♪」
夕食目当てでこの時間に来たんじゃないのか?
「食べていくか」
「ありがとう。そうさせてもらうよ♪」
「どうせまだ出来上がらないから、その前に質問したいんだが、いいか」
「なんだい♪」
俺たちはみんなと離れて2人だけになれる場所まで移動をする。
「あんたは王の依頼で隠れて姫の護衛をしていたのか? そしてその報酬は炭鉱の町の迷宮化の日時だろ。迷宮化の直前に俺たちのところに姫が来たのは偶然ではなくて、単純にあんたが迷宮化した時に『オリハルコン鉱石』を取りに行く時間を作るためだ。あんたは俺たちに姫の護衛を押し付けたんだろ? そしたら炭鉱の町で俺たちを見かけて、焦ったあんたは俺たちを早く迷宮都市に帰すために『姫』、『クーデター』という意味深なキーワードを伝えてきたんだな」
「本当に君はすごいね。どうしてわかったんだい」
「姫から『隠し子』であることを聞いたが、あんたも知っていたこと。仮にも王族なのに、護衛がいないこと。〈村人〉レベル1なのに、安全に迷宮都市まで到着できたこと。色々不可解な点が多すぎる。知っていたか? この迷宮都市は治安がいいけど、馬車で2時間の距離に山賊がいるんだぞ」
青田は降参のポーズをした。
「僕が君に頼みたいことは3つ、姫の信頼を勝ち取ること。姫を〈プリンセス〉の職業に就けること。無事に隣の国の王位継承の式典に出席させること」
「『隠し子』が式典に出席する意味がわからないんだが……」
「今の第1候補の姫に双子の姉がいたとしたらどうする♪」




