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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第4章 新しい命が宿ります。
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歌声

 12階層の初物は[アリクイ]。


[グレムリン]、[サソリ]、[デザートクラブ]、[スケルトン]、[アリクイ]。


 ピンポイントで弱点がいるぞ。アリ君食べられるなよ。


「アリクイは粘着性のある液体を使うかもしれないから、注意しろよ」


 みんなが俺の指示を聞いて正面からではなく、囲むようにして戦う。

「敵が弱くても単調な動きになるなよ」



 コーシェルは特訓の成果を試したくてウズウズしている。

「戦いに参加してもいいんだぞ」

 自覚がなかったのか俺の言葉に赤面して、逃げるようにモンスターへ向かって行った。


「コーシェルを見ていて下さいよ。特に耳に注目です」

 エヴァールボの耳打ちの時の息に気持ちがいってしまうのだが……。ところでその内容で耳打ちにする必要があるのか?


「近くにいるモンスターの音を聞き分けていますよね。小石の時もきちんと音を聞き分けていましたよ」

 なるほど。耳が反応したからコーシェルは小石が見えていたと言ったのか……。それがわかっても……。


「なぜ、避けなかったかですよね、ご主人様は()()褒められたいですか」

 あ、なるほど。


「ごめん。エヴァールボやっと理解できた。これは本人たちに任せよう」

「もうわかってしまったんですか。私の気持ちもわかっているくせに……、罪深い人ですね」

 この耳打ちさえなければ、素直に受け入れられるんだけどな。




 戦いを見ているとコーシェルは前衛向きだな……。〈裁縫師〉でももちろん戦えるんだけど、装備できる武器がレイピアや刀関係になるのがもったいない。

 本人の希望で〈裁縫師〉にさせたが……。

「コーシェルの職業に疑問を持たれたんですね」

「モズラか、そうだな。〈裁縫師〉じゃ武器の制限があるからな」


「あれはどちらかと言うと、タヌキ族に力がないからですね。エヴァールボのように大剣や、クラリーさんのように斧を装備できませんから……」

「種族の影響で制限がかかっているのか……」


「〈裁縫師〉も特別悪い職業ではありませんよ。リズさんが10階層でシャドーの攻撃を受けた時のことを覚えていますか」

「もちろん、覚えている」


「あの時に命を救ったのは人形が着ていた鎖帷子(くさりかたびら)ですよね」

「そうなるな」

 何が言いたいんだ?


「鎧以外でも身に付けていれば防げるんですよ」

「あ……」

 服は肌を隠すために着ているだけじゃないのか……。リアルなんだから、服を5枚着たとしたらそれだけ物理的に防げるのか……。


「鎧は万能ではありませんので、どうしても弱いところが出てきます」

「〈裁縫師〉はそれを理解して補える人材じゃないとダメなのか」

「はい。正解です」

 何だろう……。モズラがいつの間にかデレた? いつものそっけないモズラと違ったような……。あまい言い方の『正解です』だったぞ。


「んじゃコーシェルは人体構造と鎧の構造の両方を習得しないといけないのか……」

「人体はギラーフが、鎧はエヴァールボが教えてくれますよ」


「甘え上手。教わり上手じゃないとダメだな……。コーシェルは2人と関係を持っているから心配いらないか」

「そうですね。わたしも……と関係を持ちたいです」

 何かさっきからモズラが近いんだけど……。声が小さくてよく聞き取れなかったし……。


「あらあら。ついにモズラまでデレましたか。ご主人様もつみ……」

 エヴァールボをゲンコツしておいた。お前は少し静かにしていろ。


「痛いですよ。あちらでビエリアルもご主人様を情熱的な目で見ていますのに……。がんばって下さい」

 確かにキラキラ目で見ているな……。いったい何があったんだ?


――――――――――

 ドロップアイテム ※( )の中は売却価格

・アリクイ→アリクイの爪(17モール)と13モール

――――――――――


「アリクイは足元しか攻撃できないようですね。アリクイなのに、アリ君に負けるとか……」

 ギラーフのツボにはまったようだ……。全然おもしろくないぞ……。

 今までは少し後ろめたさがあった笑い方だったが……、目が治ってから爽やかに笑うようになったな。


「『アリクイの爪』は何に使うんだ」

「〈薬師〉が薬の『調合』に使うそうです」

 今の俺たちには関係ないか……。


「よし、ドンドン進むぞ。俺たちにはこの辺りは弱すぎる。でも気を抜いて致命傷を食らうなよ」





――――――――――


「迷宮都市だと久しぶりだな。左のグレムリンが光っている」

「は~い。任せて下さい」

 頭を出してくるギラーフ。なでればいいんだろ。最近なでないと動かなくなってきたな……。

 ギラーフが走っていくと、今度はモズラが頭を出してくる。

「モ、モズラ……」

「ご、ごめんなさい。その……、ギラーフが気持ち良さそうだったので、つい……」

「ご主人様は女心がわかっていませんね。いいですかモズ……」

 エヴァールボの耳打ちをモズラが初めて阻止した。


「せっかくグレムリンを引っ張ってきたのに皆さん遊んで何をしているんですか……」

 俺たちは顔を見合わせた。ギラーフだけ働いている構図になっている……。

「「「ごめんなさい」」」

 遠くでビエリアルが笑っている。ビエリアルって笑うんだな……。魔法にしか興味がないのかと思っていた。

 でも1度だけ見たことがあったか? たしかオークが叫んだ時だったような……。

「グレムリンってどうやってテイムするんだ。テイムのたびに苦労するよな……」

「まだ歌っていませんし、歌を聴かせてみてはどうでしょうか……」

 モズラナイス、新しい切り口だな。〈踊り子〉の検証もまだだったからついでにいくか。

「アキリーナ、歌ってくれ。ミーナは踊ってくれ」


 そして一気に色々起こった。


 まず、歌によって敵も味方も魅了され、みんな手を止め、足を止め。

 ミーナですら、踊るのを忘れたぐらいだ。


 これは……。いきなり歌わせたのは失敗だったな。

 グレムリンはあっさり魅了でテイムをした。


【称号:グレムリンの友(悪戯心上昇(小))を取得しました】


 そんなことよりも、今はこの状況だ。


「テイムは成功した、もう歌うのをやめてもいいぞ」


 俺の声はアキリーナに届いたようだ。

「みんな目の前の敵に集中しろ」

 俺が声をかけたおかげで、敵よりも味方の方が早く復帰した。


「アキリーナ、すまない。予想以上に素晴らしい歌声でみんなの動きが止まってしまったようだ」

「そんなに褒めないで下さい。恥ずかしいです」


 リズは未だにポカーンとしている。

「リズ、まだ敵は生きているんだ。殲滅してくれ」

「はいニャ~」


「さて、ミーナの〈踊り子〉の検証は失敗に終わったな……」

「ごめんなさい」

「俺も予想外だったからな……。まずは目の前の敵を倒すぞ」





 戦闘終了後。

 まずは称号からだが、機械の誤作動はグレムリンのせいとかって逸話があるから。きっとそこから悪戯心がきているんだろうな……。これはONにしなければ大丈夫だろう。

 でもギラーフには使ってみたいな……。いや、今度使おう。これも称号の検証だ。


「グレムリンの主人だが……」

 どう考えても、アキリーナに懐いている。ただ……。俺の美的センスから言うと可愛い感じのモンスターじゃないんだよな……。

「アキリーナいるか」

「頂いてもいいんですか……」

「欲しいならいいぞ。すでに懐いているようだしな」

「ありがとうございます」

 みんなから拍手が起こったが……。みんなもそこまで羨ましそうには見ていない。


「あの歌声はすごかったニャ~」

「まるで、魂が吸われる感じでしたね」

 リズとギラーフの感想にみんなが頷いている。

 俺はそこまでじゃなかったけど、幻惑耐性と超音波耐性の併用で防いだのか?


「とりあえず、もう歌わなくていいぞ。あれは危険だな。でもみんなも予想外の出来事があったからって、戦場で手を止めてもいい理由にはならないからな」

 みんなが頷いたので、説教はやめにする。俺も一瞬だが意識を持っていかれた。

 この姫、実はマーメイドとか、サキュバスってことはないよな?


「あと2戦したら食事にしよう。料理班は準備を始めてくれ。姫は……」

「庭で初めて料理をしましたが、お手伝いならできます」

「んじゃよろしく頼む」


「迷宮に入る人は3食なんですね」

 そういえば、この世界の人は2食だったな……。

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