時は動き始めました
庭で隣の国の姫と会話をしたあと……。
俺たちは久しぶりに露天風呂に入ることにした。
さすがに新人5人は来たばかりなので、急に『みんなでお風呂に入る』と言われても納得がいくはずがないっと思っていた……。
ギラーフは本当に露天風呂になると本気を出すようだ……。
しかも今回は今まで一緒にいたメンバーとも馬車の旅を通して、ゆっくり会話をする機会があったので、みんな積極的に話しかけてくる。
積極的に行動ができる1番の理由はやっぱり俺の隣にリズがいないことか……?
リズは現在『発情期』を迎えた。
そういえば丁度4週間が経って周期が来たのか……。忘れた頃にやって来たな……。
本人の希望で今日と明日は危険なので、隔離をすることになった。
「発情期を抑える薬って作れないのか」
「[薬師]の領分ですね。一応購入することができますので、購入されてはどうでしょうか? 今回はすでに『発情期』に入っていますので手遅れですが……」
発情を弱める薬であって、発情を止める薬ではないようだ。
今度からは飲ませるか……。
リズの苦しみ方を見ていると可哀想になってくる。
「今日の儀式は誰がいいですか」
ギラーフがこっそり耳打ちをしてくる。
まさか儀式で不正をしているのか?
「今回は新人なしでいく予定です」
コウノトリが……。
俺は気持ちが顔に出やすいようで、ギラーフが寂しそうな顔をする。
「久しぶりにご主人様を独り占めできそうなのに、誰のことを想像していたんですか……」
ギラーフは俺の左腕に胸を押し付けてくる。
俺の期待しているコウノトリがすでに除外されているので、俺の内緒の計画が早くも遠退いてしまった。
そして選ばれたのが[フローラ]と[コーシェル]だ。
考え事をしている間に、久しぶりの儀式の相手が決まってしまった。
「こんなに早く機会が訪れるなら昨日は我慢できましたね」
フローラの耳打ちは優しい。
「2日連続でもご主人様は喜んでおりますね」
エヴァールボの耳打ちは強烈だ。
【称号:タヌキ族の友(食肉目)を取得しました】
フローラが露天風呂を出たところで声をかけてくる。
「旦那様は何かを隠していますよね? 先ほど新人の5人が儀式から外されたことに関係していますね」
フローラの直感は女のカンではなく、ユニコーンとして生き抜くために備わったものだろう。鋭いな……。
「その顔は正解ですね。そして昨日、私と交わした話も関係していますよね」
俺は正直に頷いた。
昨日フローラは『私たちが神から授かった本当の恩恵は他種族間の生命の架け橋です』と言った。
「私は悔しいです。私は旦那様を信じていました……。どうして旦那様は私を信じて頼って下さらないのですか? 私は旦那様が望む物を用意することができますよ」
「俺はあの話を聞いた時から、いつかこの会話をする日が来ると思っていた……」
「でしたらなぜ……」
「俺はフローラの気持ちも大事だと思っている。もしかしてユニコーンは子供を授かれないんじゃないのか……」
「どうしてそれを……」
フローラの顔が驚愕に変わる。
「もしフローラが妊娠できるなら、俺の子供を望む気がする。しかし、フローラは誰かに授ける方法があるとしか言わなかった」
フローラが俯く。
「ユニコーンにはオスがいません。そして私たちの力では妊娠ができません」
「もし俺がフローラに子供を産んで欲しいってお願いしたらどうするつもりだったんだ」
フローラの目から涙が落ちる。
「私は旦那様の事を愛しています。今の言葉だけでこれからの人生を幸せに生きていけます」
俺は自分のタオルでフローラの涙を拭いてやる。
「旦那様お願いがあります。私のためにも『こちら』をリズさんのために使ってくれませんか……」
フローラの手には小さな粒のアイテムがあった。〈赤の遺伝子〉
※赤の遺伝子を継いだ子供を授かる。種族は母親に依存する。(妊娠確率100%)
「こちらをリズさんに飲ませて下さい。本来母体にかかる負担は大きいとされていますが、リズさんはレベルが高いのでその心配はないでしょう。もちろん飲ませる前に事情を説明して下さいね」
フローラはバスタオルを巻いたまま、俺に抱きついてキスをした。
「これの使用期限はあるのか」
「私も作ったのは初めてですので詳しいことはわかりませんが、明日いっぱいまでは持つと思います」
「わかった。明日までは大丈夫なんだな」
今度は俺からフローラにキスをした。
「ありがとう」
「これも神から恩恵を授かった者の務めですから」
フローラは微笑んだ。
「フローラの感情は0か寂しいな」
「これを作るにはかなりの体力が必要なんですよ。旦那様のおかげでレベルが上がっているので簡単でしたが……。私の愛情がたっぷり入っています。わかりきっている事を聞くニャです」
リズの真似をしたパンチはとても可愛かった。
そしてパンチをしたせいで、フローラのタオルが床に落ちたが、気にせずに俺に抱きついてキスをしてきた。
フローラは泣きながらタオルを拾うと俺の体を拭いてくれた。
「実は俺のいた国では〈コウノトリ〉と言われる鳥は、子供を運んでくると言われている」
「もしかしてノルターニさんを選んだ理由は……」
「そうだ。俺はリズの子供を望んでいる。みんなに恨まれようとも……」
「この世界ではそのような伝承はありませんが……。しかし時は動き始めました。これからノルターニさんに儀式をしてもらいましょうか」
ギラーフみたいな強引な言い方だな……。
「もしそれで旦那様が子供を宿せるようになったら私にもチャンスが生まれます。先ほどの言葉は嘘ではなかった事を証明してもらわなくては……」
フローラの顔が悪戯っ子の顔になった。仮の話だったのだが……。
「事情はよくわかりませんが、私は山賊退治をしていた旦那様を間近で見ていました。そして旦那様をカッコいいと思っています。人生を救って下さった恩人が望むなら、私は喜んで儀式を受けたいと思います」
「本当にいいのか……」
「旦那様こそこんなガリガリの女でいいんですか? フローラさんがいると女性はみんな自信をなくしますよ」
俺とノルターニは笑って、フローラは赤面した。
【称号:コウノトリの友(他種族間生命誕生(中))を取得しました】
これは今後フローラのために使うことになりそうだ。
フローラが恐る恐る審判の時を待っている。
「ノルターニ、ありがとう」
「これで私をここに残す理由がなくなっちゃいましたね」
ノルターニは涙を流し始めた。
「ノルターニが望んで出て行く場合は引き留めはしないが、俺たちはもう家族だろ」
俺はノルターニが純粋に俺の事を好きになってくれた事に、涙を見て初めて気がついた。
「私も涙が出るほど旦那様と離れたくないと感じていたとは思いませんでした。これからもよろしくお願いします」
「順序が逆になってしまった気がするが、これからもよろしく頼む」
「あの……結果は……」
「成功したぞ」
フローラは喜びのあまり突撃してきた。
「フローラ落ち着け」
「こうしてはいられません」
俺は服を脱ごうとしているフローラにゲンコツをした。
「痛いです。突然何をするんですか」
「とにかく落ち着け。今日はもう儀式はしない」
お前はリズか! この世の終わりのような顔をするな。
「すみません。取り乱しました」
「この称号に関しては明日みんなに発表をする。世間には漏れないように3人だけの秘密にしようにもリズが妊娠したら結果は同じだ」
2人が頷いたので俺はリズのもとに向かった。




