帰路_その1
翌朝モンスターの納屋では大岩さんと岩小僧が鉛鉱物を産んでいた。
前日に吸収した鉱石は、翌日に鉱物として排出されるようだ。
そして不純物が外に出たから、見た目が岩に戻っている。
「エヴァールボ、鉱物になったぞ。これはすごいかもしれないな」
「鉱物になってしまうと私よりもクラリーさんの領分になりますね」
「あとで直接持って行けばいいか」
現在クラリーは転職による肉体改造中。
「ご主人様、こちらも見て欲しいニャ~」
リズの周りには大きくなったスライムたちがいた。
そういえば、出産してから約1ヶ月か?
「全部リズが面倒をみろよ」
「テイムオーバーになりますが……」
そういえば、裏技について説明していなかったか。
「どうやら、親をテイムしていれば、子供は従属扱いで、何体でも従えることができるみたいだぞ」
「そんな話聞いたことがありませんが……」
モズラの知識欲に触れたかな?
「俺も事情はよくわからないが、俺の称号の影響ではないだろうな。リズだって普通に[ミニスライム]を従えていたじゃないか。通常モンスター屋から買った場合は親子で買えるケースはないだろう」
「確かに親子でそろうのはレアケースでしょうね。だから今まで誰も気が付いていなかったのですか……」
「今のところ親は両方♀だからな。♂でも同じかどうかは不明だ。ところでウーリーが転職した〈配合師〉って聞いたことがないんだが……」
「丁度今言っていました、子供を作るための職業です。ご存知ないのですか……」
ゲーム時代に配合はなかった。モンスター屋からモンスターを買うことはできたから、繁殖させる職業にあたるのか。
「テイムモンスターは〈配合師〉が妊娠を促します。通常は自然妊娠は稀です。モンスターの場合は体内の活力が一定以上の夫婦がそろうと妊娠するとされています。本来は出会うことはないのですが……」
出会っているからな……。
「何で通常は自然妊娠しないんだ」
「狩りに行こうとしてテイムモンスターが動けなかったらどうするんですか」
「なるほど。主人側の事情に合わせて妊娠しないのか」
「それを妊娠しても大丈夫ですよ。とアナウンスできるのが〈配合師〉です」
「もしかして、ウサギ族の固有職なのか」
「絶対にそうではないですが、ウサギ族、キリン族、ワニ族に多いです」
キリン族もいたのか……。
「ワニ族は力が強いので〈配合師〉になることは少ないです」
配合師っていかにも戦えませんって職業だもんな……。
「少し早いが先にこの子たちを馬車に連れて行こう。転職組のは俺が誘導する」
誘導するって言っても、俺がテイムしたから俺が指示するだけだ。
「んじゃ手分けして家族を運んできてくれ。俺は荷物ぐらいなら運べるが……」
「私が荷物になりましょうか。ギラーフが朝から部屋に飛び込んできましたが……。あれから何かあったのですか……」
「何もないんだが、ギラーフが起きた時もあの格好のままだったから自分の姿に赤面して逃走したぐらいか……」
「なるほど。だから戻ってきたら急いでトイレに行ってたんですね。ご主人様も罪深い人ですね」
朝からエヴァールボの相手は疲れる。冷やかしは覚悟してたから、この程度なら我慢するしかないか。
「そうそうギラーフが昨日部屋にいなかったので、荷物は私がまとめておきました。今頃は替えの……」
パンツを手渡しされた。
え~っとギラーフは今……。
「荷物は馬車に乗せておきましたよ」
エヴァールボの爆弾は強烈すぎるだろ。
部屋をノックしてから。
「ギラーフ、ちょっといいか」
「……。ど、どうしました、今とても……その……」
「入るぞ」
「はい。どうぞ」
ギラーフは立ったままスカートの裾を引っ張っている。やっぱりか……。
俺はギラーフの頭をなでてから。
「ギラーフ、俺が『パンツ』を穿かせてやる」
俺はポケットからギラーフのパンツを取り出した。
「え……なんで……」
真っ赤な顔をしたギラーフに悪戯をするのは楽しいな。
「ありがとうございます。外を歩けないところでした」
俺はギラーフの頭をもう1度なでた。
「よし、準備はいいか。そろそろ出発するぞ」
「はい!」
今は2人きりなので、リズみたいにスリスリしてきた。
※ここからは新人4人が登場します。少しの間、種族を記載しています。
「全員乗り込みました」
「ありがとう。ケーレル(マングース族)」
俺はケーレルの頭をポンポンとした。
今まであまりしゃべったことはなかったが、ぱあっと顔が明るくなった。
「御者をしてくれる4人と少し会話がしたいから、順番に御者を……。いや、俺が順番に馬車を変えるか」
歓声が上がった。
「ジャンケンが無駄になりました」
ギラーフが肩を落とす。ギラーフが勝者だったのかな?
1:俺、リズ、リアラ、ナイラ、アンジェ、クラリー、ケーレル(マングース族)。
2:ギラーフ、モズラ、ビエリアル、エヴァールボ、スオレ(イタチ族の姉)。
3:ミーナ、エリス、ウーリー、コーシェル、リオーニス(イタチ族)。
4:フローラ、キーリア、ノルターニ(鳥族)。
※4は荷馬車
「まずは先頭を走る馬車から乗っていく。みんな忘れ物はないな。行くぞ」
「待ってーーー」
あれはクラリーのお母さんか。
「ちょっと止まってくれ。クラリー、お母さんが来たぞ」
「お母さんどうしたの? あいさつなら昨日きちんとしたじゃない」
「餞別だよ。持ってきな」
細工師の道具だ。
「これ高かったんじゃないの? お金は大丈夫なの」
「子供が親のお金を心配するもんじゃないよ。クラリーを頼んだよ」
前半は娘に、後半は俺に言った。
「はい。任せて下さい。そのうち手紙を書かせます」
「なんだい。もう気が付いちゃったのかい。私はあんたを信用していたわけじゃないよ。でも信じて良かったと思ってるよ。まだまだ他の人間は信じられないけど、あんただけは応援しておくよ。しっかり生きな」
俺は背中を叩かれたから、頷くことしかできなかった。
「エヴァールボってのは、どの子だったかな」
「私ですが……」
「あんたの師匠からの手紙と私からの手紙だよ。それと……」
クラリーのお母さんが何かを耳打ちしていた。
エヴァールボが目を見開いて、そのあと唇を噛み締めた。
「ありがとうございます。絶対に……」
「任せたよ」
エヴァールボも背中を叩かれた。
「それじゃ出発するか。迷宮都市に来た時は、顔を出して下さいね」
クラリーのお母さんは頷いて手を振ってくれた。
俺は御者のケーレルの横に座る。リズは後ろから俺に抱きつく。
「ケーレルは御者は慣れたか」
「馬が暴走さえしなければ、大丈夫です」
「俺も暴走されたら、手がつけられないな」
3人で笑った。
俺は称号のスキルを少し入れ替えた。
縄張り感知、樹液感知、風向き感知、危険感知などの迷宮で使ったことのなかった称号をONにした。
視界に縄張りが色で。樹液の発生箇所が丸で。風が線で表示される。
これは使いどころがわからないが、面白いな。3つ同時にONにすると頭の処理が追いつかないが……。特に風の線が邪魔だ。
それと残念ながら、現在は危険ではないようだ。まだ町からそんなに離れていないからな。
そのうち嫌でも試せるだろ。
しばらく馬車に揺られていると。
「やっとできました」
クラリーが何かを作ったらしい。
「紐か……何に使うんだ」
「これはギラーフさんがウリボー君に乗った時に使う手綱です」
なるほど。手を離しても落ちないようにするためか。ウリボー君はエロい時以外は、揺れないように走る技術が高いけどな……。
「誰か後ろからこれをギラーフか、ウリボー君に渡してくれ」
手綱が手渡しで後ろまでいく。
どうやら、ウリボー君に無事届いたようだ。
しばらくすると。
「これは楽ですね。クラリーさんありがとうございます」
ギラーフは早速ウリボー君に騎乗している。
もう〈ウリボーライダー〉って職業になれそうだな……。もちろんそんな職業はないだろうが……。
どうやら偵察という名のドライブをしてくるらしい。
「ギラーフ、左のあの辺りに[ペコペコ]だかってモンスターの縄張りがあるみたいだぞ」
「何ですか……。そのお腹がペコペコみたいな名前……」
「いや、俺も知らん。視界の縄張り表示にモンスター名が見えるだけだ」
「それ便利ですね。とりあえず行ってみます」
「無茶するなよ」
今のギラーフがやられることはないだろう。
さて、どんなモンスターなのか……。ゲテモノじゃないことを祈ろう。
「[ペコペコ]がいましたよ」
[ペコペコ]ってだから何だよ。
「『ペコペコの卵』をもらってきちゃいました。こっちは『ペコペコの肉』です」
卵ってことは爬虫類か……? それと、もらってきちゃいましたって言うけど、倒して奪ってきたんだろ?
ギラーフの話では[ペコペコ]は鳥のようだ。例える時にニワトリ型のモンスターの[クックー]で説明された。
前回は見張りの時に[ラビット]を仕留めて、今回は[ペコペコ]を仕留めて。ギラーフは本当に役に立つな。
「これで今回もスープが豪華になるぞ。もう少ししたら、朝食にしよう。その間は少しだが馬を休ませておけるだろう」
「それでは休めそうなポイントを探してきますね」
ウリボー君は戦闘以外でも活躍するな。
そして20分後、見晴らしのいい丘の上で朝食を食べることにした。
行きよりも戦力が格段に上がったので、みんなで同時に食事をすることにした。
俺はリズに餌付けをする。
「旅は最高ニャ~」
「あぁ。晴れて良かったな」
リズを抱きしめていると温かい。昨日全然寝ていなかったから非常に眠い……。
「ご主人様、先に馬車に戻って寝ててもいいですニャ~」
「すまんが、そうさせてもらうか」
俺は朝食を食べたら早速馬車で仮眠を取ることにした。
本当はこのタイミングで2番の馬車に移動するつもりだったが、今2番に行くと寝ている間に何をされるか不安で仕方がない。
「起きましたか。3時間ぐらい寝れたようですね」
どうやらかなりぐっすり寝ていたようだ。横ではリズも寝ている。
「アンジェ、何も問題はなかったか」
「はい」
何かあれば、起こされるか。
「あと1時間ほどしたら、昼食を作り始めますが、食べられますか」
「寝てたからあまりお腹が空いていないな。すまんが、少しでいい」
「わかりました」
さて、俺が起きてて、リズが寝ているなら、することは1つしかない。
「今日の肉球様は……」
あ、リズと目が合った。
「リズ、お手」
「恥ずかしいニャ~」
おずおずと差し出される肉球様。
「この肉球様はたまらないな……」
「ご主人様、声が大きいですよ。何で私はご主人様より早く起きなかったんでしょう」
リズはため息を吐く。
俺は肉球様が手になる瞬間を見た。
起きて3分間だけの肉球様。
「俺の肉球様が……」
アンジェは自分の手を見ていた。
「あれが、ネコ族の肉球ですか。初めて見ました」
「たまにリズより早く起きた時に堪能させてもらっている」
「恥ずかしいので、あまり言わないで欲しいニャ」
リズは耳を塞いで抗議をする。
俺はリズが可愛くて頭をなでた。
「いいなー」
馬車の走る音はうるさかったけど、アンジェの呟きは俺の耳にきちんと届いた。
「アンジェもおいで」
アンジェは頭を差し出してくる。
「私だけいいんでしょうか……」
「朝は肉体改造組がいて忙しかったからな。あとで全員の頭をなでてくるからいいだろう」
「よろしくお願いします」
アンジェはなでられると耳まで真っ赤にする。
「旦那様になでられると幸せになりますね」
「この手は幸せの手ニャ~」
「そうですね」
リズとアンジェが意気投合してしまった。
御者のケーレルもこちらをチラチラ見ている。
そろそろなで終わったと思ったらリアラとナイラが頭を差し出してくる。
「「私たちもお願いします」」
俺は思わず笑ってしまったが、2人が手を握って震えているのがすごい可愛かった。
「いつでもなでてやるから、そんなに緊張をするな。こちらにおいで。リズは周辺の警戒をしてきてくれ」
「はいニャ~」
馬車の中は窮屈ではないが、広くもない。そして走っている馬車は揺れる。
リアラとナイラが躓いて俺の手と顔に胸を押し付けてきた。これは仕方のないことだ。
3人で団子状態になってラッキスケベを経験した。
甘いにおいと柔らかい体から何とか離れることができた。残念だ……。いやなんでもない。
「2人とも怪我はないか」
「怪我はありませんが……。旦那様こそお怪我はありませんか……」
俺は大丈夫だ。
ナイラは真っ赤な顔で黙っている。どうやら、躓いた原因はナイラのようだ。
「少しぶつけたが、怪我はしていない。なでてあげるからこちらにおいで」
俺は2人を抱き寄せて背中側から頭をなでた。
オオカミだからだろうか、うなじのところにも毛が生えている。
「これは幸せですね」
リアラは俺の胸にもたれかかって来た。ナイラも真似をする。
「2人も甘えん坊になったのか」
「「ダメでしょうか」」2人同時に上目使いで攻めてきた。
「俺の手は2つしかないからな。みんなが同時じゃなければ大丈夫だろう」
「旦那様一生付いて行きます」
ナイラが抱きついてきた。
「それは今私が言おうとした言葉ですよ。とらないで下さい」
「よし、そろそろいいだろう」
「「ありがとうございます」」
安全な馬車の旅も忙しいな……。
「旦那様、先ほどギラーフさんから『この先に見晴らしのいい草原がある』と伝言がありました」
「ケーレル、ありがとう。ずっと御者をして疲れないか」
「今の私にはこれしかできませんから……」
これは質問を間違えたな……。仕事がしたくないなら出て行けって聞こえちゃったかな……。
「草原に着いたら、ゆっくり休憩してくれ」
「ありがとうございます」
まだあまり話したことがないから、壁があるな……。
[ミニスライム]→[スライム]。印×8個購入。
[ペコペコ]のモール分加算。




