初依頼
翌朝、宿屋の受付嬢の依頼を受けて、ジャイアントブルースライムを探しに行く。移動の途中にパンダの様子を見ていたが、筋肉痛はないようで、今日も場外ホームランを連発していた。
元々遠くまで飛ばしていたから計ることはできないけど、昨日よりもレベルが上がったためか、飛距離を伸ばした気がする。
頼もしい仲間ではあるが、癖がありすぎて今の俺ではうまく扱えない。
俺――スライムの飛んだ先しか見てないし……、もうパンダが主役で良くない? と言う声が聞こえそう。
モンスターを倒す:パンダ。ドロップアイテム拾い:主人。
こんなんで今後の主従関係大丈夫かな? 不安になってきた……。
西の森に続く草原に着くと、大きなブルースライムがいる。
大きさは一メートル程。通常のスライムの二倍はあるだろうか……。たぷんたぷんとさせながら巨大な水風船が草の上を走っていた。
うーん。石でもぶつけて割れてくれれば簡単なのに……。
受付嬢の道案内がなくても、無事目的地に到着したようだ。
ただ……、現実を受け止めるのがきつい。
大きなブルースライムは、頭に鞭を刺し、振り回して遊んでいる……。
きっとあれは昨日メイドがなくした鞭だ。
まさかそれを拾って楽しんでいるモンスターがいたとは思わなかった。
小一時間問いたい、君は何がしたいんだ? 時間の無駄なのはわかっている。
これもどうせまた罠だろ! 突っ込んだら負けだ……。
俺はグッと堪えてステータスを確認した。
――――ステータス――――
名前 ジャイアントブルースライム
性別 ♀
素質 普通
レベル 二〇
HP 三〇〇/三〇〇
MP 一〇/一〇
SP 一〇/一〇
筋力 三〇
体力 一五
素早さ 一〇
かしこさ 一〇
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レベルが高い!
でもレベル二〇のスライムとレベル二〇のドラゴンをイメージしたらわかると思うが、スライム枠だから、レベル程には強くないはずだ。
それでも、これはまだ勝てない気がする。
うーん。果たしてパンダの位置付けはスライム枠の上だと思うけど、どの程度優遇されている枠なのか……。
初依頼で失敗するのは嫌だし、そもそも今のままでは宿泊費が足りない。つまりもう戦うしか俺たちに残された道がない。
今なら取り巻きもいないから、一対一で戦闘ができる。
こちらの戦力は、我等の四番バッター! パンダ様……。
俺がサッと手を前に出すと、それを指示だときちんと読み取って、パンダ様が俺と巨大スライムの間に立ち、竹を振りかぶった。
遊んでいた巨大スライムも俺たちに気が付いて動きを止める。
楽しく遊んでいたところを邪魔されて不愉快になったのか、猛然と向かってきた。
あとジャンプ一回で届く距離まで近づくと、ドカンッとその巨体を跳ねさせる。
大きいだけじゃなく、速さも兼ね備えたいい体当たりだ。
しかし、パンダ様にとってスライムが相手では、すでに物足りなくなっていた。
さぁ、巨大スライムの第一球……。
打ちました!
これは大きく横にそれたゴロです。さすがに巨大スライムなだけに体重があるんでしょうか?
パンダ様は予想以上の手応えに竹を三回素振りして、次の打席に備えた。
とりあえず、ファール。
第二球……。
え? 真っ直ぐ進んでいた巨体が縦回転をして、パンダ様のスイングをかわした! 変化球か? まぐれならいいが……。ストライク。
第三球……。
デッドボール!
スローボールのようにジャンプの速度を変化させ、落下点をパンダ様の手前に持っていき、届く直前にもう一度地面を蹴って、加速するという。さすがジャイアント。単なる体当たりが進化を遂げている。
攻撃を食らったバッターがフラフラになった……。
竹を地面に突き立ててギリギリ立っているような状態だ。
パンダ様にとって、初めてのダメージかもしれない。レベル差があるし、もう退却すべきか?
でも、逃げたくても、頭に血が上ってしまったのか、歯をむき出しにして巨大スライムを睨んでいた。こんなに敵意を表しているパンダ様を初めて見る。
第四球の前に少し距離をとって、頭の鞭の位置を直す巨大スライム。
間が空いたので、こちらはお昼用に持ち歩いていた笹をパンダ様に食べさせ気分を回復する。他にもレベル差を乗り越えるためにHP回復薬を使った。ズルいかもしれないが、赤字覚悟の総力戦だ。
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第八球……。
内野フライ!!
巨大スライムはほぼ真上に上がり、地面にドーンッと音を立てて落下した。
その瞬間水風船が割れたように飛び散り、光の粒子に姿を変える。
よし!
本当にきわどい勝負だった。もう一度やったら薬がないから負けるだろう。
ドロップアイテム:スライムの水上肉。
俺はドロップアイテムを見て、この世界を甘くみていた事を痛感した。
ゲームの時ですら、上肉なんて見た事がない。
まさか戦い方でモンスターのドロップアイテムが変化するのか?
今の戦力ではどちらに転ぶのかわからないので、もう二度と戦いたくはない。
ドロップアイテムを拾い、瀕死の状態のパンダ様を連れて町に向かう。
パンダ様は竹を杖代わりにして歩いている。
スライムが出たら、パンダ様を休ませて、俺が戦う。
昨日は俺もソロ狩りをしていた。
『力』にステータスを振らなくても、レベルが上がると能力の底上げが行われるようで、同じ武器を使っているのに、スライムへのダメージが増えている。その結果、稀に一撃で倒せるようになった。
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巨大スライムの攻撃を食らってボロボロになっていたパンダ様であったが、切り傷ではなく、体当たりだったためか、町に着いた頃には普通に歩けるまでに回復した。
そんな俺たちが宿屋に入ると、受付嬢が嬉しそうに微笑んだ。
「お帰りなさいませ」
「ごめんなさい。目的の〈スライムの水肉〉をゲットできませんでした! 〈スライムの水上肉〉で勘弁して下さい」
俺は宿泊費がギリギリ足りないため、頭を下げる。
回復したとは言え、疲れきった状態で野宿はキツい。
依頼された物を用意できての依頼だ。
違う物で誤魔化す場合、違約金が発生しかねない。
「こ、これは……。幻の〈スライムの水上肉〉ですか? 上肉をドロップするにはジャイアントブルースライムをたくさん運動させてから、すごい強く叩かなくてはいけないと言われているんですが……。これなら宿泊費一〇日間無料でもいいですよ♪」
受付嬢がとても天使に見えた。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 村人
レベル 一〇
HP 六五/六五
MP 一〇/一〇
SP 四〇/四〇
筋力 三
体力 三
素早さ 三
かしこさ 三
モンスターの友 五八
残りポイント 〇
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装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・木刀/木の盾/村人の服/なし
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所持金
・八三〇モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/九)
武器:竹
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