馬車の旅
翌朝やっぱり寝坊した者が4人いた。
そのうちの1人に俺が入ったのは内緒だ。
リズももちろん一緒に寝坊した。
誤解がないように弁解しておくと、日向ぼっこをしていたから眠れなかっただけだ!
残り2人はギラーフとビエリアル。
ギラーフは興奮して眠れなかった典型的なパターンだが、ビエリアルは単純に回復魔法のLvを上げていた。
新人はきちんと起きたらしい。そしてすでに馬車に荷物をのせている。
一応1人3着までにしてもらった。長旅の場所取りの多くが衣服と食料だ。
15人分も衣服があると、それだけですごいスペースをとる。
これはもう荷馬車がいるんじゃないだろうか?
全員で大パーティを組むのはいいとして、どちらの馬車に誰が乗るのかを決めていなかった。
俺とリズ、姉妹2組と新人2人は同じ馬車の方がいいだろうから……。
A:俺、リズ、リアラ、ナイラ、アンジェ、ウーリー、コーシェル。
B:ギラーフ、モズラ、ビエリアル、エヴァールボ、フローラ、ミーナ、エリス、キーリア。
Aの方には3大スターが付く、Aの方がかなり強そうか?
別々に移動するわけじゃないからいいか……。
「一応スタート時の乗り込みはこれだが、後で自由に行き来していいからな」
みんなが頷いたので、早速出発することにした。
御者を務めるのは俺とギラーフ。
Aはコーシェルができるらしい。後で代わってもらおう。
Bはギラーフだけ。
道が落ち着いたら、順番に練習をさせることにした。
事前に貴族御一行との旅で盗賊に襲われた話はしておいた。
あの時は状態異常で苦しんだので、今回はビエリアルだけは何を口にするのも最後にすることに決まった。
一応ビエリアル用の薬は用意しているが、安全策だ。
ビエリアルも特に先に食べなくちゃいけないわけじゃないので、了承してくれた。
馬車の旅は片道1日半。途中でどうしても野営をしなくてはいけない。
最初こそはしゃいでいたが、みんな景色が同じですぐに飽きたようだ。俺の時と同じだな……。
リズだけはなぜか御者をしている俺をすごい真剣に見ている。景色は興味なしですか?
パンダ様、ゴーレム先生が馬車を守るように歩いている。大サソリさんはサイズ変更できるので、馬車の中で休んでいる。
2大スターもはしゃいでいるのかもしれない。
迷宮で毎日5kmとか歩いているからな……。あとで順番に休ませるか。
迷宮都市に来る前からいたメンバーは俺、パンダ様、オーガ君、スライム軍団。
今では大所帯になったものだ。そしてみんな俺の家族だ。
1日だけ出発を遅らせて、転職したてでレベル1は、やめておけば良かったかもしれないな……。
馬には休憩が必要なので、みんなでちょっと早い昼食にした。
ビエリアルだけはみんなが食べ終わってからだ……。
料理班が4人も同行していると、手際がいい。
それよりも女の子だからみんなお手伝いができるのもいい。
リズさん? 君も女の子らしいところをアピールした方がいいんじゃないですか?
食事は何事もなく終えた。リズが転んでオニギリを俺と一緒に食べた以外は……。
その後も、何人か転んでいたが、無視した……。
そして大鍋を洗う時に事件が起こった。
別に山賊に襲われたわけではない。
「魔法でお湯を出すからその間に洗うニャ~」
魔法でお湯を出すだと?
モズラと顔を合わせて、まさか……。
本当に手からお湯が出ている……。両手を合わせた隙間から……、ホースを斜めに向けて水を出すみたいなゆるい放物線を描いている……。
「モズラ……」
何を言うのかわかったようで、すぐに顔を横に振られた。
だろうな……。俺もお湯が出せる魔法など……。1つしか想像できないが、1人では再現できないはずだ……。
「リズ、どうやってお湯を出しているんだ」
「え? 右手で火の魔法、左手で水の魔法を同時に使って、合わせるニャ~」
俺もそれしかないとは思っていたが、同時に魔法を使うことがどれほどすごいことなのかを理解していないな……。
ゲーム時代は連続で出せても、同時には出せなかった……。
「モズラ、可能なのか」
首を横に振られた。 そりゃそうだよな……。
「リズ、一旦パーティから外れて同じことをやってみてくれ」
リズがパーティから外れる。
「うーん。制御が難しくてできないニャ」
リズをパーティに加える。
称号の恩恵は魔法の制御にも影響を与えているようだ。 まだまだ気が付いていない恩恵がありそうだな……。
「リズ、右手で火の魔法、左手で風の魔法を合わせて、火の竜巻を作ることはできるか」
「風魔法はLv1だからできるかわからないニャ~」
火と風が同じところに向かっているだけで、水の時のように融合されたようには見えない。
「うまくいかなかったニャ、風魔法のLvを上げておくニャ」
ならリズの水魔法はLv2になっていたのか……。
どうやって水魔法のLvを上げたのかを聞いたら、ミントの花の水やりで遊んでいたそうだ……。
水魔法がLv2だから、水の威力を制御して蛇口の水量まで下げることができるようだ。
リズは常識が少ないのか? 他の人が無理だと思って初めからしないことを平然とやってのけるようだ……。
またリズの底知れぬ、恐ろしさを見せられた……。どこまで成長するんだ?
野営の見張りを行う順番を決めた。
俺は家長なので、野営の見張りはしなくてもいいと言われたが、1班4人で2時間半ずつなので、最初の班にリズと入ることにした。
朝方最後の野営は料理班が担当することにして、中間で1度起きなくてはいけない見張り班は寝不足になるので、今から仮眠を取る。
パンダ様もゴーレム先生も馬車で寝ている。
大サソリさんは御者の台の横で見張りをしている。
パッと見ると戦力が女の子しかいない。しばらくすると、やっぱり山賊に襲われた……。
どうやらパンダ様とゴーレム先生が馬車の周りを歩くことは牽制になっていたようだ。
人数は18人か……。
山賊の顔がにやけているのは、俺の家族を値踏みしたからだろうな……。
パンダ様もゴーレム先生も異変に気が付いて馬車の中で合図を待っている。
「死にたくなかったら、大人しく捕まってもらおうか」
山賊の頭なのか、大声で警告してくる。他の山賊たちも笑っている。テンプレ過ぎてどうしよう……。
今回は鉱山に向かっているので、捕まえても都市まで輸送して奴隷商に売るわけにもいかない。売るのは諦めよう……。
「俺はこの馬車の代表なんだが、穏便に済ませたい。ここを通してもらえると助かるんだが……」
山賊がゲスな笑い方をしている。
「女を置いていけば、お前だけは見逃してやる」
俺はため息を1つする。
「交渉決裂か……。まぁ仕方ないか。別に通してくれるとは思っていなかったし。みんな無理はするな、襲われた以上殺しても仕方ないが、可能なら脅すだけにしろ」
ギラーフがせっかく寝ていたのに、邪魔をされた鬱憤をぶつけるように飛び出していった。
こういう時は本当に矢面に立ってくれるな。
「エヴァールボは馬車と戦えない者の護衛を頼む」
ナイラ(氷狼)の戦闘スタイルは奇抜だ。普段武器を持ち歩いていないのだが、氷の剣を作り出して戦うことができるそうだ。レベルが上がると大きさも武器の硬さも強化することができるようで、今は氷のナイフを投げている。
狼で戦うんじゃないんだな……。氷で武器を作って戦う狼の種族って意味か……。
リアラ(氷結術師)は相手の武器を凍らせて、刃物の威力をそぐようだ。
持ち手のところを凍らされたやつとか……、凍傷確定だな……。
まだ2人ともレベルが低いから後方支援に徹している。
フローラ(神聖術師)は補助を中心に行っている。今後前線の攻略の時に補助を使ってもらえると安全度が増しそうだ。本当は食材調達班のためにレベルを上げたのだが……。
リズは火魔法で牽制をするようだ。 殺傷能力が高いから気をつけてくれよ……?
ビエリアルは「することはなさそうですね」とすでに興味を失っている。
「そろそろ襲ったことを後悔させるためにパンダ様、ゴーレム先生、大サソリさん、一気に行っちゃって下さい」
俺の号令がかかると戦力がさらに追加される。3大スターは姿を見せるだけで威圧感がある。
「退却だ。にげろ」
「追わなくてもいい、また襲ってきたら、今度は容赦しないからな」
前半は家族に、後半は山賊に向けて叫んだ。
「みんなよくやってくれた。誰も殺さずに、被害なく対処できて良かった。んじゃ馬車を進めるから、また寝ててくれ」
また襲われても面倒なので、大サソリさんを大きい状態で馬車の外を歩かせる。
次に襲われる可能性があるのは、夕食と夜の見張りの時か……?
野営地にギラーフが用意したテントを張っていく。
俺は野営用のセットを頼むのをすっかり忘れていたが、ギラーフが鉱山までの道を調べた結果、必ず野営が必要なので、用意したようだ。本当に気が利く。
俺はリズがお湯を出せることを知ったので、簡易シャワー室を作ることにした。
石材と木の板でブラインドを作る、あとはリズが上から魔法を使えるように足場を用意するだけだ。
シャワー室が完成した頃、夕食が出来上がった。
ビエリアルだけはみんなが食べ終わってから食べ始めた。本当は半々でもいい気がするが……。
食事は何事もなく終わり、食器を洗うお湯を作ってから、みんなで順番にシャワーを浴びる。
みんなただ体を拭くだけのつもりだったので、シャワーは大好評だった。
リズは途中で水魔法がLv3になり、水をミストにできるようになった。今度はミストサウナでもするか? どんどん水魔法が生活魔法扱いになっていく……。
ちなみに、リズがどうやってシャワーを浴びたかと言うと……。
頭の上に両手を合わせてお湯を頭からかぶり、両手が塞がって洗えないので、俺が洗ってあげた。
いつも一緒にお風呂に入っているのに、両手を上にあげた格好というのは……。
体を休めるのも仕事のうちなので、いつでも戦闘はできるように準備はしつつ、見張り以外はさっさと寝る。
野営の主なテイムモンスターは1番オーガ君、オーガさん。2番目がゴーレム先生。3番目が大サソリさん。最後がパンダ様。
見張りの間もリズは風魔法のLvを上げていた。することがあるやつは本当に羨ましい。
俺はリズの風魔法を見守っていた。スカートめくりでもしてくれるなら退屈をしのげるのに……。つまらん……。
リズは俺が見ているだけで、魔法の練習が楽しそうだ。
お昼前から風魔法を使っていたので、早速Lvが2になった。
「自分の周りに風を起こして風の壁を作れないのか」
俺がアドバイスをくれたと思ったのか、リズが挑戦する。
次の瞬間豪快にスカートがめくれる。そりゃ風を起こしたんだからな……。眼福眼福。
リズはスカートがめくれたのがよっぽど恥ずかしかったのか、涙目でネコパンチをしてくる。
「ご主人様は意地悪ニャ~」
「リズの下着姿は色っぽかったぞ」
「う~、いつもそうやって、はぐらかすニャ。ズルいニャ」
「おいで。お詫びに頭をなでさせてくれ」
「う~、なでさせてあげるニャ。真心を込めてなでるニャ」
リズは褒められると怒れないようだ。あまりストレスを与えても可哀想なので優しくなでる。
「いつもより優しいニャ~。もう少し続けてくれたら、さっきのは許すニャ~」
リズはふんわりとなでられる方が好きなのか。
見張り役なのに、寝そうだ……。
「リズ、見張りの最中だから、そろそろいいか」
「そうだったニャ。気持ち良くてすっかり忘れていたニャ」
どうやら、野営中でもリラックスができるリズであった。
何事もなく交代の時間を迎えて俺たちは一緒に休むことにした。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 18
HP 220/220(+10)
MP 0/0(+10)
SP 390/390(+10)
筋力 5(+12)
体力 5(+3)
素早さ 5(+6)
かしこさ 5(+3)
モンスターの友 110(+5)
残りポイント 0
――――――――――
クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
――――――――――
称号(耐性、能力上昇、地形効果の順)
・スライムの友達(衝撃耐性(小))
・フェアリーの友(火耐性(小))
・魔法使いの友(魔法耐性上昇(小))
・マンドレイクの友(幻惑耐性)
・キノコの友(毒耐性(小))
・オークの友(筋力上昇(小))
・オーガの友(筋力上昇(中))
・ゴブリンの友(パーティ戦能力上昇(小))
・エスカルゴの友(雨天能力上昇(小))
・ハムスターの友(夜間能力上昇(小))
・大サソリの友(砂漠能力上昇(中))
取得順
・ネコ族の友(暗闇耐性)
・リス族の友(素早さ上昇)
・ヒツジ族の友(睡眠耐性)
・レッサーパンダ族の友(食肉目)
・ハリネズミ族の友(危険感知)
・人間の友(身体能力上昇(小))
・ユニコーンの友(神聖耐性上昇(中))
・オオカミの友(個人戦能力上昇(中))
・オオカミの友達(パーティ戦能力上昇(中))
――――――――――
装備
・鋼鉄のレイピア
・丸鉄の盾
・軽装の鎧
――――――――――
所持金
・2万9850モール
――――――――――
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/19)
武器:鉄竹(攻撃力+20)
・ジャイアントサソリ(♀/良い/14)
武器:なし
・オーガ(♂/普通/16)
武器:鋼の斧(攻撃力+35)
――――――――――
――――――――――
奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/魔法使い/15)
・魔導の杖/なし/軽装の鎧/お守りのリボン
・ゴーレム(♂/普通/16)
武器:なし
・ブルースライム(♀/良い/17)
武器:鉄のキバ(攻撃力+15)
従属:ミニスライム(子供)×8匹
・ギラーフ(リス族(シマリス種)/♀/普通/盗賊/13)
・忍刀/丸鉄の盾/軽装の鎧/なし
・モズラ(ヒツジ族(サウスダウン種)/♀/普通/錬金術師/13)
・自動装填ハンドボウ(SP使用)/なし/軽装の鎧/なし
・ビエリアル(レッサーパンダ族(レッサーパンダ種)/♀/普通/聖職者/14)
・聖導の杖/なし/軽装の鎧/なし
・オーガ(♀/普通/12)
武器:金棒(攻撃力+12)
・ハムスター(♂/普通/11)
武器:なし
・エヴァールボ(ハリネズミ族(パイド種)/♀/大器晩成/鍛冶師(ハリネズミ)/1(1))
・鋼の剣/鋼の盾/鉄の鎧/なし
――――――――――
――――――――――
同居人 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・ミーナ(人間/女/良い/村人/4)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・エリス(人間/女/普通/村人/4)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・アンジェ(人間/女/普通/料理人/1)
・鉄の包丁/丸鉄の盾/軽装の鎧/なし
・魔法使い(土)(♀/普通/5)
武器:なし
・フローラ(ユニコーン族/♀/普通/神聖術師(ユニコーン)/1(8))
・ステッキ/なし/軽装の鎧/なし
・キーリア(サル族(リスザル種)/♀/普通/村人/4)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・フェアリー(♀/普通/5)
武器:なし
・リアラ(オオカミ族(ツンドラオオカミ種)/♀/普通/氷結術師(ツンドラオオカミ)/1(8))
・ステッキ/なし/軽装の鎧/なし
・ナイラ(オオカミ族(ツンドラオオカミ種)/♀/普通/氷狼(ツンドラオオカミ)/1(8))
・なし/丸鉄の盾/軽装の鎧/なし
・ウーリー(ウサギ族(ホーランド・ロップ種)/♀/普通/村人/1)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・コーシェル(タヌキ族(エゾタヌキ種)/♀/普通/村人/1)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
――――――――――




