10階層
正規ルートはわからないので、9階層にたどり着く前に10回ぐらい団体戦をこなさないといけないのはどうにかならないものか……。
お金も経験値も稼げるし、一石二鳥ではあるのだが……。
MP回復薬を常備しているリズの魔法はとどまるところを知らない。
基本的に魔法が撃ち放題だ。
今まではMPの総量の関係で持ち場以外の敵に魔法を使うことはなかったが、後方でMP回復薬を大量に持ったMPタンクが控えていれば話は変わってくる。
戦闘時間を圧倒的に短くした戦いは、薬代を跳ね上げた。
今は魔法をたくさん撃って、魔法のLvを上げることを優先している。
全体でみれば、きちんと黒字にはなっているはずだ。
10階層の階段を見つけるまでに、それぞれの魔法Lvがアップする。
リズ:火魔法Lv3→4。
モズラ:錬金術Lv2→3、火炎瓶Lv1→2。
ビエリアル:回復魔法Lv3→4。
ビエリアル情報ではLv3→4は350回だそうだ。
どうも100回ずつ増えているようだ。
ステータスに表示されないのが、とてもやっかいだ。
ステータス表示も150回使えば、性能がアップすればいいのに……。
性能をアップするにはまず〈人間の友〉が必要だろうな……。欲しくなってきた。ステータスも上がるだろうし……。
午前中いっぱいを使ったので、お昼の休憩を入れた。
休憩明けで10階層に突入することにする。
リズの顔は、私はかまってくれなくても、ご主人様人形がいるから関係ないですよって顔をしている。
しかし、リズのしっぽは今日も「かまってかまって」とアピールしてくる。
あのしっぽはリズの気持ちを顕著に示しているといえよう。
「リズ、おいで」
「ご主人様は仕方ないニャ~、ここは迷宮ニャ~、緊張感がないニャ~」
リズは仕方なく、俺のところにくるのが、好きなのだ。
俺はリズが喜んできてくれるなら、ピエロになってもいい。
リズの笑顔は俺の支えだ。
休憩を終えるまでリズをなでた。
10階層の初物は「シャドー」。
影の中で姿を隠して忍び寄ってくる。
単体で動くときは床に黒丸が浮き上がっているので、どこにいるかはわかりやすい。
しかし、団体戦で隠れる場所が多いときには、話がかわってくる。
攻撃してくる時には必ず影から姿を出さないといけないので、そのタイミングなら物理攻撃が効く。モグラ叩きじゃないよ?
床を破壊できるだけの火力があれば、床に隠れているシャドーを攻撃できるのだが、迷宮内の床を破壊するのは困難だ。
あとは、熱で床ごと焼き払う……。力技にも等しい。
[スネーク]、[食虫植物]、[ハムスター]、[シャドー]
スネークはオーガ君、食虫植物はとりあえず放置、ハムスターはゴーレム先生、シャドーはリズとモズラ。
名前があがっていないメンバーはいつも通り自由行動だ。
「リズ、危ない!」
リズは俺の声で、足元の丸い影にすぐに気が付いたが、足元の影から伸びる攻撃を避けることはできなかった。
シャドーの攻撃は見事リズの左胸にクリーンヒットした。
〈皮の服〉を着ていたが、簡単に突き破りそのままリズの左胸から鮮血が噴出す。
上半身に攻撃を受けたため後方に飛ばされたリズはそのまま動かない。
俺はリズから出た血を見て、頭に血が上っていたが、ビエリアルは急いでリズに回復魔法をかけていた。
「おおおおおおおおおおおおおお」
声を出して細剣をシャドーに振り下ろした。 シャドーが霧散したのを確認すると細剣を投げ捨ててリズのところに走る。
今もビエリアルは回復魔法を連続でかけている。
彼女の回復魔法は先ほど初級Lv4になった、通常の初級魔法よりも性能が上がっているはずだが、連続で魔法をかけるほど状況が悪いらしい……。
「これは痛いニャ~、死んじゃうニャ~、もうダメニャ~」
あれ? なんか元気じゃね?
「それが……、傷口は簡単に塞がったんですが、傷跡が残ってしまって……。回復魔法を連続でかけていると段々跡が小さくなっていくようなので、もう少しお待ち下さい」
「はぁ……」
とりあえず、リズは死なずにすんだようだ……。 心臓が止まるかと思った……。
あれだけ血が出たのにどうやって生き延びたのか……。
1:リズはいつもご主人様人形を胸にしまっていた。
2:シャドーの攻撃はたまたまご主人様人形に当たっていた。血が出たのは人形の範囲外の部分を、シャドーの攻撃で皮膚が斬られたため。
3:ご主人様人形は忍者のように鎖帷子を装備していた。
4:回復魔法を使えるビエリアルがすぐそばにいたので、傷口はすぐに塞がった。
っというのが、現在確認できている理由なのだが……。
やっぱりご主人様人形の存在が大きい。
そもそもこの人形は少女たちと出会ったために、リズが寂しくて作った物なのだ……。
出会っていなければ、存在していない人形である、つまりリズは今日死んでいたことになる。
そしてリズの第一声はご主人様人形が鎖帷子を残し、左右に斬られていたのを嘆いて発せられたものだった。
自分の傷よりもご主人様人形が大事なのか……?
※リズは普段ご主人様人形を自分側に向けて持ち歩いているようで、ご主人様人形は背中側から斬られたことになる。
装備も服も破れて左胸が露になっていても、ご主人様人形に向けて涙を流している。
「今度は背中にも鎖帷子を付けてあげるニャ~」
そこじゃねーし!
回復魔法を終えたビエリアルが攻撃の衝撃で肋骨が折れている可能性が高い旨を教えてくれた。
残りのシャドーはギラーフが床から出てきたところを、素早さを活かして倒したようだ。
説明されたが、よくそんな離れ業ができるなっと感心した。
そして今日の探索は10階層で、わずか1戦で終了することになった……。
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ドロップアイテム ※( )の中は売却価格
・シャドー→シャドーの核(120モール)
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リズの装備している〈皮の服〉はもう使えないので、迷宮に捨てた。モンスターが宝物にするだろう……。
かわりに俺が装備している〈皮の服〉を着せて胸を隠してやる。
家に帰るまでだからこれでいいだろう。
本当ならスカートのリズをおんぶするのは、はばかられるが、怪我をして苦しそうだからみんなで周りを隠せば平気だろう……。
「これからはこの〈皮の服〉を装備するニャ~、におい付きニャ~」
変態になっていた……。
今はリズが生きていたことを実感できる一言だったので、逆にうれしくなった。
おんぶしたら、やっぱり胸が痛いらしく、あまり動かさないように背中に張り付いてきた。
今回は〈皮の服〉を装備しているので、危険のないおんぶだ。
ギラーフに〈脱出アイテム〉を使ってもらい家に帰ることにした。
ギラーフとモズラは食材と錬金術の素材を買いに行った。 今後もMP回復水は大量生産、大量消費だろう。
ビエリアルは帰宅中もMP回復水を飲みながらスキル上げに勤しむ……。 リズの怪我がよくなるから助かるけど……。 なんだかマイペースに見える……。
リズは血を失って少し体力が減ったのか、背中で寝ている。
2、3日は骨折の治療で迷宮には行けないかもしれないな……。
それよりも今回の件で〈皮の服〉を完全に卒業することを決意した。
みんなで夕食をとっていた時。
「リズの骨折が治るまで迷宮探索を中断しよう。その間に武器と防具の更新をする」
「「「「わかりました」」」」
リズは申し訳なさそうな顔になっていた。
「リズが生きていてくれて俺は嬉しかったのに、リズがそんな顔をしていると俺まで悲しくなるぞ」
リズはやっと自分が笑顔じゃないことに気が付いたようだ。
「それと家の住み込みのお手伝いさんを雇おうと思う。今は迷宮の手伝いをさせているので、負担を減らすためだ」
「私たちなら大丈夫ですが……」
他の少女たちも頷いている。
「今の君たちは俺の奴隷だ。もちろん俺のために働いてもらうが、優先順位を間違えないでくれ。君たちはもう力のなかった花売りの少女じゃないんだ。そしてこれから雇うのはあの頃の君たちと同じで、食べるために苦労している子たちだ」
少女たちが顔を見合わせる。
「その日食べるために苦労している子をなくしてやりたいが、さすがに俺には無理だ。でも数人なら仕事を与えて働いてくれた報酬に食べ物をあげることができる」
少女たちが頷いた。
「君たちには明日貧民街に行って、この家で働くことのできそうな人材を探してきてもらいたい」
「わかりました」
代表してギラーフが答えた。
ギラーフにだけ「かわいい子でお願い」と伝えると、ニッコリ微笑んで。
「大丈夫です。かわいい女の子を見つけて、ご主人様を崇拝するように指導しますよ」
最後にウィンク付きで返された。
相変わらず空気の読める子は違う。たまにある爆弾が全てを帳消しにするのだが……。
新しい同居人が来る前に少女たちの部屋割りを行った。
今さら4人が離れ離れの部屋を使いたくなかったらしく、1部屋を4人で使うことになった。
部屋はたくさん余っているのだが……、本人たちの希望だから仕方ない。
今日はリズのお風呂は見送って体を拭いてやる。
骨折でもお風呂は大丈夫なのか、わからないからだ……。
やはり胸を拭くと痛いそうだった。数日の辛抱だ。
リズは食事の時と体を拭く時以外は部屋にいた。
何をしていたかと言うと……。
ご主人様人形の2代目を本気で作っていた。
「今度こそシャドーの攻撃を防いでみせるニャ~」
リズさん、目的がずれていますよ?
「今回はこのご主人様の服を使って本格的に作るニャ~」
何か最近服がなくなると思ったら、犯人がこんな近くにいた……。
リズ以外はこんな変態行為に走らないだろうが……。
「でももったいなくて、切られないニャ~」
「リズ」
ビクッっとしてこちらを見る。
「い、いつからいたニャ」
「攻撃を防ぐとか言ってたあたりから……」
「結構前からいたニャ~」
頭をかかえるために、腕を上げたので、左胸が痛んで苦しむ……。
自業自得だ……。
「骨折しているのに、無理しないで体を休めような」
「でもご主人様人形が……」
「俺よりも人形が大事か」
「そ、そんなことないニャ」
「んじゃ人形作りは中断して一緒に寝るぞ」
「はいニャ~」
スリスリ動くと痛いらしく今日は静かだ。
俺は頭をなでてリズをリラックスさせてやる。
生きていてくれて、本当にありがとう。これからもよろしくな。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 17
HP 210/210
MP 0/0
SP 370/370
筋力 5(+6)
体力 5
素早さ 5(+3)
かしこさ 5
モンスターの友 105
残りポイント 0
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号(耐性、能力上昇、地形効果の順)
・スライムの友(衝撃耐性(小))
・マンドレイクの友(幻惑耐性)
・オーガの友(筋力上昇(中))
・エスカルゴの友(雨天能力上昇(小))
・ハムスターの友(夜間能力上昇(小))
取得順
・ネコ族の友(暗闇耐性)
・リス族の友(素早さ上昇)
・ヒツジ族の友(睡眠耐性)
・レッサーパンダ族の友(食肉目)
・ハリネズミ族の友(危険感知)
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装備
・細剣
・木の盾
・皮の服
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所持金
・26万6407モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/18)
武器:鉄竹(攻撃力+20)
・ブルースライム(♀/良い/16)
武器:鉄のキバ(攻撃力+15)
従属:ミニスライム(子供)×8匹
・オーガ(♂/普通/15)
武器:鋼の斧(攻撃力+35)
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奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/魔法使い/14)
・魔導の杖/なし/皮の服/お守りのリボン
・ゴーレム(♂/普通/13)
武器:なし
・ギラーフ(リス族(シマリス種)/♀/普通/盗賊/9)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・モズラ(ヒツジ族(サウスダウン種)/♀/普通/錬金術師/9)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・ビエリアル(レッサーパンダ族(レッサーパンダ種)/♀/普通/聖職者/10)
・聖導の杖/なし/皮の服/なし
・オーガ(♀/普通/8)
武器:金棒(攻撃力+12)
・ハムスター(♂/普通/7)
武器:なし
・エヴァールボ(ハリネズミ族(パイド種)/♀/大器晩成/村人/6)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
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