開花
リズの支えがなければ、俺は再起不能になっていたかもしれない。
貴族御一行の死んだ護衛たちは個人的にあいさつをしたわけじゃないが、貴族の方は同行させてもらう時にあいさつをしている。
謝礼金の件ではあまり関わりたくなくて、邪険にしたかもしれないが、この世界の数少ない顔見知りの貴族だった。
それが昨日、迷宮で死んだ。
今の俺にはリズがいる、パンダ様がいる、ゴーレム先生、オーガ君、スライム軍団、新しい家族の少女たち。
誰が死んでも俺は立ち直れないかもしれない……。
目を覚ますとリズが笑顔で顔を拭いてくれた。
どうやら俺は泣いていたようだ……。
「やっぱり人の死はおつらいですかニャ、貧しかった私はたくさんの命が散っていくところを見てきたニャ」
リズは昔を思い出したように語ってくれた。
「故人のためには黙祷して、生きているものは、その人の分まで生きればいいニャ~。立ち止まっているのは、故人に対して失礼ニャ~。」
リズの言葉が俺の心に染み渡る。
「よし、悲しむのは終わりだ。まずは飯にしよう」
「はいニャ~」
リズは腕に抱きついてスリスリしてきた。
俺はリズの体温がとても愛おしく思えた。
昨日は時間がなかったが、朝食の時にみんなのレベルを確認した。
・ギラーフ(村人/4) ・モズラ(村人/4) ・ビエリアル(村人/4) ・エヴァールボ(村人/2)
エヴァールボのレベルだけ低い……。
種族や素質でレベルの上がり方が違うのはわかるが、それにしてもあれだけレベリングをして、レベル2?
俺は確かスライム10匹ぐらいでレベル2になっていたぞ?
大器晩成は伊達じゃないな……。
ギラーフはレベルが上がって体が軽くなったと言っていた。
素早さ特化のリス族だからな……。
落ち込んでばかりいられないので、今日も迷宮に行こうと思う。
経験値が分散してレベリングに時間がかかるので、まだテイムモンスターは用意しない。
6階層でいつものようにオーガが最後に残るスタイルで戦いをこなしていると……。
「私たちもそろそろ実戦がしたいです。残っているオーガと闘ってきてもいいでしょうか」
ギラーフの発言だったが、残りの少女たちも頷いている。
「無理だけはするなよ」
ギラーフの戦闘は素晴らしかった。初めての実戦でも練習同様、素早さを活かしたヒットアンドアウェイをしている。
遠心力を活かして回転剣舞をしているのだろうか?
あと少し!
あと少しで……。
パンツが見えるのに……。
リズがなぜか睨んでいる? 濡れ衣だ。俺は危険がないか逐一見ていただけだぞ。
リズが頬を膨らませた。これは完全にバレている……。
「オーガ相手なら実戦でも大丈夫そうだな」
戦いが終わったようなので、声をかけてやる。
「次からはオーガが残ったら頼む。だが、絶対に無理だけはするな」
「「「「はい!」」」」
みんながドロップアイテムを拾っている間にリズがきた。
そして正面から抱きついて耳元で……。
「パンツが見たいなら、私のを見るといいニャ~」
少女たちが戦闘に燃えていた頃、リズは嫉妬に燃えていた。
コイツは自分で何を言っているのか、わかっているのか?
「夜ベッドで楽しみにしておくよ」
「はいニャ~」
上機嫌になったな……。ホント意味がわからん……。ハーレムって嫉妬の塊なのか?
その後は終始ご機嫌のリズの魔法が冴え渡った。
〈魔導の杖〉の効果もあってか、リズは魔法をたくさん打った。
そしてまた急に魔法の威力が上がった。
将来火魔法特化の派生職にでも付くのだろうか……? 存在するかは知らないが……。
「今日は魔法がいくらでも打てるニャ~」
リズさん、それは間違えなく〈魔導の杖〉の特殊効果だ。
本来〈魔導の杖〉は、中級職の〈魔導師〉の装備品なので、〈魔法使い〉が使うと性能が落ちる。
ゲーム時代はそもそも〈魔法使い〉は装備できなかったことを考えると……。リアルって便利だな……。
テンプレでは武器は異常に重たいはずなんだが……。
性能が下がってもステッキよりも上だった。さすが貴族の装備品だ。
〈魔導の杖〉の特殊効果は消費MP50%カット。リズは現在消費MP25%カットで使えている。
言わぬが花、知らぬが仏。
リズは笑顔が似合う。
実戦をさせた方が経験値の入りが良くなるのは、どこの世界でも同じなのだろうか……?
昨日よりもレベルの上がりが早い。それかパーティ内のレベル差があったから経験値が入りにくかったのか?
指示を出すのも実戦扱いで俺は今まで経験値が普通に入っていたのだろうか……?
検証はできないし、参考程度にしよう。
今日の終わりには少女たち3人が初級職になれるな……。
11階層から先にはトラップが出てくるから、ギラーフには素早さ特化の〈盗賊〉になってもらおう。
お昼頃に迷宮の部屋で昼食をとった。
俺はあまり動かないが、戦闘をするとやっぱりお腹はすく。
「お昼寝したいやつは寝てもいいぞ。ただし、迷宮の中だからいつでも戦闘できるようにはしておいてくれ」
たまに部屋にモンスターが沸くが、団体戦をこなせるメンバーのところに1体が沸いたところで、数のうちじゃない。
リズが嬉しそうに膝の上にくる。
最近構ってやれないから時間があくとすぐに甘えてくる。
「それと、おそらく今日エヴァールボ以外の3人が転職できると思う。転職後の肉体改造で明日は体がうまく動かないと思う。だから明日は休息にする」
「「「「ありがとうございます」」」」
事前にエヴァールボの〈大器晩成〉について、説明はしてある。
自分だけみんなより成長が遅れている焦りはないだろう。
がんばっている少女たちに明日はお小遣いをあげないとな……。
花売りをしていた時からは想像もできない出世だ。
少女たちの事を考えていたせいか、膝の上のリズが少々不機嫌だ。
「今日のなでる手には気持ちが入っていないニャ~」
さすがリズさん。毎日なでられているだけはある。
「明日は久しぶりに2人だけで過ごせるぞ」
ボンっと効果音がでるぐらいの勢いで顔を赤くするリズ。
お前はいったい何を想像したんだ?
食後に30分ぐらい休憩をはさんで、レベリングの再開だ。
久しぶりにテイムイベント戦闘でオーガが、戦闘で力を示した方でエスカルゴが仲間になった。
【称号:オーガの友(筋力上昇(中))を取得しました】
【称号:エスカルゴの友(雨天能力上昇(小))を取得しました】
雨天……? 迷宮の外でなら……? まさか迷宮内で雨降らないよね?
新しく仲間になったオーガが♀だったので、オーガさんと呼ぶことにする。
オーガAとかオーガBとかは呼びたくない。今さら名前を付けても覚えられない……。
・オーガ(♀/普通/4)
オーガさんはビエリアルのテイムモンスターにした。
ビエリアルは後衛になる予定だから、指示が出しやすいだろうという配慮だ。
エスカルゴはモンスター屋へ……。
売ってからリズのネバネバイベントを見てからにすれば良かったと後悔。いや、しないよ? 冗談だよ? リズさんの目が怖いよ?
順調にレベリングを終えて、少女たちを転職させる。
ギラーフ〈盗賊〉、モズラ〈錬金術師〉、ビエリアル〈聖職者〉。
みんなで迷宮を探索している以上、家のことができない……。
家によって、テイムモンスターにエサを食べさせてから、俺たちの夕食は宿屋の酒場へ行くことになった。
宿屋暮らしの頃と変わらないのだが……。
戦闘時間が短くなったおかげで、収入は増えたから赤字ではないんだが、納得はできない……。
リズは少女たちの前でも気にせずに甘えてくる。教育に悪いんじゃないだろうか?
「リズさんに飽きたら私たちもいますよ」
すでに遅かった……。
リズはビクッとして涙目でこちらを見てくる。
からかわれているのに真に受けるなよ。 みんなも本気じゃないよね? 違うよね?
リズを抱き寄せてなでてやる。
「あまりリズをからかうなよ」
「からかって言ってるわけじゃないんですけどね……、私も旦那様が好きですよ」
ギラーフの発言に他の少女も頷いている。
この数日は刺激がありすぎたか……。おそらくそれは好きなんじゃなくて、感謝しているだけだと思うぞ。
リズの頬を涙が伝う。
甘えん坊が顔を出したようだ……。
「あまり泣いていたら今日の夜は楽しめないぞ、しっかり食べて体力を付けておけ」
耳打ちしただけで、一気に涙が止まり食べ始める。素直なリズは扱いやすい。
お風呂のリズも一味違った。
体を使って洗ってくれる。
「ご主人様と一緒。一緒。ず~っと一緒♪」
さっきからこの調子だ。
赤ちゃん返りでもしちゃったかな……?
なぜか部屋では〈皮の服〉を着てパンツを見せてくる……。
見えそうで見えないのがいいんだが……。
男のロマンがわかってないぞ。
「なにかが違うニャ~、回転か!クルクル~」
……。
…………。
「リズ、もう〈皮の服〉を脱いでベッドに入るぞ」
「はいニャ」
元気がなくなってしまったか……。
「無理をしなくてもいいぞ。俺がリズを捨てることはない。だからそんな寂しそうな顔をするな。笑顔だ、笑顔」
「はいニャ~」
うれし涙を流して胸の中でスリスリしてくる。
俺はリズの頭をなでているだけで幸せなのに……。
リズが毎日一緒に寝てくれるだけで幸せなのに……。
リズ。今日もありがとう。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 17
HP 210/210
MP 0/0
SP 270/370
筋力 5(+6)
体力 5
素早さ 5
かしこさ 5
モンスターの友 105
残りポイント 0
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号
・スライムの友(衝撃耐性(小))
・マンドレイクの友(幻惑耐性)
・オーガの友(筋力上昇(中))
・エスカルゴの友(雨天能力上昇(小))
・ネコ族の友(暗闇耐性)
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装備
・細剣
・木の盾
・皮の服
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所持金
・8万5228モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/17)
武器:鉄竹(攻撃力+20)
・ブルースライム(♀/良い/14)
武器:鉄のキバ(攻撃力+15)
従属:ミニスライム(子供)×8匹
・オーガ(♂/普通/14)
武器:鋼の斧(攻撃力+35)
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奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/魔法使い/11)
・魔導の杖/なし/皮の服/お守りのリボン
・ゴーレム(♂/普通/13)
武器:なし
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同居人 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・ギラーフ(リス族(シマリス種)/♀/普通/盗賊/1)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・モズラ(ヒツジ族(サウスダウン種)/♀/普通/錬金術師/1)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
・ビエリアル(レッサーパンダ族(レッサーパンダ種)/♀/普通/聖職者/1)
・聖導の杖/なし/皮の服/なし
・オーガ(♀/普通/4) 武器:金棒(攻撃力+12)
・エヴァールボ(ハリネズミ族(パイド種)/♀/大器晩成/村人/4)
・短剣/木の盾/皮の服/なし
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