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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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迷宮都市『イルセン』

 俺たちはイルセン近辺に隠した宝箱から出て、馬車に乗り込む。俺は定位置の御者席だ。狼ちゃんが牽引しているため、仕事は少ないし、みんなに囲まれているから実は一番の安全席でもある。

「もうすぐお昼時だから、宿に着いたら軽食にしよう」

「新しい土地の食事だニャ!」

「楽しみにゃん!」

 二人が馬車の荷台ではしゃぎ始めた。

 リアラとアキリーナはしゃぎこそしないものの、顔は楽しそうだ。コーシェルは俺の隣で、刀を抱いて目を瞑っている。

「確か近くに湿地帯があるはずだから、それ系のモンスター肉があるかもな」

 リズとアイーリスが同時に微妙な顔になった。

「それってどうなのニャ?」

「どうなのにゃん?」

「さぁ……?」

 俺も内容までは知らない。


「リズの予想は外れそうだな」

「このピンクの小石かニャ?」

「あぁ。ちょっと貸してくれ」

 ポケットから取り出してカシャカシャッと振り、音を楽しんだあとに渡してきた。

 俺は小瓶の蓋を開けて、小石を手に出す。

「MPが吸われて〇になった……」

 俺はモンスターをテイムするためにSPを使うことはあってもMPは必要ない。

 MPを消費しても体のダルさなどはないようだ。リッキーはただの運動不足だな……。

「ニャ? ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、なな、や、ここ……。とーはどこニャ!」

 俺の手にある小石を数得て慌て出した。

「とー? 一個足りないのか?」

「そうニャ。絶対にとーあったニャ! 三角形を作って遊んでたから間違いないニャ!」

   ・

  ・ ・

 ・ ・ ・

・ ・ ・ ・

 こんな置き方で楽しんだわけか。宝石も並べて楽しんでいるが、何が楽しいのかは不明だ。

 でも、この置き方なら確かに一〇個必要だ。

「隠し持っていれば必ずMPが〇だろうからな。あとで犯人を探しておいてやる」

 ここにいる者の中に犯人はいない。

「お願いしますニャ!」

 こんなイタズラをするのはペコペコたちの誰かだろう……。アンジェの耳に入ったらまたあいつら叱られるな。


 一五分ほどゆっくり走ると、人の姿が見えるようになった。外門の方から人が近寄ってくる。

「迷宮都市『イルセン』へようこそ。入場料を受け取る方は言って下さいね~!」

 武器を持たない軽装な兵士の装いをした男が声をかけてきた。

「入場料を払うの間違いじゃないのかニャ?」

「一攫千金を求めた旅人に都市がお金を()()しているんですよ」

 援助?

「なんていい都市ニャ!」

「いい都市にゃん!」

「リズさん、アイーリスさん。世の中そんな都合のいい話ばかりではないですよ……」

 アキリーナが二人を諭す。俺も同感だ。絶対に裏がある。

()()()場合の利子はどの程度だ?」

「嫌だなぁ旅人さん。借りるだなんて。ちょっと色を付けてもらえればそれでいいですよ。一〇日で一〇〇〇モールが一一〇〇モールになるだけです」

「嘘付くんじゃねー! 一〇時か……」

 最後まで言い切る前に別の兵士が口を塞ぎ、首根っこを引っ張って連れていってしまった。

 例のトイチか……。払えないと親切に教えてくれた人みたいに奴隷落ちかな? 首には奴隷の印の首輪が付いていた。

「俺たちには特に必要ない」

 向こうも馬車持ちの旅人には用がないみたいだ。次のターゲット(カモ)を探しに走っていった。


 都市の入口で受付をしている衛兵とさっきの兵士っぽい服を着ていた者は完全に別のようだ。あいつらは衛兵のように見える服装をしたただの金貸し。人を騙して一攫千金を狙うグループか……。手口が悪どい。

「都市はどんな場所かニャ?」

 門をくぐったところでリズが俺とコーシェルの間から顔を出して、楽しそうに辺りを見渡す。

 俺の第一声。

「なんだこの都市()……」

 衛兵が外壁の上から市民を睨み付けている。

 それだけじゃない、路地を隈無く監視するためだろう、建物と建物の間に紐が通され、鳥籠に入ったスライムがそこに吊るされていた。

 モンスター枠を一つ使うとはいえ、戦闘面以外ではコストパフォーマンスが最高の種だ。俺も荷物運びやドロップ拾いでよくお世話になった。

 それにしてもお祭りの提灯(ちょうちん)とは違い初めて見る光景に異様な気配しか感じない。リズは目をパチパチ瞬きさせるだけで、言葉が出ない。

「〈毒針〉への警戒でしょう。ですが、ここまでヒドイとは……」

「おそらくそうだろうな……」

 周りを疑って、疑心暗鬼になっている気がする。これでは余計に拍車をかけているとしか思えない。

 これも何かの計略か?

 カルビン……。あんたの目指した理想郷はこんなにもギスギスした土地なのか?

「とにかく宿へ行こう。こう見られていては何もできない」


 俺は馬車を操縦して、宿屋へ向かう。受付の衛兵の話では獣に分類される狼ちゃんを預かれる宿屋は二ヶ所だけ、一番近いのは外門に沿って右回りに進んだ先にあるらしい。サイズを変更すれば手乗りにできるのに、馬車があると隠せないのが難点だ。

 さすが迷宮都市。道幅は広くきちんと整備されている。メインストリートから離れてもそれは変わらない。

 しかし、道行く人は狼ちゃんを見るなり怪訝そうな顔になり敬遠しているのがよくわかる。

 うちの子、病気持ってないですよ……。

「御主人様、あっちに狸が布団に寝ている看板が見えるニャ!」

『右』とか『左』とか言わない辺りがリズだな。早く教えないと、咄嗟の指示で痛い目に遭いそうだ。


 宿の前に馬車を停めると、建物の中から狸耳のオッサンが出てきた。狸だからコーシェルと同じ種族か……。

「おー。これは珍しい。狼じゃねーか。フサフサで毛並みもいいな。俺好みだ。いくらなら売ってくれる? って冗談だよ。後ろのお嬢さんの目が怖いぞ。あれだ、馬車は裏に回してくれ」

 リアラが本気の怒りを込めた視線を送ったために、オッサンがたじろいだ。オッサンが気安く狼ちゃんに触れたのも良くない。

「コーシェル、馬車を頼む。俺は受付を済ませてくる」

「わかりました」

 俺とリズとアイーリスが先に下車。

 リアラはオッサンに()()するために馬車に残った。お目付け役はアキリーナだ。暴走したら止めてくれるだろう。オッサンの氷付けは見たくないぞ。


 宿屋に入ると受付に狸耳の御婦人が立っていた。夫婦で経営してるのかな? 狸が営んでいるから、獣を預かれるって事なのか?

「いらっしゃい。何人だい?」

「六人ですが、空き部屋はありますか?」

「ちょっと待ってね。うーんと部屋は離れちゃうけどいいかい?」

「構いません」

 どうせ安全面も考えて宝箱の中で生活だ。

「んじゃ二階と三階だよ。変な物は持ち込まないでくれよ。最近は衛兵のチェックが厳しいんでね」

「はい。都市に入ってビックリしました」

「今日、着いたのかい?」

「そうです。出来れば軽く何かを食べたいんですが……」

「六人だったね。確か朝食の残りが少しあったはずだよ。温め直しておくから二〇分後にそっちの食堂においで」

 入口から右手が食堂らしい。

「ありがとうございます」

 俺は宿の入口に戻ってコーシェルたちを待つ。

「まったく……。宿代や食事代を聞かないなんて、どこのお坊ちゃんだろうね……。部屋割りを失敗しちゃったかね……」


 寝泊まりするには丁度いいサイズ。ベッドは三つあるから、三人ずつの部屋割りだ。

 俺たちは部屋に荷物(宝箱)を置いて、食堂に移動する。大箱君は小さくして持ち運べるので持ってきた。

 二〇分後と言われたが、もっと早く準備が終わっていたようだ。

 俺たちが席に着くと、六人分の料理がテーブルに配られる。そして二人の娘さんらしき若い女性店員が言う。

「それではこれから毒味致します」

「毒味?」

「あら? お客様はこの都市は初めてですか?」

「あぁ、初めてだ」

「〈毒針〉の事件以来、宿の食事であろうと毒味が義務付けられています。もちろん私共は毒など入れていませんので、安心して食べて頂けますが、都市全体がピリピリしているため、屋台での食事はされませぬように……」

「わかった。覚えておく」

 俺たちの楽しみの一つ、露店巡りはできそうもない。


 説明を終えると店員は各皿から少量ずつ小皿に取り分けた。手慣れている。それもそうか、これが仕事の一部になっているのだから……。

 俺たちから見えるようにそれぞれを口に入れて無害である事を証明した。

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

 綺麗なお辞儀をして中へ引っ込んでいく。

「……食べようか」

「そうですね」

「お、お姫様になった気分ニャ!」

「お姫様にゃん!」

 同じテーブルに犬の国の姫がいるのは御愛嬌だ。アキリーナはクスクス笑っている。

「この料理の説明を聞けば良かったな」

 ソースチャーハンと言われればそれまでだ。ご飯と卵、よくわからない肉の上にべっとりあんかけソースがかかっている。

 何でもかんでも味付けをソースにするのはやめて欲しい。青田がうまい食事をずっと食べていなかったのも頷ける。

 食べてわかった。この地域は甘辛ソースだ。


「自分達だけ食事とはズルいですね」

「町の外に宝箱を隠しておいたから順番に町に進入していいぞ。宿は……」

「わかりました。みんなに伝えておきます」

 最後まで聞かずに大箱君を閉めやがった。食事の事になるとアンジェは周りが見えなくなるな……。

 移動手段がペコペコ隊だから俺たちとは泊まれる宿が別だろう。




 第一回『教えてモズラ様』

「私のコーナーが取られたニャ!」

「うるさい。第五章から待たせてたんだ。大人しく部屋から出ていろ!」

 俺はリズを摘まみ出す。

 これで邪魔者がいなくなったな。

「モズラ、聞きたい事があるんだが……」

「なんでしょうか?」

 俺がモズラにこの世界の常識を聞く時は、二人っきりになるので、モズラは嬉しそうだ。


「『迷宮都市』、『炭鉱』、『国』って、名前の前に付くけど、違いはなんだ?」

「どこから説明しましょうか……」

 珍しくモズラが悩んだ。モズラ様でも難問です!


「『迷宮都市』の迷宮内では探索をするために必要な『スライムのかけら(回復アイテムの素材)』、『フェアリーの羽(脱出アイテムの素材)』、『食べ物(食糧)』が低階層でドロップします」

 なるほど……。素材が現地調達できるから、人が集まり、発展しやすいのか……。

「『炭鉱』では鉱石がドロップします。『都市』や『町』は規模を表し、必ずしも近場に迷宮があるとは限りません」

 はじまりの町には迷宮がなかったな。俺が知らなかっただけで、明確な違いがあったのか……。

「ここからは絶対ではないですが『国』と呼ばれるところでは住民の八割以上が同じ種族であるケースが非常に高いです」

 さすがに他種族が統治している国に長居はしたくはないよな……。


 以上。第一回『教えてモズラ様』でした。

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