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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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リッキー対ペコペコ

 マタタビ襲撃事件から三日。

 今日の朝型には俺たちの目的地である迷宮都市『イルセン』に到着する。

 全日馬車を走らせても良かったが、どう計算しても夜のうちに到着してしまい、その場合は外門が閉まっているため、どうせ『イルセン』への入場はできないとのこと。

 であるなら、門前で一夜を明かす組に紛れるよりも、少し離れたポイントで宝箱の中で快適に寝た方がいいと言う結論に達した。


 朝食を食べ終えて、一時間。食後の運動タイム。

 場所は『アスガディア』迷宮二二階層の拠点。

「リズ魔法【火の息】ニャ!」

 口の前で筒を作るように軽く右手を握って火を吹く。

 ドラゴンが火を吐くかの如く、ゴーッと炎が伸びている。

「すげぇー」

 パチパチパチパチ。

 俺は空きスペースを利用して、リズの新魔法を実戦前にチェック中。

 一緒に見ているリッキーは長椅子に座って、どこか不機嫌そうだ。


 そして、とうとう長椅子の裏にあるワラに寝転がっている物体を指差して言ってきた。

「最近その『みならい』ペコペコが毎日のように遊びに来るんだが、そいつって戦闘で使えないのか?」

 三角コーンに『休憩中です』の貼り紙。すぐ横にはタイマー代わりの砂時計がひっくり返って半分ほど落ちていた。あれは確か三〇分計だ。

 砂時計は宝箱で全員と連絡が取れない今みたいな状況の中、『三〇分後に二一階層の入口に集合』と決めて各自手分けして食材調達をする時に重宝される。


 リッキーの発言に寝ていたペコペコはボンッと頭を沸騰させてバタバタ羽ばたかせて暴れ出した。ウーリーの通訳がなくても怒っているのがわかる。

 何枚か床に落ちた羽はアイーリスが駆け寄り回収した。目敏い……。

「結構強いぞ。勝負してみるか? リッキー(後衛)ペコペコ(前衛)じゃ戦いにならないかもしれないが……」

 俺の言葉にペコペコが頷いて賛成した。

「相手になるぜ。丁度運動がしたかったんだ」

 リッキーはテーブルの上に置いてあった杖を手にして立ち上がる。

 体を捻って準備運動を開始した。

 ペコペコの方は毎朝戦闘をしてから空いた時間を利用して長椅子の陰にワラを敷いて寝ていただけだ。すでに体は解れていたが、アキレス腱だけは念入りに伸ばしている。お前の足にその腱あるのか……?


「ルールは簡単。ペコペコが五分間逃げ延びられれば勝ちとする」

 魔力を練るのに、二〇秒もかけていたらそれだけで、試合が終わってしまう。

「後悔すんなよ!」

 両者が三〇メートル離れた位置で向かい合って、対峙する。

 新魔法を披露していたリズが家族に情報を流したために、ぞろぞろとギャラリーが集まってきた。

「何ですか、この騒ぎは……? ケンカですかね?」

「一応は試合だが、リッキーがペコペコの実力を知りたいらしい」

「そう……。では、負けた方はご飯抜きです。気合い入れてどうぞ」

 アンジェが追加ルールを設定する。

 攻撃できないペコペコが羽ばたかせて抗議。

 抜け落ちた羽は……。

「妖精魔法【超弱小の向かい風】にゃん!」

 妖精がペコペコの羽の裏側に回って、フーフーッと息を吹き掛けて移動させている。もういっその事、持ち上げて運んで来いよ!


「そうですか。迷宮の一部屋では広すぎるから壁を作って欲しいんですね?」

 ペコペコは首を振って猛抗議を開始しようとして、すぐに諦めた。今のアンジェに抗議をしても、さらに悪い方へ進む予感しかしない。

 リアラが氷壁で五〇メートル四方の特設リングを作る。

「ビエリアルさんがいるので、焼鳥にしても大丈夫です」

 どんどんペコペコを追い詰めるアンジェ。

「あいつテイムモンスターじゃないから死んだら、即消滅じゃないのか?」

「あら、大変。勝手に試合をする悪い子がいなくなってしまいますね……」

 やっぱり怒ってた……?


 リッキーは大会慣れしているのか、観客がいようと関係ない。

 ペコペコも見ているのが家族だけなので、こちらも関係ない。

「コイントスでもするか……」

 ノルターニ宝箱からお金を一枚取り出して投げた。

「相手は攻撃してこないんじゃ、魔法に集中できるな」

 俺がコインを高く上げすぎたのもあるんだろうが、開幕から一〇秒練り上げた火弾が飛ぶ。

 四メートル級だ。

「大会の時より強くなってないか?」

「きっとMP効率重視の〈魔導の杖〉より魔法攻撃力重視の〈ガラスのステッキ〉の方が威力が上なんだと思いますよ」

 エヴァールボが解説してくれた。

 家族で観戦すると疑問を解決してくれる奴がいていいな。

「あれ? リアラって杖をあげても良かったのか?」

「私もリズさんと同じで杖は使ったり、使わなかったりなので、大して影響はありません」

 なるほどな。


 ペコペコは一瞬火弾のサイズに驚く仕草をしたが、サイドステップからのクルクルジャンプで難なく回避。付きすぎた勢いは羽を広げて急ブレーキ。からの着地。

 足捌きもさすがだが、羽で移動速度を補っているから、なおすごい。

 あれでは至近距離から大技を繰り出さない限り絶対に当てられない。

「まさかこんな簡単に避けられるとはな……」

 野生のペコペコなら最初の一手で勝っていただろう。

 リッキーはダッシュして近寄る。

 ペコペコは右耳に羽を入れて耳掃除を始めた。

 真面目にやれ! 失礼だろ。

 元『宮廷魔導師』だぞ。

「舐めやがって!」

 ペコペコの動作は『お? でかいのが取れた。フッ』とゴミを吹き飛ばした。ように見えた。

 お前……。自分の置かれている状況をわかってないな。

 相手は魔法属性最強の火が得意なんだぞ……。


 近付いてきたリッキーから逃げるため、時計回りに移動を開始した。テクテクお散歩をしているようだ。

 誰かを乗せて旅をしていたあの頃の方が何倍も速い。

「逃がさねーよ!」

 ペコペコの移動速度に合わせて先回りするように火弾が放たれるが、威嚇射撃なのか、サイズは二メートルと少し小さい。

 ペコペコは直撃コースでもお構いなしで速度を変えずに走り続けて、クルクルジャンプからの回し蹴り。

 風を巻き起こし、火を追い返して無に返す。

「おいおい。あんなの反則だろ……」

 炭鉱の町にいた頃はできなかった、アイススケートから派生した技だ。SPを消費しているわけではないし、回るのが好きなペコペコにとって、無限に使える体術の一つ。


「ペコペコを倒せなくても、キツネの国では『宮廷魔導師』になれるんですね」

 リアラは相変わらずリッキーが嫌いなご様子。

「あのペコペコが異常なんだよ!」

 それは家族全員が知ってます。だから()()強いって言ったのに……。

 動きが速い上に遠心力を乗せた回し蹴りは二一階層でも通用する。一対一なら必ず勝つ猛者です。

 たまに言う事を聞かずに前に出てしまい、大怪我をする事はあるけど、そこはビエリアルさんが付いている。完全治癒!


「同じ性能のペコペコが全部で二〇体はいますけど……? もしかしてペコペコ隊だけでキツネの国を滅ぼせちゃいます?」

「う、嘘だろ……」

 少しでも手の内を隠したい俺たちは二一階層に移動した後に、宝箱からテイムモンスターを出している。リッキーがペコペコの正確な数を知らないのはそのせいだ。

 リアラがペコペコ部隊に集合をかける。

 全く興味がないのか、移動してくるなり、すぐに寝転がって睡眠に入った。それはそれで失礼な態度だぞ。

 せめて、応援しろよ。

「『みならい』ペコペコが負けた場合は連帯責任で全員ご飯抜きです」

 !

 みんなの頭に一斉にビックリマークが点灯。

 ハチマキを羽の中から取り出すと頭に巻いて、応援を開始する。

 お前たちアンジェに遊ばれてるな……。


『みならい』ペコペコは応援を受けて、元気が出てきた。

 加速を開始して、リング上をグルグル走り始める。

「めちゃくちゃ速いな。こんなのどうすればいいんだよ」

「降参してもいいぞ?」

「いや、何か手を考える」

「火の海にして歩ける場所をなくせばいいニャ!」

「そんなのができるのはリズだけだ」

 ペコペコたちは応援を中断して、俺の言葉に賛同。

「MPが尽きちまうが、火炎を撃つか……」

 そういえば、ここまで一〇発程度しか魔法を使ってない。

 俺はリッキーのステータスを確認する。

 MPが残りわずか。魔法のスキルLv(熟練度)が低すぎて、MPの消費が多い?

 元々の総量もリズの一〇分の一とかだ……。まぁこちらは俺の称号補正で上乗せされているから仕方がない。

「薬の使用を有りにするか?」

「今日のところは大会通りでいい。また今度リベンジする」

 すでに負けを認めているようだ。

 敗因はペコペコが強すぎたのもあるが……。

「大きい魔法ばかりを使って、トレーニング不足なのがよくわかった」

 リズやビエリアルは毎日薬をがぶ飲みしてスキルLvを上げている。そのため日々常人の何倍も苦労していた。

 これは全て、使えば威力が上がるという明確な指標があるからできる事だ。

 きっと他の人は目に見えないMP効率が良くなる一択なのだろう。


 何も手を打てぬまま、予定の五分間が終わってしまった。

「リズール……さん。あんたは毎日何回魔法を撃ってるんだ?」

「四属性それぞれ三〇〇回ずつかニャ……?」

「俺は『宮廷魔導師』になってから魔法を撃たない日が多かった。努力している奴はやっぱり伸びるんだな……」

 デュアル回復水MPの消費先が増えたかな?

 キーリアの方を向くと同じく思ったのか、苦笑いしていた。

 頑張ってくれ。縁の下の力持ち。お前がいるから俺たちは何不自由なく戦えるんだ。


 ペコペコは腰に羽を当てて勝利のお尻フリフリダンスをしている。

「行儀が悪いので、ご飯抜きです」

 ピタッと止まった。真似をして踊っていた外野のペコペコたちも同様に石化した……。

「と言うのは冗談で、元気が有り余っているなら、食材調達に向かいましょうか……」

 訂正しても、心臓が止まったように横に倒れたペコペコが三体。気絶中。

「反応を見て楽しむのはいいが、いつかペコペコたちに嫌がられるぞ?」

 すでに嫌がられているか?

「すみません。以後気を付けます」

 一斉に疑わしい目でジーッとアンジェを見つめるペコペコたち。

 アンジェがペコペコたちの方を振り向くと、サッと顔を背けた。

 コントかよ!


 休憩が没収され、食料調達に再出発したのは言うまでもない……。

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