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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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順応が早すぎる

 馬車に乗り込んで急いで出発する。

 まだ路面はリズの川魔法で水溜まりが酷いが、自然に任せればいつか乾くだろう。

 火薬をそのまま放置する事に比べれば些細なことだ。

 それよりも目の前に炎魔法を放つと爆発すると知りつつ実行に移せる精神力。考えただけで恐ろしいのに、リズってすごい子。爆弾処理班も真っ青です。


 今回は刺客に青田クラスの者が混じっていなかったから良かったが、いたら大事(おおごと)になるところだった。

 目立つという事はそれだけ危険()が増えるという事か……。

(向こう)より先を走れば、これ以上襲われる事はない。もう少しだけ進んでから休もう」

「氷狼を公開したので、夜間のためにしばらく選手交代しますか?」

 狼ちゃんにとって、一時間の走行など、まだまだ準備運動に等しい。

「きっと今が一番危険地帯だ。狼ちゃんの方が敏感に察知してくれるだろ……」

「わかりました。狼ちゃんも『任せろ』って言ってます」

 不意打ちとは言え、アイテム一つで大会優勝者を無力化できるとは思わなかった。

 弱点と言っても過言ではない。

 そのためレベルが高ければ抗えるとも限らない。

 乱戦で投入されれば守っている時間は皆無だ。


 マタタビか……。

「お酒が苦手とか言ってる場合じゃなかったニャ……」

 リズは赤ちゃんより先にダウンした。弱いにも程がある……。最低でも一分以上は耐えてくれなくちゃ話にならない。

「何かいい手を考えるニャ……」

 生物的な問題を乗り越えられるとは到底思えない。

「うーん。レベルを上げると、魔法抵抗力が上がるニャ……」

 それは〈かしこさ〉の数値が上がって魔法に対するダメージが割合減少しているだけだ。

「やりたくないけど、やっぱり体に魔力を流して免疫力を高めるしかないかニャ……。でも、風邪の時にやったら目眩を起こしたんだニャ……」

「なにそれ?」

「魔力を血流に乗せて体内を循環させるんだニャ」

 実際にリズが魔力を流すと、心臓からスタートした血は血管を通って全身を駆け巡る。

 血そのものが光っているのか、絹のような白い皮膚の表面が真っ赤に染まっていく。

 腕の付け根から、指先へ……。

 足の付け根から、足先へ……。

 末端までいった血液は、再び心臓に戻る。

「痛いニャ……」

 強すぎる魔力は時として毒へと姿を変えた。

「このままじゃダメだニャ……。もっと魔力量を絞るニャ……」

 発光して真っ赤だった体表が徐々にその赤みを和らげ、ピンク色に変わっていく――が、それでもリズの顔は苦しさで歪んでいる。

 こんな方法で本当に免疫力が高まるのか?


 リズは御者の隣から荷台に転がり移動した。

 座っている体勢よりも寝ている姿勢の方が集中できるようだ。

 そのまま循環の練習を続ける。

「あれ、大丈夫なのか?」

 額には大粒の汗。息も荒く、いつもの陽気なリズはいない。それどころか見るからに、人体に悪そうだ。

「あんなに長く続けられる人はいないと思いますが……」

 本来は長く続けられない? どういう事だ?

 短時間に免疫力を爆発させて悪い菌を吹き飛ばす?

 ステータス表示でリズを見ると、どうも『循環』ではなく、『垂れ流し』って表現が正しそうだ。

 MPが毎秒三〇ずつ減っている。ただ、今は徐々に量を絞れて毎秒一〇、毎秒五と使用量を調節できている。

 もし、最初は毎秒五〇程度だったと仮定すると、数秒間で流すMPが枯渇するのも頷ける。


 これが、あのリアラがライバル視している才能か……。

 順応が早すぎる。

「そろそろ良さそうニャ!」

 ムクッと上体を起こした。

 毎秒二でMPが減少している状態。これは一分間で回復する自然回復量よりも少ない。

「早速、さっき拾っておいてもらった『マタタビ』で検証するニャ!」

 宝箱から厳重に袋詰めされた白い粉がでてきた。土ごと採取されたのか、純粋な真っ白ではない。袋は二重どころか三重だ。

「いい匂いだニャ……」

 まだ袋の封を切っていないのに、目がトロンッとなった。

「おい!」

「ご主人様は慌てすぎだニャ……」

 すぐに寝落ちしたリズがマタタビの香りを嗅いで、寝ずに抗えている。でも、頬の紅潮は酔っている証拠か?

「もう少しだけ魔力量を増やすニャ……」

 毎秒三。この微調整がやっぱり天才的なんだろうな……。

「頭がスッキリしてきたニャ。もうマタタビには負けない体になったニャ!」

 見た目は発光しているようには見えない。暗がりではどうか知らないが、大事になる前に、弱点が克服できて良かった。


「相変わらず簡単にやってくれますね……。私が同じ方法を取ると、体温が上がってしまうため、〈氷結術師〉として致命的な欠点になりかねません……」

 冷気こそが強さの源のような人種だからな。

「冷気を強められたらリアラも抵抗力が上がりそうなのにな」

「なるほど。冷気を強める、ですか……」

 リアラは頭が固い所がある。もっと柔軟な発想ができればいいんだけど……。


 スーッと鼻で息を吸うと、静かに口から吐き出す。

 それを一〇回。

 傍目には座って深呼吸をしているだけにしか見えない。

 ただし、普段吐いていた息は白くならないのに、今吐いている息は白い。

「鼻と肺を冷却して、不純物を体内に取り込まないようにしてみました」

 説明の意味はよくわからないが、口から小さな氷塊を吐き出した。

「これが空気中に漂っていた不純物を凍らせた物です」

 猫が毛玉を吐き出す現象と同じで、体内に入り込んだ不純物を吐き出す事に成功したようだ。

「さすがリアラニャ! 魔力を消費せずにやってのけたニャ!」

 リズの言葉を聞いて、ステータスを確認すると、確かにMPが減っていない。

 本来あるべき体の機能を顕著にさせただけだ。

「狼の称号がリアラの身体能力を上げているのかもしれないな……」

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