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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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リズに宝石

 リズのミントティーフーフーが佳境を迎え、いざ尋常にゴクゴクした。

「やっと飲み干せたニャ……。やればできるものだニャ」

 フゥッとまるでマラソン大会を走りきったような達成感と共に額の汗を拭った。テーブルマナーの洗礼をクリアして満足顔のリズ。これでもう文句はないだろうと空のコップをテーブルに置く。が、目の前に()()が出現した。

「ニャ!」

 オバケでも見た驚き方をするな……。それはヤカンだぞ。

「おかわりはいりますか?」

 温め直して待機していたアンジェの嫌がらせ(優しさ)に、右手でコップに蓋をしてブルブルッとリズが首を振る。拷問のおかわりとか……。

 リズはヤカンから逃げるように、コップを右へ左へ動かす。けれども、どういうわけかアンジェにピッタリッと追随されている。

「その辺でやめてやれ」

 猫舌が必死に罪を償ったんだ。

 スッとヤカンを引いて、頭を下げる。

「はい、ごめんなさい。調子に乗りました」

 アンジェも反省したところでリッキーとの話し合いを終えた。


 聞かれたくない会話は大箱君で行う。

「俺たちと同じ宿に泊まっていない者を残し『コスモス』を出発する」

「どうしてみんなで行かないニャ……?」

「まだ他国に俺たちの家族構成は知られていないようだ。わざわざこちらから全ての手札を晒す必要はない。もしかしたら一般人に紛れて護衛を頼む場合もあるかもしれないしな……」

 顔バレしている、していないでは隠密行動の難易度が全然違う。

「なるほどニャ!」

「それに各町、各都市に宝箱を置いた方がやはり便利だ……」

「「いえーい!」」

 スオレとリオーニスの勝利のハイタッチ。

「悔しそうですね」

 エヴァールボの指摘にどう返していいかわからなかったが、最初から移動の時間短縮手段として、宝箱の存在は認めていた。

 炭鉱の町の設置理由が納得いかないだけ。

 俺も子供たちの事は心配だ。でも、それを言い出したら迷宮探索をしている後ろからずっと付いて歩かなければならない。


『迷宮化』を阻止できなかった一端は俺たちにもある。

 あの時に青田に勝てる程の戦力を保持していたら結果は変わっていたかもしれない。

 最悪の場合、炭鉱の町をかけて全面戦争に発展した可能性もあるが……。


「まずは残す宝箱を決めよう」

「私の宝箱でいいニャ!」

「俺たちの寝泊まりはどうするんだ?」

「大箱君を経由すれば……いいニャ?」

 なぜか目が泳いだ。考えなしで言ったな……。

 現在の大箱君は町毎に区切ってドロップアイテムを管理している。普段は通路の意味合いが強いけど、ネットワークの中心にあるため、どの宝箱からでもすぐにアイテムが取り出せて便利だ。食材に関してはアンジェが一括管理しているので、大箱君にはない。

「この町に置いておくという事は、出入りの際にいちいち寝室を経由する事になるぞ?」

「リッキーを移動させた時のように、壁で仕切れば問題ないニャ!」

 スペースは充分にある。なんたって三〇メートル四方以上の空間にベッドを置いているんだ。仕切りで囲っても家にいた頃より断然広い。

 しかし、地面から伸びている壁はドアのような造りは再現できないため、プライベートゾーンが覗き放題だ。

 寝ているところを覗きにくるぐらいなら、大箱君から来ても変わらないか……? 何よりそんな事を試みる馬鹿はギラーフぐらいだ……。


「リズは宝石が好きだもんな……」

「ニャ!」

 みんなが一斉に笑った。猫に小判、豚に真珠、猫族(リズ)に宝石だ。違う色の宝石を並べて色彩を楽しんでいる。

 きっとダイヤモンドもガラス玉も『透明で綺麗』だ。


 リズが手をモジモジさせて言う。

「あの……。実は迷宮探索をしていた時の記憶が全然ないんですニャ……」

 ブチギレて魔法を連発していたアレか。開幕にデカイ魔法を撃つから、リズ以外はほぼ戦っていなかった。モンスターは即死即死で、光っているモンスターがいても、聞き入れてもられず……。

 そのため、まだこの町で一体もテイムを成功させていない。

 もうあの時のリズは別人だったと思う事にした。

『破壊神リズ』、『殺戮(さつりく)の女神リズ』

「ママ怖かったにゃん……」

「ごめんなさいニャ……」

「もう過ぎた事にゃん!」

 アイーリスの胸で謝るリズをなでなでして慰める。どっちが親だ? 本当に〇歳児?


「てっきり『リズ宝箱』は犬の国にでも送られるのかと思ったが、魚よりも宝石が勝ったようだな」

 虚を衝かれてガバッとアイーリスの胸から離れた。

「待ったニャ! ()の国に置きたいニャ!」

 犬の国だ、馬鹿! 絶対に国名を間違えてはいけない。国民全員を敵に回すぞ……。

 チラッとアキリーナの方を見たが、特に怒っている様子はない。むしろ少し笑っている。

 大会中もリズの悪行を楽しんで見ていた。アキリーナは完全にリズという生物を受け入れているに違いない。

「なら、私のを置くにゃん!」

「アイーリスのはダメニャ!」

「なんでにゃん?」

「それは……」

 リズの目が『ヘルプ』を出している。

 それはな! ガラクタ採取で日々ゴミの山が出来上がっているからだ! 毎日屑籠(くずかご)と間違えているんじゃないかと思える程のゴミの増えよう。

 俺たちにアイーリスの楽しみを奪う権利はない!

 ガラクタと言っても、使える物は山ほどある。キーリアは添え木、コーシェルは布やペコペコの羽毛、スオレとリオーニスは釘や木片。っと実は意外とリサイクルでみんなが利用していた。

 それぐらい買えよ! っと言われそうだが、欲しい時に売っている店がない。

「アイーリスのは亀さんがいるから、すぐに会えないと可哀想だろ? リズはアイーリスの悲しむ姿を見たくなかったんだ」

 ポンポンッとアイーリスの頭に触れると、リズの胸に飛び込む。

「ママは優しいにゃん!」

「そ……それほどでもないニャ」

 さっきと立場が逆転した。窮地を乗り越えた安堵から表情が緩んでいる。単純な奴らだ……。


「犬の国に宝箱を置く機会があれば、その時はアキリーナのを置けばいい。ここにはリズのを置く」

「はいニャ!」

「エリスには行商の営む店を開いてカモフラージュしてもらう」

「路上ではなく、お店を構えるのですか?」

「あぁ、そうだ」

〈商人〉の夢。

 早くも目がキラキラしてる。

「あれ? 待ってください。お店を営業していると、迷宮探索ができなくなりますが……」

 いつお客様が来るのかわからない。結果として常に店番が必要となる。

「だから、カモフラージュなんだ」

 別に利益を出す必要はない。宝箱を設置する拠点に使う過程で、住人じゃない者が出入りしてても不自然にならないようにする。それが目的の一つ目。

「何を行えばいいんですか?」

「宝石の買取りだ」

「売りの間違いじゃないんですか?」

 リズのレベル上げは『アスガディア』迷宮で行われたと言っても、俺たちが二日間『コスモス』迷宮で探索をした。それだけでわりと宝石は山積みになっている。安い物は宝石ではなく、ただのガラス玉。これは窓ガラスの素材で、錬金術を行うとガラス板になる。それを利用して枠だけの窓の前で錬金して、はめ殺し窓が完成。大きい窓はガラス玉が二個、三個と増えるだけ。元は小さいビー玉なのに、不思議アイテム。

 ただし、ガラス鉱石のような強度はないため、武器には使えない。

「買いだな。売るなら別の町の方が売りやすい」

「それはそうですが……」

 エリスの視線の先には、すでにこれ以上手に入れてどうするんだって状態。

「主な目的はあくまでも情報収集だ」

 これが二つ目。

「何でもいい。とにかく情報を集めろ。そして数日経ったら今度は『イルセン』の町でも行ってもらう」

「わかりました。お姉ちゃんは酒場で踊って情報を集めて来てね?」

「旦那様のために、がんばりますよ」

「普段は別々だけど、食事は『ノルターニ宝箱』の外か大箱君でする。迷宮探索に行く時は声をかけるが、当分は繋がりがないように振る舞うぞ」

「「「はい!」」」


 カバの国の援助金で拠点を一つ購入した。

 メイン通りには空き家がないため、少し奥に入った場所だ。民家をスオレとリオーニスが二人係りでリフォームをする。住宅部分は狭くても問題ないため、ほぼお店に使えるのはありがたい。

 店の名前は『ギラーフ宝石店』

 アイーリスの名前を使っても、ギラーフはリズの娘の名を知らない。ギラーフの目的地がこの町である以上、探す手間は減るだろう。

 これが最後の三つ目。


 宝箱の回収が若干難儀だが、迷宮内の一六階層で行った。迷宮にはたくさんの人が入り乱れているのだから、入ってすぐに出てきてもいちいち見ている人はいないだろう。

 準備を終えると俺たちは五人にリアラを追加した六人で宿を出発する。移動は久しぶりの馬車で狼ちゃんが牽引。

「犬の国が『イルセン』に出発したアピールをしたいんだが、何かいい手はないか?」

 御者をしながら馬車の中に声をかけた。

 町の中は人が歩いているため、大したスピードが出せずに暇だ。

「ガラス玉でも撒きますか?」

 アキリーナさん、どんなゴミアイテムの使い方だよ!

 一つ五モールで売れる。欲しい人は拾うかもしれない。

「町が汚れそうだ」


「火炎でも撃つニャ!」

「それは捕まるか、怒られるからやめろ」

 様々な色の火炎が撃てるなら花火が上げられるな……。

「『犬の国』ですって言いふらすにゃん!」

 その子供的発想がいい。癒される。

「言いふらすのは難しいかな……」

 国の代表が宣伝しながら走っていたら品位が落ちそうだ。


「んじゃどうすれば、いいかニャ……? あ、あの出店は! 〈肉の串焼き〉が売っているニャ!」

 お金を渡すとピョンッと走っている馬車から飛び降りた。地面を蹴って超速ダッシュで、お店の最後尾に並ぶ。

 リズが走った後には突風が発生。みんな風の発生源のリズに注目を始めた。

 俺のアピールの心配は不要に終わったようだ。

 ざわつきが収まる間もなく〈肉の串焼き〉を購入したリズが戻ってくる。両手でお持ち帰り用のパックを持って馬車を追いかけてきた。

 ダッシュで馬車に近づき、一度軽く追い抜くと、ジャンプしてクルッと反転。そのまま御者席の隣に着地アンド着席。アイーリスのジャンピング正座を超えた。

 曲芸でも見た後のように、町民からは拍手が沸く。

 民衆の中には身なりのいい貴族らしき人物が驚きの表情をしているので、リズの事を知っているのだろう。

「旦那様、御者を交代しますか?」

「いやいい。どうせ狼ちゃんが勝手に判断して歩いてくれるから、不審な相手がいないか警戒しててくれ」

「わかりました」

〈肉の串焼き〉を食べながら、呑気に辺りを見渡す。残りは宝箱の中に入れて、家族に……。

「ソースの味が違うな」

 系列が違うのか?

「そうですね。甘辛いです」

 この甘辛い味付けがこの地域の味なのだろう。

 アイーリスは匂いだけで拒否した。

 俺もいつもの辛味のないソースで食べたいです。

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