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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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ヨッ!

 傷が塞がったので、今度は自害されないよう念入りにグルグル巻きで縛り上げる。

 最後はきつくするために左足で踏みつけて縄の端を思いっきり引っ張ると、男が堪らず叫び声をあげた。

「イテテテテテ……」

 芋虫の完成。五月蝿いから猿ぐつわをしておく。


「リッキー、こいつだけで尋問ってできそうか?」

 芋虫をリッキーの前に寝転がす。

「どうして俺に聞くんだよ……」

「俺の家族に汚い仕事をさせたくないから、お前がやってくれないか?」

「なんで俺がそんな仕事をしなくちゃいけないんだ……」

「お前、どうせ追われている身だろ? 俺がお前を引き取ってやるよ。その代わり……」

「俺が誰に狙われているのかわかって言っているのか?」

『俺に関わるとお前たちも危険だぞ!』というニュアンスが含まれている。

「バックにキツネの国がなくなったから、大会参加国のどこかの()に狙われているんだろ? もしくは、内情を知りすぎていて、キツネの国か?」

 町民にはこんな事はできない。できても文句を言う程度だろう。

 捕虜をチラッと見ると、ギクッとしてから目を逸らした。どうやら正解らしい。この件にはどこかの国が関わっている。全く関係ない第三者が的確に状況を分析したからこそ捕虜は気を抜いたんだ。

 死人に口無し。捕まった場合は蘇生ができない形で自害するように命令されていた。つまり、こいつらは奴隷ではない。大金で死地に送り込まれている殺し屋。拷問次第では白状させられる。

 リッキーの方を向くと俺の真意を測りかねているのか、ジッと睨み返すだけだ。


「……わかったよ! まずは人が来る前にここから移動をしたい」

「そうだな、賛成だ。ノルターニ、荷物の撤収を頼むぞ」

 俺はリッキーに答えてから、建物の上に向かって声をかけた。

「いってらっしゃいませ」

 俺たちに見えるように手だけ出して振っている。

 ついさっきまで寝ていたから寝癖でも付いているのか? この世界の住民は化粧をしないとはいえ、ケーレルは身支度に時間がかかっていた。本来ノルターニが出動できるようになるまで、同じぐらい必要なのだろう。


「移動中は目隠しをさせてくれ」

 宝箱の中を移動する。

 実は宝箱には欠点があり、中に入っている人が『ここから出たい』と思うと、吐き出されてしまう。亀が孵化してアイーリスと頭をぶつけたのはそのせいだ。

 だから目隠しで感情を操作すればいい。

 しかし、目を塞いでも、気配という物は存在するし、リッキーは遮蔽物の陰から突然現れたビエリアルにビックリしていた。リッキーも目隠し特訓はしたことがあるのかもしれない。

 念のため宝箱内を偽装する。白い台を天井まで伸ばして、簡易的な壁を作成。これで一直線の通路型の空間に早変わり。

 そのうち同じ原理で迷路を作っても面白そうだ。


 宝箱を出たところで、目隠しを外す。

 リッキーは周囲を何度も見渡して、やっと言葉を発する。

「ここ……どこだ?」

「迷宮の二二階層だ」

 リズのレベル上げのついでに『ノルターニ宝箱』を二二階層に進めた。

 まだこの階層の探索をしていないため、どんなモンスターが出るのかはわからない。

「二二……?」

 宝箱内の無音の通路よりも、全く別の場所に転移した事よりも、迷宮の部屋の構造に驚いている。

 二〇階層までとは違い部屋が広いのが特徴。部屋の中央には二一階層に戻るための下り階段。

 二一階層からの難易度を考えると、二〇階層までで時間をかけてレベル上げをした方がいい。

 きっとそうやって何年も迷宮に通った結果、中級職になった者たちにとって、二二階層とは未知の世界なのかもしれない。


 縄を握ったパンダ様が、サンタクロースのように宝箱から出てきた。

 リッキーは片眉を上げただけで、わざわざ目隠しをして隠していた事なので、何も言わない。

 縄の先には猿ぐつわに目隠しの人間てるてる坊主ならぬ、簑虫(みのむし)が付いている。

 軽々持ち上げてせっせと運び、一人ずつ氷の椅子に座らせていく。

「呆れたな。全員を蘇生させなくても良かったんじゃないのか?」

「町中に死体を転がしたままにしておく方が面倒事になるだろ?」

 あっさり残り二人も蘇生させて、ついでに輸送した。

 一人よりも二人、二人よりも三人の方が聞き出せる確率は上がるだろう。

 それぞれを近くに座らせておくと、結託しそうなので部屋の四つ角のうちの三つに分散配置した。

「そんな理由で暗殺者を蘇生する奴はいないぞ。お前と話していると、どうにかなっちまいそうだ……」

 頭を振りながら、ため息を吐く。


 俺たちはスオレとリオーニスが作った長椅子に座ってくつろぐ。

「俺は迷宮都市『イルセン』で起こっている〈毒針〉の事件を調べていた」

 キツネの国と迷宮都市『イルセン』は仲がいい。

 しかし、キツネの国側で入荷できる〈毒針〉を用いた事件が頻発すれば、否応なく疑われるのが、手に入れやすいキツネの国になる。

「竜巻のあった日に見張りの者から大規模な戦闘が行われたと聞いて、急いで駆けつけたんだ。だが、何者かに痕跡を消されて足取りが追えなくなっちまった……」

「あぁ、あれはリズの()()魔法だな」

「…………」

 リッキーは呆然。リズはすごい勢いで慌て出す。

「ニャ! バラしたらマズいニャ! リッキーが裏切ったら一気に広まるニャ……」

「もう広まっても、犬の国の『宮廷魔導師』はすごいってなるだけだ。あまり深く気にするな」


「なら、あの時のペコペコ集団はお前たちだったのか?」

 俺は宝箱に呼びかけてペコペコを一体呼ぶ。

 すぐに宝箱から顔を出し、周囲を確認する。俺の方で顔を止めると、サッと()を上げて『ヨッ!』ってした。それはあいさつとしてどうなんだ?

 段々人間に近くなってきた。母親は人間か……。

 宝箱の裏側にいたリズに気が付くと、宝箱から出て丁寧に頭を下げる。お前……、リズを落としたペコペコか? そうだろ?

 全然態度が違う。

「確か俺が見た奴は、変な動きをしていたぞ……」

 今のも充分変だったと思うけど、よくスルーできたな。俺なら間違いなく突っ込んでいる。

()()()が見たいそうだ」

 俺の言葉にペコペコの目が光り、羽を差し出してきた。『一緒に回りませんか?』

「一人で回れ!」

 差し出された羽を払うと、その勢いを活かして、クルクル回り出す。開始の合図に利用された……。

 一連のやり取りを静かに見守っていたリッキーが突然パチンッと足を叩く。

「俺が見たのは、そのペコペコだ!」

 スケートをやり始めてから、回転速度が上がった気がする。これだけでは全く使えない能力……。

 それに止めるまでずっとクルクル回っている。

「もう回るのをやめていいぞ」

 回っているだけなのに、何が楽しいのだろうか……。正直理解できん。


 回るのを終えると、勝手に長椅子の端に座った。羽毛の中からマイ水筒を取り出してストローでチューッと水を飲む。お前の羽毛の中もアイテムボックスですか?

 視線に気が付くと、サッと隠した。みんなお前しか見てなかったんだが……。

「お前のテイムモンスターは変わっているな……」

 ペコペコの方を向いて言っている。

 ところが、パンダ様はパンダ様で鉛竹槍を素振り中だ。

「ペコペコ()俺のじゃない」

「でも、命令を聞いているぞ?」

 長椅子の横にいる宝箱を指差して説明する。

「信頼関係がなせるわざだ。この宝箱も家族以外には使えない」

「……そうすると俺も捕虜たち(あいつら)もここに監禁されているのと同じって事になるのか?」

 ワープポイントがある二一階層なら入口に飛べるが……。

「部屋を移動したら即死だから、自殺する場合を除けばそういう事になるだろうな……」

 俺は笑って答えた。

「本当に二二階層なのか、試したかったらどうぞご自由に」

 リアラが微笑んだ。鬼か!

「いや、町にいるよりもここにいる方が気が休まる。まずは奴らから情報を聞き出せばいいんだな?」

「あぁ、欲しい物があったら言ってくれ。可能な限り用意させる。あとリアラのお古で良ければ、さっきの杖はやるぞ?」

「では、ありがたく頂戴する」

 魔法職には杖は命。与えなければ信頼は勝ち取れないだろう。

「〈毒針〉なら一〇〇本近くあるから、勝手に使ってくれ」

 セットで回復と解毒アイテムを用意しておく。

「死ぬ覚悟がある者たちだからな。口を割らすのに時間がかかるかもしれないぞ……」

 なるほど。


 リッキーが『緊急連絡』と言ったら、連絡が取れるように宝箱の設定を変更した。

 他にも誰かが死んだ場合、連絡が来るように宝箱に頼む。

「俺たちは一旦引き上げる。急がないからのんびりやってくれ」

 大箱君の部屋に移動すると、後ろから声をかけられた。

「あの者だけを残して本当に大丈夫なんですか?」

 ノルターニ宝箱の扉を睨み付けている。

「リアラはまだリッキーが嫌いなんだな……」

「それは……」

「別にリアラが嫌いなら、嫌いのままでもそれは構わない。でも、俺たちの代わりに汚れ役を引き受けてくれている事だけはきちんと評価してやってくれ」

「……はい」

 頭に手を置くと、どうにかそれだけ絞り出す。

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