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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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ずっとこちらのターン!

 敗北したテイールはすぐに回復魔法での治療が行われたが……。

 とかげのしっぽは切れた瞬間から新しい物に生え変わるため、部位欠損扱いにはならない。そのせいでいくら中級回復魔法をかけても失ったしっぽが復元される事はない。だからこその強さの象徴だった……。

 この件に関して、もちろんリズに責任はない。責任が発生するとすれば相手を二回殺してしまった場合のみ。

 今回のは不慮の事故で装備が破損したのと同じ扱い。


 リズがめでたく一回戦を突破した事で、大会側が犬の国の席を用意してくれた。貴賓席とまではいかないが、周りの貴族を移動させて作った空間。

 今から特別扱いをされてももう遅い。

 こちらから頼んだわけではないし、周りに聞かれて困る話をするつもりもないから、あっさり断った。


 炎の海は会場にいた貴族(有志)の魔法職八人係りで消火作業が行われる。

 王族関係者へのいいアピールに利用するつもりだったのだろう。

 しかし、炎の勢いは強く、消すだけで一〇分もの時間を要する。予定をかなり押したため熱で溶けてガタガタになっているリングをそのまま使用して大会が続行される事に決まった。


 リズは選手用に用意された椅子に座って懐から出したご主人様人形を抱きながら足をぷらーんぷらーんとさせて遊んでいる。

 将来の『宮廷魔導師』を品定めするためだろう。天幕などはない。

 だからこそ、緊張から解放されて自分の世界に入ったリズのマイペースさが丸見えで目立つ。

 俺そっくりの人形を愛でているけど、呪いの人形と思われていないだろうか? みんな軽く引いている。


 すぐに第二試合が行われたが、さっきの迫力と比べてしまうと全く見所がない。

 使っている魔法が二人とも()というのも、見ていてつまらない要因の一つだろう。

 どちらが招待選手なのかもわからないぐらいの拮抗だ。

「もしかしてトカゲの()()って実力派だったのか?」

「さぁ? どうなんでしょう……」

 世情に疎い俺たちの呑気な発言に周りに座っていた貴族たちが離れていく。


「みんな試合を見ていないな……」

「そうみたいですね」

 貴賓席を見ると俺たちの方とリズの方と(せわ)しなく行き来しているのがわかる。権力者のトップはこそこそ見るとかはしたことがないのだろうな。目が何度も合うのに、逸らす気がない!

 先手を打ってリズを『宮廷魔導師』に登用した犬の国。試合が終わってから唾を付けるのでは遅すぎた。

 王族たちの先見の明が試されて犬の国に敗北した形だ。露骨に悔しそうな顔をして睨んでいる者さえいる。

 登用に関しては完全に出来レースだけどな!

 目立って周りにちょっかいをかけられるぐらいなら、犬の国の『宮廷魔導師』の肩書きで家族を守る。そのお披露目の舞台が『魔闘大会』出場。

 犬の国を怒らせるとリズが動く。リズを怒らせると犬の国が――動かないけど、俺たちにも犬の国にも双方にウィンウィンの提案だった。


 途中、圧倒的な試合運びをする〈魔導師〉はいたが、正直リズの相手にはならない。どんどん試合が進み、一回戦最後の第八試合。

「今話題の選手の登場です。蜂の巣を吹き飛ばした『竜巻のリッキー』!」

 あいつだ……。

 テイールを超える歓声が響く。さすが、話題の人物。

 リズとはトーナメント表でちょうど反対側。決勝まで勝ち進んでくれるだろうか……。

「対する相手は、第一試合の勝者リズール選手と同じく犬の国に登用されたリアラ選手!」

「ぶっ! お前なに勝手な事をしているんだよ!」

 一国の王族を平気で『お前』呼ばわり。

 周りの席がまた空いた。

 どんどん俺は悪者になっていく……。

「リアラさんも参加したくて町の中を徘徊していたらしいですよ。休暇を利用して迷宮都市『ミルシオン』で()()()惹き付けられる石を見つけたそうです」

 休みの過ごし方をとやかく言うつもりはないが、馬車で半日、ペコペコなら数時間。町から出て移動するなよ!

「どうせ注目を浴びたならもう変わらないか……」

『犬の国に登用』というだけで、よくわからない箔が付いた。

 注目度満点の試合。貴賓席もリッキー目当てだった人もリアラという選手を固唾を飲んで見守る。

 あれ? でも、あいつ確か――徹夜組じゃね?

 狼だから一日ぐらい平気なのか?


 サプライズで登場するためだろう。リアラはフードを被っていた。

 リッキーは自分に注目が集まっていない事を妬んでケンカを売る。

「所詮、品のない野良猫の火事場の馬鹿力(まぐれ)だった事を証明してやる。まずはお前からだ!」

「それでは蜂の巣を吹き飛ばしたというのが()()かどうか試させてもらいましょうか? きっととてもお強いのでしょうね?」

 リアラ、楽しそうだな……。家族の恨みを一人で晴らすのか。

 フードを脱ぐ。可愛い耳がピーンと立っている。

「お前――オオカミか? オオカミは魔法を使えぬはずでは……?」

 なるほど。種族的には犬に近いから前衛に分類されるのか……。

「そうですね。()()魔法しか使えませんので、お手柔らかに……」

 リアラがリッキーに微笑んだ。

 わざわざ自分から魔法の属性を言わなくてもいいのに……。


「それでは始めてもらいましょう!」

 審判がコイントスをしてダッシュ。

「どうぞ」

 リアラは先手をあげるようだ。

「食らえ! 蜂どもを一掃した俺の魔法!」

 リッキーはいきなり風魔法を披露する。

「それでは壁を張って、防ぎましょうかね……」

 氷壁を展開し、前回、風防御用としては不完全だった反省点を踏まえて、今回は氷が浮かないようにリングに杭を打ち込んで固定。氷壁の中心に支柱が立ったようにも見える。

 これでもう氷一枚でも飛ばされることはない。


 風魔法って【風向き感知】をオンにしていないと視覚化されないからわかり難いんだよな……。

 リッキーの杖から風の線が何本も出現してリアラに迫る。

 リアラは氷壁の中で()()魔法が到達するのか、探っていた。

 しかし、リッキーは杖を下ろす。

「ま、まさか、終わり……ですか?」

 リッキーの風魔法が期待していたよりも()()()だったのだ。

 実は氷壁の周りをスーッと撫でただけ。ドーム型の氷壁は風の勢いを逃がしやすい。この形こそが風魔法対策としてはすでに充分だった……。

 あまりの拍子抜けにリアラが逆に戸惑っている。


 本人は気が付いていないかもしれないが、いつも防げないで挫折していたのは全部合成魔法。

 毎度規格外のリズの相手ばかりをしてきたため、感覚がずれているのは仕方ない。

 会場にもざわめきが走った。こちらはこちらで無理もない。

 薄い氷の壁を吹き飛ばせないのに、蜂の巣に勝てるわけがないと思われている。

 巣を焼いて消滅させたなら、運次第では誰でも出来ただろう。除去した方法が風魔法だというのが難易度を跳ね上げていた。

「こうなったら()を食らえ!」

 四メートル級の火弾が氷壁に衝突する。

 狐火って単語があるぐらいだからな……。狐族のリッキーは火が得意だったようだ。

「馬鹿め、動けない壁など張るから、狙い撃ちにされ……され……」

 大きい火の魔法が視界を遮っていたが、魔法の効果が終わってみると、氷は健在。

 リッキーは目を見開いて驚いている。

 その氷はリズの合成魔法を想定して作られた壁です! 普通の威力じゃ破れませんよ!

 続いて水、土と試すが、氷壁を取り去る事はできなかった。

 リアラの実力なら相手を瞬殺することなど、造作もない。だが、それをしてしまうとリアラが強すぎてリッキーが勝てなかっただけで終わってしまう。

 全種類の魔法を撃たせる事で、相手の無能さを知らしめる狙いがあったのか……。

 単純に一撃で倒すよりも効果的だ。

 何秒魔力を練り上げてもいいのに『氷一枚破壊できない男』


 溜め息を吐き、宣言する。

「避けてくださいね」

 リアラが氷壁を通して氷塊を飛ばしていく。

 初めて二一階層へ行った時、リズの作った火炎の海を氷で消火していたのを思い出す。

 もう相手の壁を破壊する術を持たないリッキーと、壁の中からでも外へ攻撃する術を持つリアラ。

 俺にとってはどんどんつまらない試合展開になって来たが、王族関係者たちは逆に釘付けになっていく。

「守備と攻撃を両方こなせる魔法として注目していますね」

 侵入者から王を守るために氷壁を張り、敵を倒すために氷壁を出るのではなく、そのまま攻撃に転じられる。

 ずっとこちらのターン!


「早く試合を終わらせろよ」

 俺がボソッと呟くと、リアラも飽きていたのか……。

 巨大な氷剣をリッキーのすぐ目の前に突き刺す。

 ギリギリのところで、直撃を回避して後ろに倒れ尻餅をついた。

「あなたの実力で本当に()()を出せるのかしら?」

 リアラがキッと睨むと、リッキーは嘘だと白状してから()()する。

「そこまで! 勝者、犬の国のリアラ!」


 モズラ様情報では『魔闘大会』の降参は結構勇気がいるらしい。見ているのが王族関係者、言ってしまえば御前試合だ。指輪をしている以上、死闘の末の気絶か死か……。

 リッキーはキツネの国の恥を晒したという事で国を追放される事が決まった。


 リアラは氷を破棄する(片付ける)と、嬉しそうに手招きをしているリズのところへ向かう。

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