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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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審査

 翌朝。

 狼ちゃんを少し小さくして馬車をゆっくりと引かせた。

 例え極小になったとしてもステータスに違いはないので、大きさに関わらず充分に戦闘が行える。

 町周辺で最大サイズにしていると周りが怖がってしまう可能性が……。過去の失敗談より。

 宝箱は馬車の中に入れ、全員で()人にして一台の馬車の旅でも不自然がないように細工をした。

 俺は呑気に御者の席で狼ちゃんの手綱を握るだけ。テイムモンスターなので、大した指示をする必要がない。

 ペコペコたちは目撃されている恐れがあるため、迷宮内以外ではスケートリンクで遊ばせておけば静かだろう。


「もうすぐ町にゃん!」

「町まで競争ニャ!」

 町を守る壁ではなく、警備をしている兵士の顔が見える位置まで来ると、アイーリスとリズが待ちきれないと言わんばかりに馬車から飛び出して走っていった。

「大丈夫だとは思うが、アキリーナ。面倒を見てやってくれ」

「わかりました」

 アキリーナが二人の後を追って走っていく。新しい町が楽しみなのだろう。アキリーナの足取りも軽い。

 馬車に残っているコーシェルに話しかける。

「ここまで来るのに、誰にもすれ違わなかった割には、警備の人数が多くないか?」

「それは私も不自然に思っていました」

 検問のような物々しさだ。

 まだ調べていないが、炭鉱の町の丘側の出入口のような感じだと思っていた。

 この町の向こう側にも迷宮都市があり、わざわざ治安の悪い『イルセン』に行くよりもずっと近いし安全な都市だ。


『イルセン』から変な人が流れて来るのか?

 それにしては、急に慌ただしく人が走っている。

()がすごい速度で増えています」

 ケーレルが『箱入りリズ』スタイルで伝えてきた。

 この場合の敵とは敵対心を持った人の事だ。

「緊急連絡。囲まれても合図を出すまでは武器を抜くなよ」

 家族に注意を促す。馬車の裏から出撃すれば、多少物理的に人数オーバーをしていても、問題ないだろ。

 リズたち三人は前を塞がれてダッシュで戻ってきた。


 どこにこれほどの人がいたんだろうと思えるほどの人が立ち並ぶ。

 数は三〇人ぐらいか? みんなテイムモンスターを従えている。一人二体としてこれだけで九〇人相当の戦力だ。町を守るだけの衛兵にしては初級職のレベル一五と無駄に高い。それにお揃いの鉄装備。

「物騒な町ですね。何かあったのですか?」

 最初は友好的にいきたいけど、剣や槍などの武器を向けて整列されると、攻撃は効かないとわかっていても怖いな……。

 アキリーナが馬車に近付いてギリギリ聞こえる大きさで確認をしてくる。

「犬の国の称号を見せますか?」

「まだ大丈夫だろ」

 自分でも忘れかけていたが、俺って一応()()の仲間入りをしているんだよな……。


 兵士の列が割れて、他とは違う鋼の装備を身に付けた若い男が前に出てきた。

「そこの小さいのが首に下げているペンダントを見せろ」

 手を前に出して命令口調だ。

「人にものを頼む態度ではないと思うんだが?」

 兵士たちに怒りの色が見える。

 怒気が上がったかな?

「君は私が誰かわかっていないようだね?」

「わかっていないな」

 あんたもだけどな!

 リズがポンッと手を叩いて……。

「きっと偉い人ニャ!」

 それはみんなわかっているよ……。どの程度偉い人なのかがわからないんだ。ステータス表示に役職を載せてくれれば簡単にわかるのに……。

 でも、所詮は町だろ? 若いけど町長か?


 クラリーがそっと宝箱を開けて確認するが、馬車で五日もかかる町では、例えこの人がお偉いさんだったとしても顔は知らないらしい。無言で宝箱を閉じた。

「俺たちはそこを通りたいんだけど……?」

 エヴァールボが会話を聞いてボソッと助言してくる。

「慣れない事をしていないで、さっさとペンダントを見せた方がいいんじゃないですか?」

 偉そうな奴って嫌いなんだよ……。

「アイーリス、ペンダントを貸してくれ」

 首からペンダントを外し、丸めて渡してきた。

「はいにゃん!」

 俺はそれを偉そうな男に向かって、投げる。

 っと問題になりそうなので、コーシェルに渡す。

 コーシェルが馬車から下りて、中央で兵士に手渡した。


「急いで鑑定させろ!」

「はい!」

 偉そうな男が指示を飛ばすと、すぐに鑑定結果が戻ってくる。

「こちらのペンダントに使われている石は『猫目石』でございます」

「なん……だと? ではあの者たちではないのだな?」

「……はい」

「フンッ!」

 それだけ確認すると剣に血が付いたわけでもないのに、振ってから鞘にしまい、さっさと帰っていった。

 斬る理由か何かにされたのかな?


 口許を手で隠して馬車の中の家族に文句を言う。

「こんな風に事情を説明しないで、勝手にいなくなるから嫌だったんだよ……」

 それを聞いた家族からは乾いた笑いが返ってきた。

「それで? よくわからないけど、誰かこの状況を説明してくれるのかな?」

 ペンダントを鑑定した女だけが残り、あとは偉そうな男と同じで何事もなく、引き上げていく。


「昨日の朝方に四方の道付近で巨大な竜巻を目撃したと、空を巡回していた者から連絡がありました」

 おそらく『四方の道』とは夜営をしてたポイントだ。十字路になっているため全部で道が四本ある。

 ノルターニのように空を飛べる種族が見回りをしていたのだろう。馬車で三日の距離でも直線距離なら程度が知れている。

 やはり大きすぎる魔法は目撃者がいたな……。

 本人は『台風』と名付けているけど、世間一般的にはあれは『巨大な竜巻』でしたね。

「そんな事があったのか……。進行方向とは逆だから全然気が付かなかったな」

 目配せをするとアキリーナがアイーリスを抱っこして気をそらせる。

 あいつは暴露娘だから、リズよりマズイ。

 リズの方は必死に狼ちゃんの頭を撫でている。もう何かをしていないとダメらしい。動きがガチガチだ。


「竜巻が発生するとペンダントのチェックが必要なのか?」

「事情を知らねばビックリされると思いますが、国の方へ進んだ先に『スズメバチ』の巣があり、警戒態勢を敷いていたのです」

「俺たちは危ないところを気が付かずに接近していたんだな……」

「ご安心ください。もう巣は跡形もなく破壊されています」

「まだペンダントと話が繋がらないんだけど……?」

「実はお嬢さんが持っていた『猫目石(キャッツアイ)』と蜂のジャイアントからドロップする『雀蜂石(ホーネット)』の見た目がとてもよく似ていまして……」

 猫目石は黒い石に黄色いライン。

 雀蜂石は黄色い石に黒いライン。


 雀蜂石は宝箱の中に入れてある。石ころと見間違えずに拾うことができたのは鑑定のおかげだ。なければドロップアイテムだと気が付かずに、きっと見つけられなかった。

「その雀蜂石だかを持っていると何かあるのか?」

「はい。ここ最近、迷宮都市『イルセン』では〈毒針〉による被害が出ています。その事が迷宮都市『ミルシオン』で問題視され、『ここから先に持ち込ませるな』っと()()がこの町に出向き警戒態勢を敷いていた次第です」

 なるほど。あいつはこの先にある迷宮都市の下っ端貴族か……。

 雑用貴族でも、一般人には充分に幅を利かせられる。

 大量の〈毒針〉が見つかれば、すぐにでもお仕事から解放されるというわけだ。ご苦労様、一生警戒しててくれ……。


 女が少し距離を詰める。

「私はアイテムだけではなく、モンスターの鑑定もできます。そちらのテイムモンスターは小さくしてカモフラージュをしていますが、ジャイアントウルフですよね? それもかなりの高レベル。私の鑑定ではレベルが『不明』になるぐらいの……。狼ちゃん(彼女)ならきっと一日でここまで移動ができます」

 この女なかなか鋭い洞察眼の持ち主だ。

 低レベルの〈鑑定士〉では識別できる範囲が決まっていたんだな。知らなかった。

 ケーレルの〈斥候〉もレベルが上がることで索敵範囲が広がったから、同じようなものか……。

「でも、長生きをしたいので、あまり詮索はしないで私の中だけに仕舞っておきます」

 ペコッと()()()()()に頭を下げて引き上げていく。

 鑑定があれば、アキリーナが王族である事はわかったはず。その王族を視線だけで扱ったのを見られていたか。

 モグラ族のラルン。覚えておこう……。


「あの娘さん、若いですし、家族に迎えてはどうですか?」

 エヴァールボもラルンの特異性に気が付いたな。

「『鑑定』がいらないですけどね」

 ボソッと俺の心を読みやがった。


 疑いが晴れた俺たちはさっそく町の中に入る。


 宝石の町『コスモス』

〈細工師〉のクラリーのためにあるような町だ。

 そこかしこで、でかい宝石の指輪を付けている者が歩いている。

 装備よりもアクセサリー重視だな。

 炭鉱の町と違い、金持ちの道楽者の集まりか……?

 路上販売では石ころに色を塗って並べている。

 って全部偽物じゃねーか!

 あ、そうか。わかった。町に〈鑑定士〉がいるんだから路上で本物を売っていたら、根こそぎ買われるのか。

 なら、偽物を置く意味は……。

「このピンクの石が入った瓶、綺麗だニャ……」

 鴨がいた……。

「今なら『半額』で一〇〇〇モールにゃん!」

 鴨が二人。半額に釣られたな。

 その辺りに落ちている石をピンク色に塗っただけの小石だ……。一モールの価値もない。

 御者をコーシェルに任せた。


「はい。行きますよ~」

 猫掴みをして輸送する。母娘(おやこ)で仲良くタラーンッと力が抜けて抵抗しない。

「ハッ、もしかして、騙されてたニャ?」

 顔だけこちらに向けて確認してきた。

「お? よくわかったな……」

 やっと学習してきたか?

「色を塗っただけの石だ」

「でも、綺麗だったニャ……」

 名残惜しそうに路上販売を目で追っている。

「まずは拠点となる宿を探して、みんなにお小遣いを配るかな」

 エヴァールボがすぐに指摘してきた。

「まだ全員が町に入った事にはなっていないので、明日にできませんか?」

「迷宮都市『ミルシオン』側から入るのか?」

「はい。その方が安全かと思います」

「わかった。宿を借りて、すぐに迷宮に行く。それまで少しだけ待っててくれ」

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